第12話 真智子の怒り2
果たして勲の運命や如何に
「あのアパートの2階の右端の部屋が奴等の部屋です」
「そう…」
勲に案内されて来たのは住宅街の外れにひっそりと建っている1階3部屋2階3部屋からなるアパート。
その2階の左側が奴等の部屋らしい。
エアコンが無いのか窓が開いていたのでアンテナを飛ばして中の様子を覗いてみたのだけど、どおやら休憩がてらカップラーメンを啜りながらパソコンで動画サイトを覗いてみているみたい。
とりあえず、あの二人組を脅かすべく勲を促して部屋に突入してシレッとブレーカーを落としてやったわ。
「ウォッ!!」
「何だぁ!?」
突入した事で強い風が部屋の中に吹き込んだと思ったら一瞬にして真っ暗闇になり驚き混乱するのが解る。
「…チョロいわね…」
その隙を見逃さず勲と目配せをして私は須藤克憲に、勲は紺野陸男に素早く憑依して精神の主導権を奪う。
「で?これからどおするおつもりですか?」
ブレーカーを入れ部屋を明るくした後で勲が今後の事を訊いて来るが、先ずやることは二人がどんな人達に電話を掛けて何をしていたかを知るのが先決。
なので、鴨リストと呼ばれている物を探す。
と…その前に…食後に二人していつの間にか寝落ちした事にしないといけないから残りのカップラーメンを食べたのだけど、コレが非常に不味かった。まるでゴムでも食べてるかの如くの味に例え憑依していても幽霊の状態での食事は意味を持たない事が解った。今後はレイがやっていた様に匂いと見た目で満足する事にしよう。
「コレです!コレが鴨リストです姐さん!」
カップラーメンを食べ終わった後でタイミング良く勲が鴨リストと呼ぶ3冊のノートを私に渡して来たので見たのだけど、この鴨リスト恐ろし過ぎる。
だって、ターゲットの氏名・年齢・住所と言った基本的な事から家族構成・預貯金残高とかの個人情報と言った事は元よりの本命の性格やワンポイントアドバイスまで記載されていたのだから。
「コレ…コイツ等が作成したものじゃないわね?」
考えなくても此処まで親切丁寧なリストを作成するにはかなりの労力が必要だろうし、この二人がどれだけ有能であったとしてもこれだけのリストを作成するのは不可能だと思ったので勲を問い詰めると黙っていても仕方がないと思ったのか頭を掻きながら鴨リストの事を話し出す。
「はい、この鴨リストは半年に1度この部屋に送られて来るのです。」
「ふーん…差出人とかどの地域から送られて来るか解らないの?」
「それが…」
此処まで話して黙り込む勲。
それもその筈で、須藤克憲も紺野陸男も雨音が地元ではなく、関西の方から流れて来た者達との事で、その素性は一切解らないと言うか出身地の事は一切話したがらないらしい。
そして鴨リストも関西から送られて来る事もあれば北陸や関東等、消印もバラバラで特定は不可能との事。
「大きなグループが存在するみたいね…」
リストが存在すると知った時から大規模な特殊詐欺グループが存在していると疑っていたけどそれが当たってしまった以上鴨リストを警察に提供して後は警察に任せる事を考えたけどそれはそれ、これはこれであり、此処を潰せば何等かのアクションを起こす可能性もあるのだから警察に任せるのは得策では無いのかも知れないわね。
「このまま自主させるのも面白くないわよね」
実はこの二人をどおやってお仕置きしたら良いかずーっと迷っていたのね。
だって、ゴト行為~痴漢冤罪まで、選択肢はかなり有るけど、どれも違う様な気がするし、勲もまた妙案を思い付いていない様子。
だから憑依してまで犯罪行為をさせていたのだし。
(なぁなぁ、コイツらの所持金とか貯金はどおなってるんだ?)
レイがそれとなく訊いて来たので、所持金の確認と勲に貯金通帳の存在を訊ねてみる。
「確かこの辺に…有った!コレです」
探しだした通帳は須藤克憲の預金通帳で箪笥預金とはよく言ったもので箪笥の1番下の引き出しの奥に実印付きで隠してあった。
「どれどれ?」
一・十・百・千・万…
あらやだ。この子貯金が趣味なの?
金遣いが荒いかと思ったらめっちゃ貯め込んでるわ。
須藤克憲 所持金18653円 貯金額87598000円也 貯金額全額は全て犯罪で他人から巻き上げた金だと言うのが驚きね。
対して紺野陸男は言うと 専用の手提げ金庫に現金2369731円のみ 貯金は0円と言うか貯金通帳存在せずキャッシュカードも無し。
持ち物が高級ブランドで固めている事を考えると騙し取った金の殆どを高級ブランドの物を買うのに充てていると見て良いわね。
勲の話では私の予想は当たっていたみたい。まぁ、犯罪者としての繋がりのみでつるんでいるとの事。と、言うことは何等かの切っ掛けでいがみ合う様に仕向けたら簡単に崩壊するのかな?
