第120話 秀一と優香と幽霊屋敷2
引き続き優香(優)視点となります
そんな事があって今日、俺と香菜は幽霊屋敷の前に居る。
「2名様ごあんなぁ〜い」
係りの方が扉に手を掛けると、態とらしくギィ〜〜っと嫌な音をたてながら開く扉を通り抜け扉が閉められた途端
うぅぅぅぅぅ…
とか
あ゛あ゛あ゛…
とか…何やら心スポや事故物件動画で聞ける様な人の呻き声が通路内に響き渡る。
何度聞いてもこの声は慣れないな…
拒絶しないまでもゾワッとした感覚が湧き起こって来るんだよ
隣には香菜が俺の袖口をシッカリと掴んで歩いているけど、既に顔が真っ青な様子。
そう言えば、香菜って幽霊とか嫌いだったっけか?
俺がそう言う動画を観ている時は絶対に近寄らないし、一緒に観ようぜと誘っても絶対に嫌!とか言って拒否するし。
それでもレイちゃんとやらは大丈夫って言うのは何だかなと思う。
「何だか寒いね」
「うん…寒いのに湿度は結構有りそう」
冷房が効きすぎているのか、身震いしながら香菜が呟くと俺も感染ったのか、一緒になって身震いしてしまう。
通路に設置されている温度計を見ると、室温10℃湿度82%と表示されていた。
確か、パンフレットには室温が低い通路には「幽霊がいますのでお気を付けください」と書いていたっけなとか考えていたら妙なことに気が付く。
第一通路は機械仕掛けの人形が相手をしてくれるゾーンだと載っていたけど、其れ等は全く作動しておらず、代わりに纏わり付く様な重い空気と俺達を観察と言うか舐めるような視線を感じる。
然も、一つだけではなく幾つもの…
「ちょっと待って…」
嫌な感覚を覚えつつ、奥へと歩を進めようとした俺に香菜が小声で話し掛けてくる。
「足音が2つ多い…」
言われて気が付いたけど、確かに足音が多い気がする。でも、多い気がするだけで、そうではない気もする。
俺達の歩調に併せて歩いていたら気付き難いのも無理はないよと思うので、気付かないフリをして奥へと進もうとしたのだけど、香菜は
「踵からではなく爪先から着地する様に軽く歩いてみて」
意味が解らないと言った表情をする優に手本を見せたら納得した様に真似して歩き出したら足音が抑えられた。そのまま歩いていると、今度はハッキリと2つの足音が後ろから着いて来ているのが解った。
何気に後ろを振り向いて確認してみたけど、誰も居ない。
俺も香菜も見える人ではないから、足音が聴こえても声が聴こえても周囲に居ても解らないんだよね。
見えない感じられないのが悔しいなんて気持ち初めて味わったよ。
足音は俺達に近付く事もなく、一定の距離を保って歩いているみたいなので気にしないのが1番かなと思うけど、やっぱり怖いものは怖い。
無意識のレベルで俺達の足取りも速くなっていく。
足音に追われる様に通路を進んで行くと、第2通路への扉が見える。
これで嫌な感覚から開放されると思っていたら…
「へぇ…男装に女裝ねぇ…君達そういった趣味の持ち主なんだ…フフッ…」
女性の声で耳元で然もハッキリと言われた…
決してバカにした口調ではなく興味津々と言うか、存在は知っていたけど初めて本物を目の当たりにした人の口調で…
俺達以外誰も居ない筈なので聴こえる筈のない声。
何で聴こえるのか解らないけど、あまりの出来事に腰を抜かしそうになるのを必死で堪えて扉に向かう。
第2通路は脅かしゾーンで、モンスターや妖怪に化けたスタッフに追い掛け回される場所で何ヶ所に設置されている隠し扉からスタッフが出てきてお客を脅かしたり追い掛け回すのだけど出て来る気配がない
「此処も寒い…」
何で?と疑問に思いつつ、通路に設置されている温度計を見ると先程と同じだった。
と、言うことはこの通路にも幽霊が居るのか?
・・・??
