第127話 脱出
・・・!!
ッ・・・!!
右腕を刀に変えて無言でコヨミに襲い掛かる魂喰の攻撃をまるで舞うかの如くヒラリヒラリと躱して行くコヨミ。
………
……
水神様の社にて
コヨミと魂喰の激しい攻防が続く中、境内の空一面に映し出されたレイ達の戦闘を黙って見ていた水面と楓夏(本体)。
黙って視ているのだが、イライラが止まらない様子で鬼の形相になっている。
「レイの悪い癖が出たようじゃの
アッサリと負けよって!」
「全くだ!あの程度の小物なぞ速攻で片付けられる筈だ!」
その時、悪い癖とは何ですか?と声を掛けてきたのは雲海だ。面識が無いだけに雲海はレイのことを知らない。
それだけに質問して来たのだ。
「それはの…」
3人の中で一番レイの事を知っている楓夏が口を開く。
レイの悪い癖とは
相手の強さに併せて無駄に戦いを長引かせてしまうこと。
そして、無用なピンチを招いてしまう。
曰く、勝てる相手なら躊躇なく勝ってしまえと言うのが楓夏の持論。
これには水面も同意であるが楓夏同様にレイの事を心配していない様子だ。
然し、そんな2人に対して異を唱える雲海。
「以前の事は知りませんが、何か理由が有るのではないのですか?あの妖怪の能力は幽霊にとっては危険極まりないですし」
「「ある訳無かろう!!」」
雲海の異論に見事なハーモニーで返して来る水面と楓夏はレイに対しては単なるバカと言った印象が強い様だ。
雲海は2人の言い分に果たしてそうなのかと疑問符を浮かべて戦況を見守る事にする。
………
……
全く…面倒な幽霊だな…大人しく俺様に食われろ!
斬撃も蹴りもフェイントも何もかも絶妙な間合いで躱し全く当たらないからイライラが止まらない魂喰の攻撃が大雑把なものとなって行く。
「隙きあり!」
魂喰の不用意な斬撃を躱したコヨミは持っていた扇子を小太刀に変化させ、魂喰の首を斬り付ける。
グオッ!
生者同士ならこの時点で勝負ありなのだが、相手は妖怪。当然ながらこの程度では倒した事にならない。首の皮一枚で繋がっている様な首を持ち上げて頭と胴体をくっつける魂喰はやってくれたなと言うような表情で再び襲いかかって来る。
簡単に食われやがって…何やってんのよ…あのマヌケは!!
魂喰との戦いの最中でもレイへの罵詈雑言が止まらないコヨミ。
まぁ、斬っても即再生するし斬り落としたら落とされた箇所はミニ魂喰として再生して襲いかかって来るから厄介極まりなく、レイ無しではとどめを刺す事は不可能に近いので罵詈雑言は仕方がない事だろう。
「自慢のソウル・イートは対象者に触れないと発動しない様ね」
レイとの戦闘と直接対決で解った事。
ソウル・イートとはターゲットを捕獲し、自らの妖気を相手に流し込んで侵食し取り込む技。
従って、触れることが出来なければ意味をなさない技なのだ。
そう結論付けたコヨミは触れられなければ大丈夫だと判断したのだが…
「・・・甘いな・・・どんな甘味料より甘過ぎる」
!!!
足首を掴まれる感触が有り、何事かと目を下に向けると眷属が地面から出現してコヨミの動きを封じるかの様に蠢いていた。
「こうしたら動けないだろ!?」
そう言いながら舌舐めずりして躙り寄る魂喰。
キモッ!
キモ過ぎる!
これ、鳥肌もんだわ…
アッ・・・本当に鳥肌立った・・・
物理的に叩かれても痛みは無いけど鳥肌は立つのねとか考えながらもどおしようかと考えたのだけど、更に羽交い締めにされてしまっては身動きも出来ない。
ダメッ!このままではアタシまで食べられてしまう!
