第119話 秀一と優香と幽霊屋敷1
後半は優香視点となります。
あれから約1ヶ月が経過したある日
「オッ…来たな…?」
「…?」
「あぁ…コヨミは知らなかったか?最後尾に並んでいるのが秀一と優香だよ」
「田中貴司ご一行の被害者の…でも、なんか違和感アリアリなんだけど?」
「あっちの方が好みじやねぇの?」
「全然?アタシが好きなのは異性装無しの純男同士だもん」
「どお違うの?」
「心の問題よ心の」
「心の問題ねぇ…」
快晴の空の下、今日も行列が出来ている幽霊屋敷。
その行列を屋上から見物しているのはレイとコヨミ。
楓夏様の洞窟内での出来事以来、昼間でもある程度なら行動出来る様になった俺達はこうして幽霊屋敷に来る人達の様子を見ているのだ。
秀一と優香の姿を見ていたコヨミが不思議そうに俺に訊ねて来る。
そりゃそうだ。
この時の2人の姿は、秀一はレディーススーツ姿で優香はメンズスーツを着込んでいたのだから。
勿論、周囲の人達も気づいていたのだが、幽霊屋敷に住み着いたと噂されている幽霊を脅かしてやるために態とそんな姿をして来たのだろうとしか思っていなく、無視を決め込んでいるのだ。
まぁ、そんな姿をしていても別に驚きもしないし”キモッ!”なんて思わないから無意味なんだけどな。
幽霊屋敷は祓い屋の海野三条が監修したとあって、オープン前から本物の幽霊と出会える可能性の有る幽霊屋敷として宣伝していたので期待したお客が殺到しているのだ。
可能性があると謳っているだけなのだから、本当に出会えるかどおかはお客の運。
最初こそ、守護霊を説得して全ての人達に俺達を認識して貰おうと思っていたのだけど、そうは問屋が卸さないのだよ。
俺達は守護霊より格上とあってすんなりと聞き入れて貰えるが、問題は新人の2人だよ。
守護霊の方も俺達の姿を見るなり力関係を理解し、変なことはしないで下さいよと言って見て見ぬ振りをするだけだけど、あの2人はそうは行かない。
楓夏様指導の下、ある程度の修行をしていても相手が頑固な守護霊であった場合は拒否られてしまう。
そう言う感じなので、出会える人と出会えない人が出てしまうのだが、それなりに驚かせているから今の所問題はないかな?
宣伝は雨音のみでしていたので、来ても周辺の街からだけかと思ったら、どおやらネットで情報が拡散されているみたいで県外(特に関東方面のお客が多い)からも本物の見たさに殺到中である。
以下はネットでの反応
好意的な反応
「祓い屋の海野三条が監修したとあって、ヤッパスゲェわ」
「最後の通路…何だアリャ?怖すぎなんだが?」
「本物のキタァーーーーーーーー!!!」
「俺は信じない方だけど、あんなもん見せられたら信じるほかないわな」
「で?何体の幽霊が居るの?1人や2人じゃないよね?」
「見えないけどそなりに楽しめるし黃瑠璃庵の料理も美味い。既に常連組ですわ」
「ヒャッヒャッヒャッって笑い方する幽霊って…笑い方が変態過ぎて草」
「変態どころか腐女子もいて草」
否定的な反応
「何か居た感もあるけど、それだけ…ホントに居るの?」
「一応、見えたけど、全てトリックで説明つくレベル」
「ヤラセだろ?所詮幽霊なんて存在しねぇって!」
「ビックリするのは第2エリアくらい後はつまらん」
「金かかってんな〜って感じ?元取れるの?」
とか、皆好き好きに書き込むもんだから嫌がおうにも知名度は上がるってもんだろ。
気が付いたら平日の昼間にも関わらず連日長蛇の列を形成する程の大盛況となったのである。
好意的な反応とそうでない反応の比率は7:3と言った感じかな。
そんな中、こんな書き込みを見つけた。
日本でも指折りの祓い屋 海野三条氏がプロデュースした幽霊屋敷とあって見えない僕でも幽霊を視認し、剰え話す事も出来ました。
ホントにありがとうございました。
この幽霊屋敷なら、某ウーチューバーでも土下座して謝罪すること間違いないのではと思います。
ン〜…喋ったって事はアイツかな?某ウーチューバーとは誰のことか解らないけど、明らかにソイツを挑発しているよな?
