第10話 レイ大爆笑される
「そんな事になっていたんだ?けどよ、ブツブツさんは無いんでねぇの?」
当面の名前を付けて貰った後、コヨミから覚醒する(正気を取り戻す迄の間の事を)迄の事を聞かされた俺は知らない内にブツブツさんと呼ばれていた事に抗議したのだが、その俺に
「だって仕方がないじゃない?話し掛けても反応無いし本当にブとツしか言わなかったしさ。」
と返して来るコヨミ。まぁ、それもそうかなと思ってしまったと同時にその名前で呼ばれなくて良かったと思ったよ。
だって、そのままブツブツさんなんて名前で呼ばれていたら発狂もんだぞ?
それに、そのネーミングで呼ばれていたら死ぬ前の俺は妖怪だったみたいじゃねぇかよ。
てか、真智子よぉ、レイの生前は本当に人間だったの?的な目で俺を見るのは止めてくれ!
妖怪と言えば、俺の後方の上空100m辺りを付かず離れず憑いて来てるあの黒いスーツの男は何者だ?まぁ、現状で害が無さそうだから無視しておいても良いだろうけど、間違いなく妖怪だろう。
「ねぇ、生前の事ってホントに何も思い出せないの?」
念を押す様な問い掛けに俺も必死に思い出そうとしたのだけど何も思い出せない。
「・・・ダメなのね…そうだ!ちょっと着いて来て貰える?」
諦め半分で何も思い出せないと伝える俺に何かを思い付いたコヨミは着いて来いと言って街の方へと歩き出す。
「此処は?」
正味30分程歩いた所に在るキメラではなく5階建のマンション。その201号室に連れてこられた俺に中へ入れと云うコヨミに促されて入った俺は部屋の中を観察しようと思ったのだが、更に玄関を入って右側に在る部屋へと促し、部屋の中に在るソファーに座る様にと言った後で窓際に置かれている机からスケッチブックを取り出して俺の顔を見ながら何やら書き出す。
「直ぐに終わるから少し我慢していてね」
そう言ってスケッチブックに向かうこと約10分。
「レイの事を知っている人を探すにも写真か似顔絵が必要でしょう?それに写真でははっきり写るかどおか解らないからね…で、書いてみたの…どお?」
いやぁ~流石元漫画家だけあって似顔絵は朝飯前だわ。スケッチブックには先日鏡で見た俺が確かに居たよ。
「スゲー メッチャ上手!」
あまりの出来の良さに素直に誉めちぎる俺の言葉にメッチャテレまくるコヨミ。
三十路間近の女のテレた顔がメッチャ可愛い。てか、コヨミは可愛い系の女なのだ。
そんな女が元漫画家で男同士の世界が大好きでって、普通に男が好きな女をやっていればアイドル的な存在にも成れたのかもな。
勿体無い話だよなと思ったら、真智子も同意だったみたいでウンウンと無言で頷いている。
てか、真智子よぉ、さっき隠れるって言ってなかったか?バレても知らんぞ?
「じゃぁ、この似顔絵を使って明日からレイを知ってる人を探すから付き合って貰える?」
うーむ…どおやらコヨミは俺を気に入っているみたいだな?明日かぁ…って、もう、日付は変わっているけど、日付が変わっても寝るまでは今日だと思っているみたいだな。
それも良いかな?と思ったのだけど、真智子が腕でバッテンを作りダメ出しをしている。
明日…( ゜д゜)ハッ!
勲との約束を忘れてたよ。
勲は俺ではなく真智子で会わないといけないし、その前には雨降山で充電しないとならないから適当な理由を作ってコヨミの申し入れを断ったよ。
「そう…」
俺に断られて寂しそうな素振りをするコヨミ。
コヨミの素振りを見て、チクリと僅かな痛みが心に走る。
どおやら俺はこの手の女に弱いらしい。
まぁ、図書館にも行きたいし、あの二人組を懲らしめてやらないとならないからな。
ゴメンな
記憶探しは明後日以降でも遅くは無いだろうよ?焦っても良い結果は得られないと思うしよ。
さて、夜も更けてきたしそろそろお暇するとしますかと思ったのだが、俺を呼び止めたコヨミが1つ技を教えてくれた。
その技とは
壁抜け
「壁は抜けられると強く思う事が大事よ?」
肉体ではなく幽霊だから物理法則は通用しなくなるから出来る筈よとの事だけど、昼間見たNG級の奴等は誰一人として使えていなかったぞ?
「あぁ…そんな事か…」
昼間の出来事をサラリと説明すると以下の様な説明をしてくれたよ。
街中をさ迷う幽霊は生前の記憶に捕らわれているので生きてる時と同じ行動しか出来ない。だから当然壁とかも通り抜けられない、その先の景色を遮断する物と認識しているから。
「肉体を持ってない幽霊だから出来る筈なんだけどね。生前の記憶が邪魔して出来ないのよ」
そう言って試しにドアの横の壁を通り抜けて廊下に出てからまた戻って来てとリクエストするコヨミ。
やれと言われて出来たら世話ないわな…
等と考えながらも壁は抜けられると強く思いながら壁に手を当てて通り抜けを実行してみるが…
ムズい!!
やっぱり壁と認識した時点で物理法則?の縛りが発生するみたいだな?体当たりしたり都合、10回挑戦して出来なかったよ。
う~む・・・壁を壁と認識するからダメだって事は解るがコレは無意識レベルで認識しているからな。
「何かルーティンみたいなものをしてみたらどお?」
どおしたら良いかと考え込んでしまった俺に1つの提案をするコヨミ。
ルーティン?
ハテ?
何ソレ?
意味が分からず聞き返した俺にこういうモノよと言いながらPCを起動させ、ウーチューブから、とある動画を視せてくれた。
成る程、何かをする前に決まった事をやって集中力を高めたりする事と認識した俺は咄嗟に思い付いた事をやってみる。
・・・スルッ!
やったぜ!壁を抜けてやったぜ!
思い付いた事をやりながら壁抜けに成功した俺はもう一度壁を抜けて部屋に戻ると途端に大爆笑するコヨミ。
「何だよ!せっかく壁抜けに成功したのに何で大爆笑してんだよ!」
やっと成功したのに何で?と思ったら真智子のヤツも笑い転げていたよ。てか、俺のルーティンってそんなに面白かったか?
あまりの反応におもいっきり抗議すると笑いながら
「だって、アホ面に鼻くそホジルポーズのまま壁抜けするとは思ってもみなかったからついwww」
と返事をするコヨミ。同様の理由で真智子も笑い転げてんだろうな。
だって仕方がないだろ?壁は抜けられないと認識している以上、頭の中を空っぽにする必要があるのだし、そのルーティンがあのポーズと表情なのだからよ。