第125話 暴走?
今回は、カメラマンのイサオ視点です。
「・・・始まったね」
「ハイ・・・では此方も」
「ウム・・・本体が出て行ったと言えど欠片は残している筈じゃから気を付けるのじゃぞ!?」
幽霊屋敷の屋上でレイ達のやり取りを見ていた天音・ゆう子・楓夏は早速準備に取り掛かる。
………
……
俺の名はイサオ
実質上AGチャネルの運営者だ。
幽霊屋敷への突撃内容は明宏に書かせようと思ったのだが、二人共抜け殻状態のまま未だ戻って来ていないので仕方なく俺が書きます。
「こんばんは!北くんです。
今回は以前、取材拒否で叶わなかった雨音の幽霊屋敷に来ています。
漸く取材許可が出ましたので、これから突撃したいと思います!」
こんな感じで始まった今回の収録。
「どおぞお通り下さい」
白装束の男性が扉を開ける。
この男、さっき挨拶した男だよな?
確かその時は僧侶の服を着ていたよな?
駐車場から此処まで来て機材チェックをしても10分も経過してないぞ?
そんなに短時間で着替えたと思えんのだが?
そう思った俺は先程お会いしましたよね?と訊ねてみたのだが、「何のことでしょうか?私は此処に居ましたが?」と返して来る。
オイオイ…スットボケてんのか?とは思ったけど、表情から見て嘘は言ってない様な印象を受けた俺はそれ以上突っ込む事なく屋敷内へと入って行った。
エリア1
機械仕掛けの人形がおもてなししてくれるエリア。
時間外とあって作動はしていない。
「ケッ!何処にでも在る様な仕掛けばかりじゃねえかよ」
「案内には運が良ければ出るかもよって書いてあったけど、出ないね…」
「所詮詐欺なんだから出る訳ねぇよ!・・・サムッ!なんだ?急に寒気が」
「北くんもなの?」
「何だろうな…」
動かない機械仕掛けのセットにイライラが止まらない明宏と日向であったが、カメラを向けていた俺には居ない筈の3人目(女性)がハッキリと映していたんだ。
貴方は黙っていてね
脅す様な口調で俺の頭の中に直接響く女性の声。
カメラの中の女性は、二人が見えていない事を良いことに右手中指をおっ立てたりあっかんべーをしたりと挑発し放題だ。
それでも気が付かない二人に流石に苛ついたのか壁をバンバンと叩きだしたり二人の身体を通り抜けたりしているよ。
「この音…何処からだ?」
突然響き渡る音に気付いた二人はキョロキョロと周囲を見渡す。どおやらスピーカーが埋め込まれていて、そこから流れているのではないかと思ったらしい。
まぁ、撮影中の俺は話をすることは禁止されているので言わないけど、後で動画を視た時の反応が楽しみだよ。
で、二人の結論としては証拠は見つからなかったけど壁に細工してスピーカーを設置しているのだろうとの結論に達した様だ。
因みに寒気は気のせいだと言うことで片付いたらしい。
結局、このエリアでの表立った現象はラップ音しか無かった。
然し、幽霊が明宏の背中に手を突っ込んで何かを取り出していたのが気になるが、知らない方が良いと判断する。
エリア2
通常はモンスターに化けたスタッフがお客を脅かして追い回すエリア。
なのだが、スタッフは1人しか残っていないとの事なので今回は無し。
「つまんないなぁ…何も起きないじゃない…」
早くも退屈しだしたのか不満を漏らす南ちゃんであったが、どおやら幽霊サイドもこのエリアではあまりチョッカイを出さないみたいだな。
ただ…
「あ゛あ゛あ゛」
とか、○怨さながらの唸り声が聞こえたり
「あなた達何でこんな時間に居るの?」
とか、不思議そうな声で話しかける声が聞こえたりしたり
「フフフ」
とか、二人を馬鹿にする様な笑い声が聞こえたりした…
声は聴こえていたけど、コレもエリア1同様にスピーカーを設置しているだろうとの結論に達した様だが、後で確認したらカメラに入っている声と入ってない声があったのは何でだろう。
エリア3
言わずと知れたメインになるエリア。
ネットでの評判によると、このエリアで幽霊との遭遇率は実に90%を超えている。
って事は、このエリアで必ず何かある筈だ。
「ねぇ…この通路何でこんなに寒いの?」
「10度だってよ…」
「ウソ…やだホント…」
「てか、他のエリアは此処まで寒く無かったよな?」
「ウン…18度に22度だったよ?」
「てか、冷房効かせすぎだろ…凍え死ぬっての!」
「でも、天井は塞がっていないからこんなに温度差が出るなんて有り得ないと思うのだけど」
「たまたまそうなっただけだろ?」
入って直に気付いたのは室温。
兎に角寒い…
然しこの2人…このエリアに入ってから幽霊をおんぶしているのに気付いていないのか?