「何でテーブル?」
「さぁ…座ってお待ち下さいだって…どおする?」
「と…取り敢えず座ろっか」
通路に入るとテーブルが通路のド真ん中に設置されている。
テーブルにはクロスが掛けられており、その上には火が入ったランタンがメッセージボードを照らしていた。
メッセージボードに書かれていたので席に着く俺達。
少しして第1通路側から足音が聴こえて来たかと思ったらメイド服を着た女性?マネキン?がコーヒーカップ2つとミルクと砂糖を持ってきた。
「どおぞごゆっくり…」
俺達の頭の中に直接響き渡る女性の声。
これにはビビった!
近くで見て初めて解ったけど、目は嵌め込み式で動くみたいだけど、顔は型取りされている様子で口は開いていないので口を動かすどころか表情を変えるなんて事が出来ない筈…なのに笑顔でそう言ったのだからビビるのは無理もないだろう。
俺も香菜もブラック派なので何も入れずにコーヒーを口に運んだのだけど、ビビったせいで手が震えて上手く飲めない…けど、メッチャ美味しいコーヒーだと言うことは解った。
これは後で知ったのだけど、このコーヒーは黄瑠梨庵で一番人気のコーヒーなのだそう。
「行こうか」
美味しいコーヒーを飲み終えて香菜を促した俺は第3通路へと向かうべく歩いていたのだけど、先程のメイドが脳裏に焼き付いて身体の震えが止まらない。
そんな俺の腕にしがみつく様に寄り添って「大丈夫だよ」と言ってくる。
その声に勇気付けられた俺は第3通路の扉を開ける。
「何この通路…さっきよりも寒い…」
温度計を見ると気温7℃湿度80%で今度はそっちの方で身震いしてしまう俺達。
それでも出口に辿り着かないと脱出出来ないから前へ進むしかない。
これ以上何も有りません様にと願う俺であったけど、見逃してくれる程甘い人達ではなかった。
「ねぇ…お兄ちゃんとお姉ちゃん…手くらい繋いだら?付き合ってるんでしょ?」
声の感じを察するに10歳位の女の子だろうか。不意に現れた人の気配に驚く俺達。
エッ………?
何?
俺達以外誰も居ない筈なのに何故背後に居る?
香菜も聴こえた様で蒼ざめた顔をして俺を見ている。
そんな俺達に畳み掛ける様に、然も揶揄う様に
「アレレ?着ている服があべこべだよ?何で?ねぇ…何で?」
訊いて来るものだから思わず後ろを振り向いてしまったのだけど、そこに居たのは…
ヒッ…!
確かに見た目はゴシックドレスを着たオカッパ頭の10歳の女の子。その女の子の絵の具の白で塗ったかと思わせるような白い顔がニタリと不気味な笑みを浮かべて俺達を見ていた。
それだけなら大してヒビリもしなかったと思うけど、目と口の中が真っ黒!まるで人の皮を被った影かと思わせる程の真っ黒だったのだ。
女の子はスッと消えてしまったのでコレは幻覚だと思い込む事にして出口目指して歩き出そうとした。
その時
何処に行くの…ねぇ…?
今度は下半身にしがみつく感触があったかと思ったら寂しそうな声がした。
こ…この声は…先程の女の子?
む…無視無視無視…コレはリアルな幻覚だ…
そうは思いながらも目線は下に行ってしまう。
「ねぇ…遊ぼうよ…私寂しいの…遊んでよ…」
声の感じは一緒だけど、姿は中学生程の姿の女の子が床から湧き出す様に出てきていて俺達の足を掴んでいた。
この時には俺も香菜の中は恐怖の二文字で埋め尽くしていて、必死になって女の子を振り解き香菜の手を握って出口に走り出そうとしたのだけど…
ねぇ…遊んでよ…
目の前に佇む様に立つ3人の男女。
見たことろ親子にも見えるけどその顔は先程の10歳の女の子と同じ!然も、ニタリと笑みを湛えてる。
あまりの驚きに固まってしまう俺達に畳み掛ける様に背後から覆い被さる様に女の子が抱きついて来てこう言って不気味な笑い声を挙げた。
逃げなくても良いじゃない…ねぇ…遊んでよ…
その時、俺達の意識は明後日の方向に飛んでいったのであった…