・・・なんてね・・・
アタシの中から勢い良く出て来た剣が羽交い締めしていた眷属を穿き、更にアタシの中から飛び出て地面に潜んでいた眷属を処分して行く。
この日の為にではないけど、修行の期間中でアタシの中の不動明王と意思疎通をスムーズにする術を確立していたのよね。
電光石火の出来事に驚きを隠せない魂喰に鋒を向けて威嚇する不動明王。
「ふ…不動明王だとぉ!?」
唐突に現れた不動明王に驚き突っ込んでこようとしていたのをたたらを踏んで立ち止まり狼狽している様子。
然し、不動明王は何もすること無くコヨミの中へと戻って行った。
「ふ…フフフ…ハァ~ハッハッハ!!
今日はトンだラッキーデーだぜ
厄介者の始末だけではなく不動明王の力まで手に入れらるのだからな!」
「それはどおかしらね」
既に勝ったかの口調で高笑いする魂喰に対して不敵に笑うアタシ。
コヨミの余裕は果たして何処から来るのか…
………
……
「コレが魂喰の中か」
「恐らくは胃に当たる部分なのでしょうね。予想通りだったとは言え、これ程までに計画通りに行くとは思わなかったわ」
「ですが、消化の為の妖気の侵食が激しすぎます!
僕の力で食い止めてますが力不足ですいません
迅速な行動を求めます」
食われた直後の魂喰の中に来た俺は周囲を見渡していた。
最初の戦闘中に、本体の中にまだ未消化の魂が残っているのに気付いた俺は救出活動出来ないものかと考えた結果、魂喰に食われる事を選択したのだ。
兎に角急げとボクっ娘キャラと化したローラが急かして来る。
わぁ〜とるよ
妖気の圧力が半端ないからな
俺は持てる力をフルに使って辺りを見渡す。
「もう少し奥へと行って見よう」
「罠だったって事は無いわよね?」
「僕の目に間違いありません!絶対に居ます!」
奥へ行けば行くほど高まる妖気の圧力。
制限時間は10分もないか…そもそもこんな圧力の中で抵抗力の無い魂は存在出来るのか?
最悪は何も出来ないで俺達も消化されてしまう。
制限時間が迫る中、焦りから捜索も雑になっている。焦りは禁物なのは解っているのだけどコレばかりは…
「アレッ!?」
「ヘッ!?」
「圧力が…」
恐らくそこは人間部位に例えると幽門と呼ばれる場所らしいが、何故か此処には妖気の圧力が全く無い事に俺達は驚いた。
消化器官と同じ働きなら、此処から先は吸収する為の腸になる事になるのだが、どおやらこの場所は胃と腸を接続する為の場所になる為に大した機能は有していない様だった。
俺達は周囲を見渡すと、俺に気付いて近寄って来る10の魂が一斉に助けを乞うて来た。
「コレで全員か?」
寄ってきた魂を見渡し質問すると「コレで全員ですと」代表らしき魂が返事をしてくる。
代表の魂の話を訊いた事には、俺の予想通りでこの先は妖気で侵食した魂を自らの力にする為の吸収器官だとのことだ。
胃の部位で完全に妖気で侵食した魂をこの先へと送り出し吸収するのだそう。
妖気に侵食されるのに気づけた魂がこの場所へと逃げ込む事に成功していたとの事だ。
そうこうしている間にローラがタイムリミットを伝えて来る。許容量も気になるが、脱出のリスクを考えた俺は10の魂全てを俺の中に取り込んだ。
「ちょっと狭くなったけど、全員無事に収容出来たわよ」
「妖気から霊気への変換は出来てます
何時でも脱出可能です」
真智子から収容OKの返事がローラから脱出可能の返事が聴こえる。
「じゃあ、出るぞ!!」
俺は妖斬刀にありったけ霊気を込め、壁目掛けて振り下ろす。