第123話 Bの正体?
結局、お義父さんは着いて来れなかったと言うよりは、あの場所から中へ入って来れなかったと言った方が早い。
なので、俺達だけで三つ首の犬の後を歩いているのだけど、(因みにこの三つ首の犬の名は凪と言うらしい)どれだけ移動したか解らない。そもそも青一色の世界なので距離的な感覚も麻痺すると言うもの。
いい加減何処へと向かっているんだ?と思い始めた頃に到着した立派な社。その社のだだっ広い境内の真ん中で仁王立ちするムキムキマッチョボディの男性は
水神 水面
ちょっと暑苦しそうな印象を感じる顔立ちに青い髪をオールバックにキメ、右手には三叉の鉾を持ち、何にしても圧倒的なオーラと存在感を放ち、何処からどお見ても体育会系と言う表現がピッタリと合う男性が楓夏様を睨み付けて
「ほお?まだ生きておったかこの不良娘が」
と、言った。
そう言われて流石にムッとしたのか楓夏様が
「不良娘とはご挨拶ですね。こう見えても風神としての責務は果たしていますよ」
と不機嫌そうに返すと
「フン!事情は解った…まったくお主も…」
不満げに文句を言おうとした水面様は何かの気配を感じたのか、一瞬俺を見てギョッとした表情になったが直に冷静になり俺達を値踏みするかの様な目付きで見据える。
こう言ってはなんだけど、楓夏様よか何倍も怖いし迫力ありまっせ…マジで…
「我は暫し楓夏と話がある。お主らはこの者に着いて修行を始めるが良い」
そう言ってパチンと指を鳴らすと何も無い空間から1人の男性が現れる。
現れた男は榊と名乗った。
この榊と名乗った男性は五平殿と千代殿を鍛えた張本人であり、質実剛健が服を着て歩いている様な男性だ。
類友とはよく言ったもんだなと思ったけど、それを口にしたらどんな報復を受けるか解らないから心の中で思っただけに留めた。
こうして俺達は榊殿の指導の下、修行に明け暮れる日々に突入したのであった。
………
……
「楓夏…お主…」
「おや…体育会系で鈍感な水面様でもお気づきになられましたか」
「幾ら我でもあんな存在感を発していたら気付くわ!まったくお主は……」
「言いたいことは解りますが、妾ではアレを覚醒させる事が出来ませんでした。」
「それで我に…面倒事を押し付けよってからに!然し、無理に覚醒させなくても良いのではないか?」
「申し訳ありませんが、あの者たちは既に一部の魔界の者に目を付けられています。最悪の事態を想定しておかねばならないと存じます。」
「フム…ではアレの存在に男の幽霊の方は気付いていない…真相を知っているのは男の中に居るあの中性幽霊だけか…時に、男とその中に居る幽霊は何者なのだ?」
「男の幽霊の名はレイ。そして中に居る幽霊の生前は増田和樹と言う名で祓い屋を営んでいたと申しておりました。訳あってレイの中に入り込んだところ、魂レベルで融合してしまったが為に離れられないと申しておりましたが本当のところは解りません。今は真智子と名乗っておりますが、コレはレイが男である和樹を嫌った為に仕方なく女性の幽霊をしていると聞いています。かなり端折ってはいましたが嘘はないかと思います」
「…そうか…真相はアレを覚醒させないと解らないと言う事か…」
「ハイ…」
社の中の一室に通された楓夏は水面に問い詰められ知りうる限りの事を話し出す。
それを訊いた水面はどおしたら良いかと逡巡する。
然し、それも束の間で直に五平を呼び出して
「あのレイとか言う幽霊を我の前に連れてまいれ!話がある」
この時、五平は楓夏どころかレイ一行が来ているなんて知る由もなかったが、見たこともない程の厳しい表情の水面に何も言わずにレイを連れて来る事にする。
単なる気まぐれかそれとも…もしアレが我や楓夏が危惧する者だとしたら何故…この事はアヤツは知っているのか…そもそも我が覚醒させても良いものなのか…
無理難題を丸投げされた気分になった水面はどおすべきかと真剣に悩みだしてしまう。
………
…
「単刀直入に問う。お主はお主の事を何処まで知っている?」
修行を始めた矢先に現れた五平殿に連行される様に水面様の部屋に連れて来られて開口一番そんな事を問われた俺は何が何だか解らないので何も解りませんと返事をしたのだが、そんな返事は望んでいなかったらしく
「お主の中に居る者だ!それについて知っているのかと問うておる!」
と強い口調で問い質す。
俺の中に居る者?真智子の事か?俺は嫌がる真智子を無理矢理引き摺り出してコイツの事ですか?と返事をしてみると、迷うことなく「違う!」と言って俺の胸に右手を突っ込んで何かを取り出す。
「コイツの事だ!気付かなかったのか!?」
引き抜かれた右手に握られていたのはダチョウよりひと周り小さくて七色のコントラストが美しい卵であった。
何だソレ!?
何で俺の中にそんな物が!?
