第133話 虹の森にて2
あ…アレッ!?
もしかしてアタシ押されてる?
てか、ヌルヌルしていてキモーイ!
本来の姿に戻ったハンターの表面は粘膜でコーティングされているらしくヌルヌルしていてインパクトの瞬間、逸れてしまうが為に打撃技の効果はイマイチだ。
ならばと刀を創り出し斬りつけたり鎌鼬で攻撃してみたが何れも硬い鱗に阻まれて蚊に刺された程度のダメージしか与えられていない。
アレもダメ
コレもダメ
って…この状況って手詰まりじゃない?
激しく続く攻防の中、必死になって打開策を考えていた天音だが明暗が浮かぶ訳ではなく無駄に消耗するのみ。
「天音ちゃんは料理に興味があるのかい?」
みず乃の厨房で鯛を捌いて活造りにしている恵美の包丁さばきを目をキラキラさせて見ていた天音に声を掛けた社長に驚きながらもウンと返事をするとニッコリ笑顔でやってみる?と言い出し一匹の魚を指さして言う。
そう言えば魚のヌメリ取りとかには酢を使うと良いって言っていたっけ(魚のヌメリ取りや内蔵取った後にお腹の洗浄に酢を使うのはリアルで有りだそうです。気になった方は試してみては如何でしょうか?)って…無いし…
アッ…そうだ…あの子の事を忘れてた…
天音の教育期間で知り合った妖怪や幻獣の中には人間界の事をもっと知りたいと思っている子達も多々居たわけで、特に食事の事には異常に興味を持ち、数ある料理の中でも寿司を始めとする和食とラーメンとお菓子は大人気で人間界へ修行に行きたい魔界でも広めたいと夢を語る子も居た。
何故、妖怪や幻獣達が人間界の料理やお菓子の事に興味を持ったかと言うと、それは左近と社長の影響が強い。
中でも一太郎と名付けた3つ目の妖怪は寿司がとても気に入った様子で右近の監視付きではあるが、わざわざ秘術 人化の法を使い人間界で寿司職人として修行をした程だ。
一太郎君…来て…!
此処は幻獣界であり、妖怪である一太郎がこの場に来れるかどおか解らないが一太郎の姿を思い浮かべて一心不乱に念じる。
そうこうしながらもハンター半魚人は天音を追い詰めて行く。
ハンター半魚人のミドルキックが天音を捉え、受け流すことが出来ずに吹っ飛ぶ。
「おっと危ない…」
吹っ飛ばされた先の樹に激突するかと思った瞬間、突如として出現した青年に受け止められて難を逃れる事が出来た。
誰にも頼ろうしないで1人で解決しようとするのは悪い癖ですよお嬢。
ハンター半魚人を睨み付けながら優しく諭すように話し掛ける青年。
寿司職人が着る服を着こなし、フツメン以上イケメン以下の微妙な顔にサッパリと刈り上げられた髪の毛には捩り鉢巻きをした見るからに威勢の良い寿司職人と言った青年こそが妖怪寿司職人 一太郎である。
一太郎君…ありがとう…
もうダメだと思った所の助けにホッと胸を撫で下ろす天音に小言の一言でも言ってやりたい気持ちになったが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「知ってますかい!?半魚人って種族は捌くのにちぃ〜っとばかり手間はかかりますが、メッチャ美味でしてね…特に鍋料理や酢飯との相性は最高なんでさぁ。アイツなら最高に旨い事間違いなしですぜ」
狂気に満ちた笑みを浮かべて半魚人を見る一太郎に対して本能的にヤバいと感じた半魚人ではあるが、標的を前に逃げ出すと言う事はハンター稼業を廃業どころか逆にハンターに追われる事になりかねない。
ヤベェ…深追いしすぎたか…どおする…
先程までの余裕は何処へやら。ジリジリと間合いを詰めてくる一太郎に恐怖すら感じるハンター半魚人はこの場をどおやってやり過ごそうかと思慮するも
「無理だな…お前は既に俺のまな板の上だよ…さぁ、始めようじゃないか」
ハンター半魚人の足元に出現する巨大なまな板を見下ろし舌舐めずりして包丁を構える一太郎が酢と書かれた酒瓶に入った液体をグイッと口に含みブゥ〜っと霧吹きみたいにハンター半魚人へと吹き掛ける。
「覚悟は出来たかな?」
「や…ヤメロ〜!!!
グェッ!!!」
1時間後
「ヘイお待ち!」
「旨っ!」
「なにコレ…ホントに美味しい!」
哀れハンター半魚人は一太郎に捌かれ美味しく調理されましたとさ…合掌…
………
……
「・・・あの寿司食いてぇ・・・」
「ホント・・・てか、何でも一人で事を進めようって所はアンタに似たね」
「少しは周囲を頼る様にしているのだけどなぁ」
「ぜんっぜん足りない!生きていたなら浮気されてヨシだよ!」
「ンナ!?何でそうなる!」
「何でも一人でやろうとするから周囲の人はアイツには自分達は必要ないって思われて心が離れるって事よ」
「コレばかりは性分なんだよな…」
「それでも相談して欲しいって事!一人より二人二人より三人って言うじゃない?」
「その話は後回しだ。先ずは邪魔者を掃除しないと…な!!」
虹の森 カーバンクルエリアにて
万が一を考慮し、天音達に着けた追跡型アンテナの映像を確認しつつもしつこい程に食い下がる追手の攻撃を躱し、細やかな反撃をしつつ漸く辿りついたカーバンクルの住処。
「警戒しているね」
「まぁ、当然だわな」
シーンと静まり返ったカーバンクルのエリアを突っ切る様に駆け抜けようとしたのだが、先回りされてしまい取り囲まれてしまう。
「何も殺そうとしている訳じゃねぇ大人しく投降すれば良い話だ!」
レイとコヨミを追っていたハンター共のリーダーらしき妖怪が呼びかけて来る。