第130話 どおしてこうなった2
「そ…その声は…」
森中に響き渡る様な大音声に怒りに満ちた妖精達の動きがピタリと止まったと思ったら今度はガクブル状態になってしまった妖精に対して睨みを利かすピンク。
そう言えばピンクも妖精だっけか?てか、俺が密猟の罪に問われるのは仕方がないとは言え、何で家族まで巻き込まれにゃならんのだ?
理不尽‥‥‥‥‥
無実の罪を着せられて来たくはなかった魔界へと連れてこられて挙句の果てにこれかよ!
得体の知れない感情が支配していくのが解る。
ヤバいと思う気持ちと冷静にならなければと思う気持ちが俺の中でせめぎ合い爆発しそうになった時。
スパコーン!!
ってぇ〜〜〜〜〜〜〜…
強烈な痛みが脳天から地面へと突き抜け、あまりの痛さに頭を抱えてその場にしゃがみ込む俺。
「気持ちは解るが落ち着け!」
俺にダメージを与えたのは言わずと知れたハリセンで、そしてハリセンを振るったのはコヨミでも真智子でもなく楓夏様だった。
いやぁ〜…危なかったぜ…もう少しで暴走する所だったよ。シッカし楓夏様って、時々俺の性格を理解している様な動きをするのな…
まるでおかあ…って…無い無いそれはゼッテー無い…筈…てか…記憶がないので楓夏様が母親だったらなぁ…なんて思ったりする俺がいる訳だけだよ…
話が横道に逸れそうなので戻すよ。
「フッ…犯罪者同士で仲間割れか!?」
突然の出来事に驚きながらも皮肉タップリに言うリーダーの挑発にも表情一つ変える事なく
「なぁに…コヤツの頭を冷やしていたところよ
さもなければ貴様達なんぞ全滅させられていたやも知れぬからのう」
と、宣う楓夏様。
そんな楓夏様の態度に内心ムッとしながらも平静を装って強気な発言を繰り返すリーダーに対して
「舐めてはおらぬよ
水神の下で修行したコヤツ等が本気になれば貴様らなんぞ一瞬じゃぞ」
と、言い放つ楓夏様にブチギレ寸前にまで怒るリーダー。ダメだ…あの妖精…相当な単細胞だぜ…まぁ、そっちの方がやりやすいのだけどね。
「秘密警察とあろう者達が何故犯罪者達を庇い立てする!」
尚もリーダーを挑発するかの様な楓夏様の発言にいい加減にブチギレました状態のリーダーが仲間の妖精を俺達にけしかけようとした時…ピンクの大音声を上回る大音声で響き渡る上から目線の女性の声。
その声に能面の様な表情になりながらも
「お言葉ですが、コヤツ等は我等の管轄であり、観察の対象でございます。秘密警察の名の下に保証します!コヤツ等は一切の犯罪行為はしておりません!!」
とか宣うピンク。
一体誰と話しているんだ?
「では問う!粗奴らの指名手配は魔界警察長官 山本八郎座衛門殿が出したもの
もしや山本八郎座衛門殿が嘘を吐いて皆を嵌めようとしているとでも申すか!」
山本八郎座衛門だとぉ!?