意味が解らなくて真智子を見る俺にバレちゃぁ仕方がないと言った表情で全てを話し出す。
「その卵のことを私はBと呼んでいます。Bのおかげで魂喰に魂の全てを喰われずに済んだのは間違いありません。」
話によるとBが覚醒したのはたったの2回でそのうち1回は公園での事件で、もう1回は読読新聞の店長が暴漢に襲われ生死の境を彷徨った時の事。
って…アレは真智子怒髪天モードではなくてBだったとは思わなかったぜ。
気付いたのはコヨミとブツブツさんについて話をした後、気になった和樹がブツブツさんの様子を見に行った後の事だ。
追い出そうとしてもダメ。
対話を試みようとしても反応せず。
何かして来る訳ではないので無視を決め込む事にした。
そんな時にあの事件が起こる。
なす術なくあの妖怪に食われたと思っていた和樹が目覚めたのは何も無い空間であった。
「気付いていない様なのでお伝えしますが、貴方の肉体の生命活動は止められ魂は妖怪に食われて死にました。
貴方が妖怪に魂を食われて殺されるのは解っていました。
ですので、助ける為に私は貴方の魂の半分を確保していました。
そのおかげで貴方は消滅を免れたのです」
訳が解らず混乱する和樹に意思なき声が機械的な口調で話しかけてくる。
何故か機械的な話し方に落ち着いた和樹は声に向かって真意を問いただすと、以下の事が聞けた。
1・妖怪の名は魂喰
2・魂喰はこの街で一二を争う程強い和樹の力を手に入れたいが為に狙っていた。
3・それに気付いたBは和樹の魂を守る為に入り込んだ。
4・然し、自らの存在は気付かれる訳には行かなかったので和樹の魂の半分を保護し、欠けた部分に作成したダミーを融合させた。
5・Bは元々レイを守る為にレイの中に入り込んでいたが和樹が狙われていると気付いたが為にレイの中に50%の強化分身体残して本体が和樹の中に入り込んだ。
6・和樹を守ると決めたのは、レイを守る為に力を貸して貰う為であった。
7・レイの本名及び素性は一切解らない。
8・誰からかは言えないが、Bはレイを守る事を指示されて入り込んでいたがレイが覚醒するであろうタイミングと自らが覚醒するであろうタイミングが大きくズレる可能性が高いのでサポート役が必要であった所に和樹がレイを見に来た。
9・既にその時には魂喰の眷属が和樹を見張っていたので、狙っている事に気が付いた。
尚、眷属は指示が無ければ人間相手に勝手に動く事は無いとの事。
その話を訊いてトンでもない事に巻き込まれた事を知った私は疑問に思ったことを問い質すと
「魂喰に食わせたのは貴方の魂のどおでも良い部分で大事な部分は保護している。
この事を踏まえて貴方には私と共にあの幽霊を守る事を要請します」
と、返して来た。
真実を聞かされ怒りを覚えたけど、私は不本意ながら受け入れる事を承諾し、以降はレイの覚醒後に絡むであろうコヨミに取り憑いて様子を伺う事にしたのです。
「じゃあ、俺を殺した犯人はBも知らないと言う認識で良いのか?」
レイが問うが、その答えについては真智子も知らないと言うのが本当の所だ。
と言うのも会話は最初だけでその後は覚醒した時に少しだけの状態なので最初の情報しか知らないと言う。
そうか・・・では、今からコレを孵化させるが良いな!?
そう言いながら俺と真智子を見据えた水面様が俺達の許可を貰う事なく卵に気を入れ始めるが水面様だけでは手に負えなかった様子で苦悶の表情を浮かべる。
コイツ…何処まで…ンっ?
先程迄感じていた水面様の圧倒的な存在感を感じられなくなり、心做しか体格にも影響を及ぼす程になった頃、見かねた楓夏様が力を貸す様に卵に手を翳す。
ピカッ!!
程なく卵が眩い光を発し、収まったと思ったらそこに居たのは…
なっ……………
か…カワイイ……………
これがそこに居た全員の第一声であった。
猫とウサギを足して2で割ったと言う表現しか出来ない程の姿をした小動物。
暫しの間、後ろ足で耳の裏をボリボリと引掻いたり顔を洗う仕草をしていた小動物は程なくその愛らしい表情でレイを凝視したかと思ったら水面の掌の上からピョンと跳ねてレイの右肩に乗り頬ずりを始める。
「幻獣族 カーバンクルとな…有り得ん…」
幻獣族
魔界に於いてごくごく稀に出現する突然変異種であり、その希少価値から発見され捕獲されてしまうと、良くて見世物悪くて解体されて部位ごとに闇で高値取引される程だ。
事態を重く見た魔王は幻獣を保護するエリアを設置し、幻獣達を保護する事になる。
今回姿を現したカーバンクルは希少価値は低いものの、所有しているだけで妖気への耐性が爆上がりする事と見た目の可愛らしさもあって人気が高い。
当然ながら驚いたのも有り得んと呟いたのも水面だ。
理由は、妖怪も人間と同じで哺乳類や爬虫類と言った分類が有り、カーバンクルは哺乳類に分類されるので卵から孵化するなんて前代未聞なのだ。
以上の理由から水面が有り得んと呟くのも無理はない。
どおやら楓夏と水面は別の個体が孵化すると思っていたらしい。
後で皆で話し合った結果、このカーバンクルの名をココと名付けようとしたのだが、全力で拒否って来たので困り果てた挙げ句、苦し紛れにローラでどおだ?と提案すると気に入って貰えた様だ。
と…まぁ…こんな事があって俺の中に居候が増えた事にゲンナリとしてしまったのであった。