(結構持ってんのな?もし、コレが一瞬にして泡と消えたらどんな顔をするかな?)
等と考えていたら邪悪な笑みを浮かべてレイが呟く。
うん!間違いなく発狂もんだろうね。廃人になるかも…でも、どおやって泡と消えさせる?それに今日は銀行終わってるよ?
「姐さん大丈夫ですか?」
等とレイと話していたら勲が不安そうに話し掛けてくる。
どおやら金額にびっくりして呆けているいる様に見えたらしい。
まぁ、勲はレイの存在を知らないから仕方がないんだけどね。
「うん?あぁ…ゴメンゴメン…この金額を0にする方法をね…」
考えていたのよと言いかけた時、私の言葉尻を奪ってこんな事を言い出した。
「金は松野や他の騙した人に返してやるべきです!」
と…
確かに返せるものなら返してやりたいけど、使った金も有るだろうし騙した全ての人に全額返せないよね?
当然の返事を返すとこんな事を騙りだした。
「確かに俺も松野を騙して金を奪った仲間でした…然し、コイツらから受け取った分け前はたったの50万!騙して金を奪おうと言い出して計画したのはこの二人ですがね…騙す為の女を探して松野と不倫させたり計画を実行したのは俺なんです。松野の嫁に不倫がバレそうになった時も俺が松野の嫁が雇った探偵を追っ払ったりと危ない橋を渡っていたんです!それがたったの50万ですよ?もっとくれても良いじゃないですか!?」
あまりにも身勝手な言い分ではあるが、吐き出すモノを吐き出させた方が後々やり易いと思って黙って最後まで訊く事にする。
「その事を交渉材料にもう少しよこせと言ったら紺野に使い捨ての駒が俺達に逆らってんじゃねぇよと言われた後、気が付いたら雨降山で首を吊ってました…驚きましたよ…俺が中に浮いた俺の体を眺めていたんですから…」
何とか落ち着きを取り戻した後で「どおしてこうなった?」と記憶を遡る。
「気が付くのに丸1日掛かりましたがね。俺がコイツらに殺されたと気が付いた時に俺の中で憎悪の念が生まれたと共に松野に悪いことをしたと後悔の念が生まれたんです。」
二人に復讐を!
そう念じた途端、気が付けば目の前に二人が居て、これ幸いとばかり取り憑こうと思ったのですが、二人には既に先客が居て退けと言っても聞く耳持たないから取り憑く者をボコボコにして取り込んで復讐の機会を探していたんです。
そこまで話を訊いてフと疑問がわいてしまった私はその事を訊いたのだけど、此処で驚愕の事実が判明する。
「俺は松野の実の息子です。」
はぁぁ!?
コレには流石の私も驚いたわよ。なので思わずどお言う事?って聞き返したら
「実は松野は二十歳の時に1度結婚していたのですが、俺の母親の両親との折り合いが悪かったのと嫁との性格の不一致とかの理由で2年で離婚したそうなんですが、その時に生まれたのが俺なんですよ」
松野と離婚後、直ぐに再婚したので再婚相手が本当の父親だと思って育って来たが、松野が宝くじを当てたと知った時に母親が「意地でも離婚すべきじゃなかった」と悔しがっていた姿を見て問い詰めると暴露したとの事。
まぁ、1千万円位なら騒ぎもしなかったのだろうけど一億円ですからね。諦めつかなかったのだと思います。
その事を酒の席とは言えついこの二人に喋ってしまったんです。それが全ての始まりです。
「で、二人を止める訳でもなく悪事に加担してしまったって事なの?」
「はい…」
「そんなの自業自得じゃないのよバァーカ!!」
「ごもっともで返す言葉も有りません…ですが、コイツらを最悪な形で終わらせたい気持ちは変わりません!」
「それって、コイツらに殺された事から来る復讐の念ってヤツじゃないの?」
「最初はそうでした…罪に罪を重ねる事をしても黙って見ていたの事実ですし少し前まで煽るだけ煽っていたのも事実です。だけど、松野や他の騙された人々を見ていてコイツらを野放しにしておくと街中の人々が辛い目に会う。俺が止めなければと言った気持ちになって行きました。でも…」
「でも?」
「俺がそう言った気持ちになった時には既に手遅れでコイツらの日課は犯罪になっていたんです。呼吸をするかの如くひったくりをし、若い女を襲い、ATMから金を引き出すかの如く他人を騙し金を奪う。そんな奴らなんですコイツらは!」
「ちょっと待って!ひったくりしたお金は自分達の懐に入れてたとしても、騙し取ったお金は全額自分達のモノになってないわよね?」
「はい、当然ながら騙し取ったお金は一旦、架空人物の口座に集められそこから自分達の水揚げ(そうがく)に対して10%がバックされます。ノートに大きく○が書かれている所に数字が書かれているでしょう?その数字はその人物から騙し取ったお金の数字です。」
「じゃぁ、❌は相手にされなかったって意味なの?」
「そうです。1ページ毎に写真を撮って1ヶ月で纏めて指定されたメアドで写真を送るんです。そして使いきったノートは回収班と名乗る人物に渡す事になっています。」
「で、元締めはどんな組織なの?」
「それが…」
「そうよね…それが解ればノートの謎も解けたも同然よね…」
「はい…」
フと気が付くとレイの元気がなくなっているのに気が付いた私は通帳等を元に戻して勲に二人を見張る様に指示をし、保険を掛ける意味で勲に気付かれない様にアンテナを設置した後で雨降山へと向かう事にした。
「マチコ ガンバリスギ オレ ツライ!」
雨降山の頂上付近にアンテナを置いていたので入れ替わるだけで一瞬で来る事が出来るから移動も楽チン。今後の移動はアンテナを利用するとしましょうか。
てか、何で両手人差し指で私を指差してカタコトの日本語でツッコミ入れるの?意味不明だわ!それ!!
