第122話 強制連行
「聴こえるかな?」
混乱するアタシの頭の中に聴いたことがある声が響き渡る。
レイちゃん?
聴き間違えるはずがない。
声の主は紛れもなくレイちゃんだ。
でも、何でこのタイミングでレイちゃんの声が?
混乱するアタシの頭の中響く声で更に混乱するアタシ。そんなアタシになんかお構いなしに話し掛けてくる。
「随分と面白い展開になっているのね?で…どぉするの?」
面白半分、揶揄い半分で話し掛けてくるレイちゃん。この幽霊…間違いなくこの状況を面白がっているよね?きっと悪魔の微笑を浮かべて話し掛けているに違いない。
「決死の覚悟で告っているのだから、あまり彼を待たせてはダメよ?」
さぁさぁ!と促すレイちゃんに文句の一つでも言いたいけど、どおにかしてこの場を収めないとならない。
けど、こんな状況下では1択しか有り得ないじゃない!ズルいよ…
ハヤク♡ハヤク♡
女性の人形は気分は乙女と言った仕草をしながらドキドキワクワクしている様子。
まぁ、人形なんでドキドキワクワクって表現は変かも知れないけど、その表現がピッタリと合うとしか言い様がない。
「罪悪感からの告りなら返事はノーだよ!?」
優からしたら清水の舞台から飛び降りる気持ちで言ったのだろうけど、アタシは躊躇なく言った。
真逆の事を期待していた人形達は驚きのリアクションをしたけど、関係ないね。
アタシの返事に対して
「それは絶対に無い!俺が香菜の旦那になる!そう決めた!」
力を込めた言い方に確かな覚悟を感じたけど、そんな事でハイそうですかと行く訳には行かない。
だから、何でそう決めたの?と問い質したら
「だって、家事とか立ち居振る舞いとか何もかも全て優香より女なんだもん…優香より美人だし…そんな秀一を男として見る事が出来なくなって当然じゃない?…それに優香は女同士は絶対にイヤ!こうなったら優香が男になるしかないじゃない!?」
と、返して来る。
・・・ハァ〜…
やっぱりそこなのね…
確かにそれは否定出来ない事実なのよね…
それに、一度言い出したら絶対に曲げないから質が悪いとキテる…
アタシが折れるしかないじゃない!!
「観念しなさいな」
呆れた様に囁くレイちゃん。
「もう!解った解りま・し・た!アタシがお嫁さんで優が旦那様で良いよ!但し!浮気や不倫は絶対に許さないからね!!」
良いように丸め込まれた様な気もしないけど、アタシが折れるしかないのよね。
どおなっても知らないからね!!!
心の中で叫びつつ、優の申し出を受ける事にした香菜であった。
おめでとう!
おめでとう♡
おめでとう♡
アタシの中に直接響き渡る3人の声。
しっかし…誰の声なの?
人形がパチパチと拍手をしながらアタシ達を祝福している様子。
良く出来た人形?だと思ったのだけどそうではなかったの。
!!?
人形から白いモヤから出て来たと思ったら糸が切れたように人形が壁に凭れ掛かる。
出て来たモヤが人型になって行き、遂にハッキリと姿が見える様になる。この後に及んで怖いとか戦慄を覚えたとか言った感情はなく、ただ事実のみを淡々と受け止めていた。
てか、アタシって見えない人じゃなかったっけ?
母親は祓い屋稼業をしているので、当然見えるのだけど、アタシはその力を受け継いでいなかったみたいで例え目の前に居たとしても見えるどころか感じる事さえ出来ない筈。
そんなアタシにも見えるって…
等と考えていたら、レイちゃんが協力してくれているみたい。
だから見えるのか。
「貴方方は?」
初めて見る顔に誰ですかと問い質したアタシ…カナリ間抜けだったと思う。
然し、そんなアタシを小馬鹿にする事もなく自己紹介を始めた。
いやぁ〜…驚いたのなんのって…
レイちゃんにレイさんそれに奥さんのコヨミさんとその子供の天音ちゃん。
そして、天音ちゃんの中に風神様?