まぁ、幽霊屋敷内は撮影禁止だと言うことは謳っているから変なことは出来ないと思うから、ほっとけば良いかな。
然し…俺はこの書き込みは直ぐに削除する様に助言するべきだったと後々後悔する事になる。
まぁ、なにはともあれ連日の様に大盛況となっている幽霊屋敷にやって来た秀一と優香を饗す方が先だよな。
その時、アンテナを通してお義父さんから例の物が出来上がって来たからスタッフルームへ来てくれと連絡が入ったので行くことした。
「一応、皆の姿に合わせて造らせたけど、どおだ動かせそうか?」
スタッフルームへ行くと既に来ていた天音とゆう子が壁に凭れ掛かる様に佇む4体のソレを興味津々に見ているのが解る。
ソレとは、幽霊屋敷の中で使う依代だ。
見た目はラ○ドールを想像して貰えれば良いかと思う。
金属だかプラスチックだか解らないが、硬くて軽い素材を使用した骨格にシリコンで肉付けしたボディの総重量はどれも30KGもなく、型取りされた表情は嵌め込み式の目以外は動かす事が出来ないが、全ての関節が動く様になっている。
乗り移るのは簡単に出来るけど問題は動かせるかどおかなんだよね。
「フム…大丈夫そうじゃの…でも…無理は出来そうにないから戦闘向きではないの…あと、もう少し身長が欲しいところじゃが…これ以上は無理は言えないの…」
最初に動かしたのは、楓夏様だ。
手足の可動範囲を確認しながら呟く楓夏様。まぁ、当然と言えば当然か。
コヨミは胸の大きさ、ゆう子は身長がもう少し欲しかったと文句を言っていたけど、それは無視で良いと思う。
とは言え、服とかはリクエスト通りに揃えて貰えているので贅沢は言えないよな。
然し、この依代はエネルギー消費量が半端ない。
稼働時間は30分と言った所か?それ以上は要石に戻って充電が必要だ。
なので、使い所を考えないとならないと…だな。
「そろそろあの二人が入場となりますが如何なされますか?」
月光の連絡を受けた新月が俺達にその事を告げに来る。
ン?もおそんな時間か?
ン〜…と…どおやらあの二人が本日最後のお客みたいだな?依代の試運転がてらシッカリとおもてなししてやるとしますかね。
俺は、新月に指示をして二人を饗す準備を始めたのであった。
………
……
私、優香は秀一と共に学園を自主退学した後、毎日の様に秀一のお見舞いに行っていたのだけど、秀一の様子を見ていてある事に気が付く。
何に気が付いたかと言うと、秀一の肉体的にもそうなんだけどそれ以上に酷かったのが精神的な変化。
先ず肉体的に言うと、胸が発達していて既にBカップは有りそうだと言う事とヒップの方も丸みを帯びて来ている言う事。
精神的にも女性化しているとしか言いようがなく、まるで女同士で話しているかの様。
本人は普通に話しているみたいだけど、優香には違和感バリバリなのよ。
聞いた話では奴等は毎日の様に調教と言う名の自殺教唆を行っていたと言う事だったけど、それだけてはなかった様だ。
学園には秀一の様な目に遭っている生徒が何人か居るせいか、常駐している保険担当医が居るのだけど、その担当医が調達した女性ホルモン剤を生徒に横流ししていた。
勿論、容量・用法を伝えなかったおかげで一度に大量摂取させていたらしい。
女性ホルモン剤は強力だったらしくて効果は絶大で短期間で女性化に成功したのだけど、問題は精神の方だった。
自殺をさせる直前になると、重度の鬱病に掛かった様になっていたみたい。
勿論それは秀一の演技もあったのらしいけど、鬱病になっているし、死んでこの苦しみから脱出したいと思っていたのは間違いない。
そんな状態になるとは思っていなかった奴らは、あの日遂に自殺をさせる事にしたとの事だった。
どおしたら…
悩んだし苦しんだ…
泣かない日など無かった…
優香の事を心配したレイさんが時折様子を伺いに夢枕に立ってくれて話し相手になってくれたけど、解決の糸口さえ見出だせなかった。
アイツ等が憎い…
然し、そんな優香にレイさんが言う。
「終わった事をとやかく言うのはヤメロ
後悔と自責の念に駆られる前にお前がやれる事をやれ」
田中貴司ご一行は終わったも同然だから、今後は秀一とどお向き合って行くかを考えろ。役にも立たない後悔なんてしている暇は無い筈だと言いたいのだと思う。
通院は必要だけど、以外にも早く退院出来た秀一を放置しておくのも出来なかったので静香さんと優香の両親に許可を貰って一緒に住み始めたのだけど、この時には既に秀一は男として生活をする事を拒んでしまっていた。
もうそれしか無いよね…
過酷な虐めによって捻じ曲げられた道が元に戻せないのなら優香がその道に寄り添って行くしかないよね…
覚悟を決めた優香は秀一と話し合い、その結果…
優香の一人称は俺
名前を優
秀一の一人称は私又はアタシ
名前を香菜
と、呼び合う事にして男女の役割どころか下着も含めた服装をもそれに合わせて着て生活する様になった。これからは、俺が香菜を女以上に女に教育していかないとならないな。
この事をレイさんに報告したら…
「後悔するなよ」
と…1言言っただけであった。