アイツ…
指名手配をした理由は明白だわなとは思ったけど、ローラの存在を知ったアイツが密猟をでっち上げて俺達を闇に葬る方向に仕向けたのだろう。
色々と疑問があるのだが、ピンクと謎の声との話は続く。
「その通り!レイ!ローラを!」
ピンクがローラを出せと要求するが、肝心のローラは引っ込んだまま出て来ようとしない。
すると、これまで成り行きを静観していた真智子がローラの耳を掴んで引き摺り出して来て
「この子は以前、虹の森で幻獣狩りがあった際、ハンターの目を盗んで人間界へと逃れレイの中に避難していただけ!だからレイは密猟者ではない」
と憤慨しながらも言い放った。
真智子の話は半分は真実で半分はでっち上げ。
虹の森での幻獣狩りは真実であるが、人間界の年数に換算すると100年も前なのだ。
要は100年も前の出来事なのに俺が関われる筈が無いだろう。それに、単なる人間風情が魔界の特別保護区である幻獣界で狩りなどと大それた事が出来るわけないと言いたいのだ。
てか、真智子よぉ…ローラの耳を掴むのは止めてくれよ。痛がっているじゃねぇかよ。
憤慨する真智子からローラを引っ手繰る様に奪った楓夏様が慈愛に満ちた表情を向け胸に抱き頭を撫でながら
「この子をひと目見たお主なら事情を理解出来る筈!それでも魔界警察の大義名分を信じるか!」
と、真智子の言葉に被せる様に言い放つも
「ほぉ…仮にも風神とあろう者が人間風情に加担しているとはのう…もう良い!お主達全員纏めて逮捕して魔界警察へと引き渡してくれるわ!」
と、尚も自らの言動を変えないと言うか引き下がる事を知らない妖精達。
最早乱闘は避けられんかと思っていた矢先、突然笑いだしたヒーロー達に呆気にとられて思わずポカーンとしてしまう俺達にイエローが後でキチンと説明させて貰うからと言うと、明後日の方向に向かって妖気弾を放つと何もない筈の空間で爆発し、そこから黒い物体が落下してきた。
「しつけぇ〜んだよ!モネ!上手く化けたつもりでもテメェのモノマネはぜんっぜん似てねぇんだよ!」
その黒い物体に向かってレッドが叫ぶと、もう少し騙されたフリしていたかったのにとブツブツ言うピンクとは裏腹にブルー・イエロー・ブラックは大爆笑。
まぁ、それだけモネとか言う妖怪のモノマネが似てないし面白くて仕方がなかったと言う事なのだろうけど、何だかなぁ…
「いやぁ〜女性のモノマネなんぞしたことが無かったので…然し、そんなに似てませんでしたか?」
妖気弾一発では流石に仕留められなかった様子で元の姿に戻りながらそんなことを言い出すモネ。
「0点じゃレ・イ・テ・ン!お主のモノマネなんぞ人間界のモノマネ芸人より遙かに劣るわ!」
そう言い放ったのはなんと楓夏様だった。
楓夏様の言い回しにエッ!?となるヒーロー達とは反対にガックリと項垂れるモネ。自分のモノマネに余程自信が有ったのだろうな。
そう言えば、楓夏様は天音とゆう子と一緒になってエンタメ番組やモノマネ番組を視ながら上手いとか下手くそだとか言いながら食い入る様に観ていたなと思い出していると
「ほぉ…それが件の…事の経緯を然と話してくれるのだろうな」
と偉そうな言葉遣いながら威厳を持ちながらも澄んだ女性の声が森中に木霊する。
「フンッ!視ていたのならもっと早く出てきたら良いものを…相変わらず人が悪いのう…妖精女王リリスよ!」
森の奥からシズシズと歩き出た女性。神々しいオーラを纏いゴージャスな服装を着込んだその姿は正に女王様としか言いようがないが、如何せん顔が…いや…それは言わぬが花だろうよ。
でも、スタイルは抜群と言うよりパーフェクトボディの持ち主とだけ言っておく。
妖精達は予期せぬ出来事だったのだろう。リリスの出現に恐れ慄きながらも膝まつき頭を垂れる。
「フンッ!
貴様の顔なんぞ二度と見とうなかっただけじゃ!
のう、暴走戦鬼 楓夏よ」
言葉にこそしなかったが、その二つ名を訊いて驚いたと同時に納得もした俺を物凄い形相で睨んだかと思ったら直ぐに何時もの表情に戻り
「魔界不美人妖怪NO1のお主には言われとうないわ!」
と返す。
罵りあったせいなのか解らないけど、二人の間に険悪な空気が漂い始め、一触即発の雰囲気を醸し出すが、それを察したレッドが慌てて仲裁に入ろうとするも
「「お主は黙っとれ!!」」
と二人同時に一喝されてしまい、口を挟める状況では無くなってしまう。