神様に対して不敬極まると思うけど、その姿はどんな芸能人よりもメッチャ美人。
勿論、その事にも驚いたのだけど、もっと驚いたのはレイちゃんとレイさんが一心同体であった事。
事情を訊いたのだけど、正直言ってレイちゃんとレイさんは同一人物としか思えない。
確かに人格とか全てが別人だよ?でも、何気ない仕草とか話し方とかが同じなのよね。
まぁ、長い間一緒にいるとの事なので似てしまっただけかも知れないけどね。
色々と気になる事があるけど、ここで更に驚きの話が齎された。
そう、アタシの原作がレイちゃんとコヨミさんに読まれてしまったのだ。
まぁ、書いてるだけでは何も進展しないので良い転機にはなるとは思うけど、言いふらした犯人は…
優…しかないよね…
申し訳無さそうな表情をする優を横目にコヨミさんが続ける。
話しの内容は、アタシと真逆な人が居るけど、会ってみない?との事。
どおやらコヨミさんはアタシと芳賀俊也さんを組ませたいみたいで、レイちゃんも同意の様子。
てか、根回しは終わってるって…それはフライングだよ!?
てな訳で、黄瑠璃庵で初顔合わせをすることになってしまったのであった。
………
……
「ったく…何時もいつも強引なんだよ!このクソ幽霊一家はよぉ〜!」
呼び出され、席に着くなりレイを睨み付けて悪態を吐く俊哉にそこまで言うか!?呪うぞ!?とツッコミと脅しを入れるレイを宥めるコヨミが俊哉に香菜を紹介するが、俊哉の興味は香菜の原作なのでレイ達を無視して話し合いをする。
「そうなんだ…是非とも見せて欲しいけど良いかな?」
話し合いの中で興味を持った俊哉が香菜の原作を見せてと言い出すとアッサリと快諾する香菜。
お互いの求める事がガッチリと噛み合った瞬間であった。
「後は任せておけば良いかな?」
安心したような表情を浮かべてコヨミが呟くと同意するように真智子が頷く。
すると真剣な面持ちで俺達をスタッフルームへと連行して行く。
「・・・あの幽霊達って…」
その様子を見ていた優が不思議そうに首を傾げると俊哉が「何かと忙しい御仁達だから気にしない方が良い」と言うだけに留まった。
………
……
スタッフルームへと連行されると法衣を纏った三条が正座をして待ち構えていて
「準備は整っております」
と、言ってきた。
準備?何それ?美味しいの?
訝しげに楓夏様を見る俺達を突然三条が結界に閉じ込め、楓夏様が補強する様に更に結界を張る。
「これくらいして置かなければ逃げ出す可能性が高いからのう」
ドヤ顔で俺達に嫌味なことを言い出す楓夏様。
この後に及んで何をしようってんだこのドS共が!!
口まで出掛かった声を飲み込んで様子を伺っていると、結界ごと車に押し込まれてしまう。
「フン!この狸め!こんな場所に存在しておったとはな…」
「はて…隠していたつもりは有りませんが?」
「まあ良い…早く連れて行け」
「御意…」
俺達が連れてこられたのはコヨミの実家でもある山海寺の本堂の裏。
コヨミも知らなかったみたいだが、どおやら本堂の裏には隠し扉が設置されており、そこから御本尊の裏に行ける様になっていて、更に隠し扉が在る。
隠し扉を開けると地下へと続く通路がポッカリと開いていて、俺達を連れた三条が誘われる様に降りていく。
「海野三条と同行者5名通らせていただきます」
100m程降りただろうか、何処までも続くかと思われたが唐突に終わりを告げるように行き止まりになる。行き止まりには御札が一枚貼られているだけで、他には何も無い。
御札の前で姿勢を正した三条が指が複雑骨折しそうなややこしい印を結び名乗りを上げる。
すると、今まで行き止まりであった壁が掻き消える様に消えたかと思ったらその先は…
雲ひとつない青い空と何処までも続く湖。
澄んだ水は空の色を映し出していて、見た目は青一色の世界が広がっていた。
バウッ!!
戸惑う俺達の前にいつの間に現れたのか、立ち塞がる様に巨大な三つ首の犬が立っていて着いてこいと言わんばかりに1度吠えるとクルリと向きを変えて歩き出す。