カメラ越しに視ている俺にはハッキリとその姿が映し出されているのに何で気付けないのだ?
そんな状態で通路の半分程来た所に設置してある鏡の前に到着した時、2人の態度が変わる。
「き…北くん鏡!!」
「ン?鏡が何だって?ウォッ!?」
どう言う状況か解らないが、2人が鏡の前を通った時、それは唐突に現れた。
と言うより、実体化したと言っても良いのだろうか。
背中におぶさっていた幽霊が鏡に写ったのに気付いた日向が怯えた様に叫び声を挙げて漸く気付いた明宏が驚きの声を挙げる。
然し、それだけではなかった。
「い…いる…視認出来ないのに…背中から抱きつかれている…何だよ何なんだよ…コレ…」
どおやら明宏には背中に居るソレは視認出来ていないらしい。らしいのだが、鏡にはシッカリ写っているし、感触もある。
「や…ヤメロ…変なとこ触るな…耳に息を吹きかけるな…アヘェ…」
「き…北くん…まさか…」
「何いってんだよ…オフッ…ヤメロ…気持ち良くさせるな…」
あ〜ぁ…見事にパニクりやがったよ…普段から幽霊なんて居るわけがねぇ!なんて豪語している癖に何てザマだよ…画面越しに見える幽霊は抱きついているだけで何もしてねぇぞ?
まさかと思うけど、鏡に写った幽霊の顔を見て欲情したんじゃぁねぇだろうな?(美人だってのは認めるけどよ。幽霊だぜ?幽霊!)
然し…この幽霊…言うに事欠いて俺にこんな事を言いやがった。
「ねぇ…あたい…サイコパスなアイツの事を気に入っちゃった…貰っても良い?」
と…
まぁ、俺からしても迷惑な奴だけど、渡す訳には行かないので、だが断ると言ってやったのだが…
コツコツ…
言い終わるかどおかのタイミングで背後から聴こえて来た足音に気付いた俺は思わずカメラをその方向に向けると、そこに居たのは…
JK?
JC?
セーラー服を着た身長150cm程の女の子が歩いて来たのだ。
遠目に見たら女の子なのだが、近寄って見るとラブドールみたいな人形だってのが解る。
こんな場所で遭遇しなければどおやって動いているかと興味津々で調べていたに違いないが、場所が場所だけに恐怖しかない。
「この人形どおやって動いてるの?」
明宏の事など無かったように空気を読まずに興味津々で人形を触りまくる日向。
良かった…背中の幽霊は消えたようだな。
然し、この女…本当に自分さえ良ければそれで良いのだな。
そう思いながらも日向にカメラを向けてどおなるか見守っていたのだが…
「えっ!?遊んで欲しいの?良いよ?何して遊ぶ?」
へっ!?日向?誰と話してるんだ?
で…明宏は明宏でボーッと日向を見ているだけで腑抜け状態になっている。
オイオイと思いながらも日向を注視するとジャンケンする様子。
人形は右手をニギニギして指の動きを確認した後
ジャーンケーンポン!
日向が出したグーに対して人形が出したのはパー
人形の勝ちだ。
やったやったと喜ぶ人形に対して5回勝負にしてと懇願する日向。
日向のヤツ何だか必死の様子。
何だ?何か賭けたのか?
結果は見事に日向のストレート負け
狂喜乱舞する人形にガックリと項垂れる日向
お…おい………………!!
人形の中から半透明の何かが出てきたかと思ったら、日向の中から半透明の何かを引き摺り出して身体を交換しやがった!
「やぁ〜っと肉体を手に入れられたぁ〜♡」
と…宣う日向…ではない!?!?
てか、明宏は何やってんだよ!?