と、ツッコミ返すと
「入れ替わっている間は俺がマチコを動かす電池の役割になるみたいでよ、物凄い勢いで力を吸われたんだよ。長時間の憑依は思ったより体力って言うかエネルギーを消費するみたいだぜ?」
との事であった。
そうなのね。入れ替わって居られる安全な時間を知る必要が有るわね。
縛りと云うかルールみたいなモノを知らないとダメかな?等と考えていたらレイが
「充電が終わったら松野ってホームレスとか色々調べてみねぇ?悪党だから仕方がねぇけど、勲の胡散臭さは100%超えてんよ」
と、言い出した。
どおやらレイは勲を信じてないみたい。胡散臭さ100%超えてるってのは私も賛成だしね
まぁ、念のために裏は取っておくのは基本だから、先ずは廃工場に行ってみましょうか。
そうと決まれば話は早い。
私は要石の上で座禅を組み、エネルギーの回復に専念する。
「おーい!松野ぉ~松野源治はいるかい!?」
充電完了後、廃工場に捨てて有ったカード類が無かったのを確認した後でホームレスが集まる公園に来た私は松野の名前を呼んでみた。
何故かと言うと、ホームレスをやっている人達の背後には大抵と言うか100%善からぬ気を纏った誰かがくっついているので、名前を呼ぶとかなりの確率で「何の用だ!邪魔すんじゃねぇよ!?」と物凄い勢いで凄んで来るのね。なので本人確認をするにはこの手をつかうのが一番なんだよね。
「松野ぉ~…松野さぁ~ん…返事してよぉ…」
どおやらこの公園には居ないみたいと思った私は別の場所に移動しようと考え始めた時
「松野松野ってウルセェなぁ…コイツが松野だよ」
と、公園の片隅で鬱陶しいなぁと呟きながらも男が反応する。
「突然ゴメンね。2~3訊きたい事があるから正直に答えてね。嘘はダメだからね」
と脅しを掛けながら質問する。
質問の内容は
1・何者かの誘導で廃工場からキャッシュカード等を警察に届けたか
2・館花と云う女に心当たりはあるか
3・宝くじに当たった事があるか
の3つ。
結論から言うと勲の言っている事は本当だったけど、序でに勲の事を訊いてみたら気になる事を言い出した。
「館花と松野の間には子供は居なかったよ。居たのは館花が間男との間に作った男の子1人だけだ。」
「・・・そんな事が有ったんだ?」
「あぁ…間男がいると疑っていたから探偵を使って証拠集めてそれを盾に離婚したんだよ。所がこの子は貴方と私の子だ!離婚はしないってごねるは暴れるはの大騒動をやらかしてブチギレしたコイツが慰謝料は要らん!離婚だけしてくれたらそれで良いって言い出してな。それでも離婚はしないって粘るもんだからよ、最後はDNA鑑定とやらをした後で強引に離婚したんだよ。俺の子でもねぇ子を理由も無しに育てる義務はねぇ!って捨て台詞を残してな」
「へぇ~…序でに言うと誘導してきた幽霊が館花の息子って知ってた?」
「あぁ…薄々はだけどな…アイツ何をさせたかったんだ?」
「さぁね…所でさぁ、松野をこのままの状態にしておくつもりなの?」
「俺はコイツの末路を見守るだけの存在よ!コイツが死のうが生きようが関係ねぇよ!」
「そう…なら、今後、松野に何が起こっても一切の手出しはしないね?」
「しねぇよ…メンドクセェ…」
「解った…ありがとね」
この幽霊に言いたくなった事が出来たけど、知りたい事は知る事が出来たので良しとしましょうか。