と、思ったら明宏もまた様子がおかしい…
「ほぉ?コレが男の身体か…なかなか興味深いの…」
とか言いつつ、鏡の前に立って服を脱ごうとしている。
お…おい…それはヤメロって…!
流石におかしいと思った俺は止めようとしたのだが、此処で俺は有り得ない光景を見てしまう。
何を見たかと言うと、服を脱ぎ始めた明宏をヤケに透けて見える明宏だ。透けて見える明宏は焦った表情を浮かべていただけで何も出来ないでいる。
てか、俺…幽霊とか見たことないのに何で見える?
何だよこのカオス状態は…
混乱する俺に再び聴こえる女の声が
「今の貴方は、アタイの目を通して見ているから何が起きてるかを視認出来ているのよ」
と、言って来た。
て、事は、俺の中にも幽霊が入り込んでいるのか?
そう俺は心の中で呟くと「正解よ」と笑いながら言うものだから、下手をしたらあの世に連れて行かれるかも知れないとの恐怖からもう良いだろ?2人を開放してやってくれと懇願してみた。
すると…
「ダメよ…?アタイが貴方を貰うんだから」
言うや否や強い力で俺は壁の方向に突き飛ばされる。
俺の体が壁にぶつかりゴツンと派手な音がする。
・・・アレ!?
痛くない・・・
結構、派手にぶつかった筈なのに痛くないとはこれ如何に?なんて考えている場合じゃない!俺は俺の体から追い出されてしまったのだから。
周囲を見ると、明宏はその光景をボー然とした表情で見ており、日向に至っては人形の中で泣きながらゴメンナサイを繰り返している様だった。
「おい、俺達の体を使って何しようってんだよ!?」
最早2人には何も期待出来ない。此処で俺までもがパニクる訳にはいかない。俺達を置き去りにして屋敷を出て行こうとする俺達の体に向かって叫ぶ俺。
「何って?美味しいご飯も食べたいしぃ〜
あ〜んな事やこ〜んな事をやりたいじゃない?
ねぇ、この体を使って衆人環視の中ピーな事をしても良いでしょ?」
笑顔で返事をする日向の体…顔は笑顔だが目がマジだ…マジで俺達を置き去りしようとしているんだ!そうしたら…
「ゆ…許して下さい!
二度と幽霊の存在を否定しないし
馬鹿にしたりしません!
だから、俺達の体を返して下さい!!」
「お願いします」
「お゛ね゛がい゛じま゛す゛う゛」
もし此処で身体を取られてしまったら…恐ろし過ぎて想像したくない。俺は俺達の体に向かって誠心誠意謝った。釣られて謝罪する明宏と日向。
日向に至っては涙で全てに渡って濁点が付く始末。
「では…
幽霊は存在します
今まで幽霊の存在を否定し、他のウーチューバーを馬鹿にする様な動画を上げていた事に対する謝罪する動画を上げると確約せよ!」
「ハイ!確約します!」
「我等は常にソナタ等を見ておる。この意味解るな!?」
「ハイ!勿論です!」
「約束破りは極刑だからね!」
「と、言いますと?」
「アタイ…男同士に興味津々なんだよね」
「かか…勘弁して下さい…」
「あたしはこの体で女の子をナンパしてみたいな…」
「コレッ!それを言うでない!返すぞ!」
一瞬の間があり、俺達は元の体に戻ることが出来た
のだが…
「嫌な夢を見たぜ…」
元の体に戻ることが出来たせいか、持ち前のサイコパスが発動したか解らないが、今起こった事を夢を見たと言う事で片付けようとする明宏であったが
「夢でも無ければ幻覚でもない!全ては現実じゃ!お主達は漸く幽霊が見える様になったのじゃぞ?感謝せよ!」
背後から聴こえる偉そうな女の声に驚きながらも振り向くと…
超美人・美人・美少女の女3人が笑顔で手を振っていたではないか。
うわぁ~~!!!
明宏と日向は3人の女性を視認した途端、悲鳴を上げてその場にへたり込んでしまった。
俺は、幽霊の存在証明が出来たのでヨシとしたかったのだが、やっぱり話を聞きたかったので取材を申し込んだのだが、却下されてしまった。
然し、本物が居る幽霊屋敷かぁ…俺達が謝罪動画を出せば更にお客が増えるのだろうな…
等と考えながら2人を連れて外へ出たのであった。