第101話 妖綺譚 10
話が一区切り着いた所で雲海様がオラに労いの言葉を掛けてくると六郎が何でオラ達に相談してくれなかっただ?と詰め寄ってきたけんど、そんなもん言ったら最後、役目を横取りして自らの手柄にしようとする輩が出て来るに違いないだよ。例えば、弥太郎とか弥太郎とか弥太郎とかな…
アイツは欲が深すぎたから絶対に知られる訳には行かなかっただよ。
こうなると、弥次郎の今後がどおなるか心配だが、こればかりはオラにはドオする事も出来ないし、村長に任せるしかねぇな。
後は、この地に雨を降らせて貰えればこの問題は解決した事になると思ったのだけんど…そうは問屋がおろしてくれなかっただよ…
何故なら、3〜4日に1度、最低でも7日に1度は雨を振らせて欲しいと村人が要求したのだ。
今迄の謝罪も兼ねて雨を定期的に降らせるのは楓夏様なら造作もない事だけんど、楓夏様も帰還する場所があるのだから、幾ら何でも無理な要求と言うものだべさ。
この要求には楓夏様も困った様子であっただが、雨無山の麓に妾を御神体とした神社を建立し春には豊作祈願。秋には収穫祭を開くと約束してくれるのなら可能だと返答して来たのだけんど、そんな事は村人には無理に決まってる。
なんせ技術も無ければ都から宮大工を連れて来る資金も無いのだから。
「何をそんなに悩んでいるのかな」
どおしたものかと悩む一同に突如として聞こえて来る凛とした声にザワつく村人を無視する様に湧いて出た初老の男性。
「おぉっ!緑発殿ではないですか!然しそのお姿は…」
「うむ…儂の本体は未だ妖怪門の根元に囚われておってな…分身体を飛ばすのがやっとなのだよ」
「そうだったのですか」
「で?何でそんなに悩んでいたのじゃ?」
「それが・・・と言う訳でして・・・」
「ふーむ・・・良かろう!その神社は儂が何とかしようぞ!」
「本体が動けないのにどおやって…」
「なぁーに心配せずとも何も問題は無い。
その代わりと言ったら何じゃが、その神社に儂も御神体として祀って貰おう!
村人よそなた達も文句あるまいな!?」
唐突に現れて強引に事を運んでしまった緑発と名乗った男は古くからこの土地に棲み着く龍神族の1体なのだそうだ。
何故、龍神様がこの土地に棲み着いていたのかと言った理由は訊けなかったのだけんど、緑発様が居なければこの土地は痩せこけて草木一本も生えない土地になってしまうとの事だよ。
よもや神社まで用意して貰えるとは思わなかった村人は無条件で楓夏様達の要求を飲んだのだけんど、本当にそれで良かっただか?約束を守って行くってのは大変な事だぞ?軽く考えてないだか?とは思ったものの、決まってしまった事柄に要らん突っ込みを入れても野暮と言うものだろうから黙っている事にしただ。
「雨はそなた達が村に帰った頃に降らせるとしよう。本日は帰ってまた3日後に参るが良い」
その日の夕方
村に帰還した村人が待っていたのは、久しぶりの雨に歓喜する他の村人の歓声であっただが、オラ達にはまだやる事が有る。
そう、弥次郎や他の村人に事の顛末を伝えなければなんね。
雨が止むのを待って村人全員を招集し、皆に弥太郎の事と雨無山での顛末を村長が伝えたのだが、皆の反応はと言うと
「勝手な事をした弥太郎が悪い」
とか
「今迄の罰が当たっただよ」
とか…兎に角、誰も弥太郎の死を悲しむ者が居なかっただよ。
弥次郎…いや…お七ですら「コレで恥ずかしい思いをしなくて済む」と言っていた程だ。
とは言え、お七は天涯孤独の身となってしまっただな…今後はどおするのか…オラの薬でかなり良くなったとは言え、病弱なのは変わらねぇだよ。
然し、捨てる神あれば拾う神ありと言うか調子が良いと言うか、弥次郎が年頃の娘だと解った途端、数人の男が求婚して来ただよ。(親バカかも知れねぇけんど、千代よりは劣るが結構なベッピンさんだよ)
その男達はお七の身体の事は知らねぇ筈だからその内の誰かに嫁がせるなんて事は出来ねぇよな。
とか考えていたら村長が「五平の所で養ってはくれねぇだろうか」と言い出したものだから求婚者共からは非難の雨あられだべ。
お七の身体の考えるとソレが良いのかなと思わなくもないけんど、最終的にお七の意思に任せる事にした。
「オラ…もっと丈夫な身体になって改めてお婿さんを選びたいだ」
そうオラに言って来るもんだから求婚者からは罵詈雑言を浴びる事になってしまっただ…お七よ…此処でオメェが病弱だって事を皆に告げても良いだか?目で訴えるオラに無言で頷くお七。
何故皆がお七が病弱だって知らねぇかと言うと、弥太郎がひた隠しにしていたからだ。
だから、お七が病弱だって知っているのはオラと千代と村長の3人だけだ。
「お七は病弱で無理の効かねぇ身体だ!何処までやれるかわからねぇだか今後はオラがお七の身体が良くなる迄面倒を診る!その後、それでもお七を嫁にしたいと思ったらその時改めて名乗りを上げると良いだ!」
横で千代が「またおっとうは厄介事を背負い込んで」的な表情でオラを睨んで来たけんど、お七が美代と重なってしまっているオラは最後まで面倒を診ると決めていたし、千代もそこんところは理解しているので睨んだだけで何も言わなかっただ。
お七もそれで良いと返事をしたので求婚者達もそれ以上は何も言えなかった。
3日後
「ほぇ~…立派な神社だなや…然も鳥居の両側には天丸と地丸だか?」
緑発との約束通り村人総出で来て見れば、其処にはどおやって建てたのだと突っ込みを入れたくなる様な立派な造りの神社の前で雲海様・緑発様の2人がドヤ顔で立っていた。
狛犬代わりの天丸と地丸の石像の間を通り、鳥居を通ると村人総出で盆踊りをしてもまだ余裕が有る程の広い境内で村人を出迎えた楓夏様は前置きも何も無しにこの神社の管理は五平と千代に任せると言い放つ。
「な…なんと…」
楓夏様の1言でザワつく村人達を鶴の一声で黙らせ「では訊くが、この中で五平と千代以外に適任者は居ると言うのか!?」と問い質す楓夏様に誰も反論出来なくなる。
「良いか!五平と千代は今迄、妾達の為に動いてくれた!この恩に報いなければ妾達の気が収まらん!」
と、言い放つも当の五平は唯の薬師でしかない。それに、お七の治療を引き受けたばかりでそれを放棄して神社の管理は出来る筈もない。更に言うと、やれる自信も無い。
その事を正直に話すと今度は雲海がお七を見て
「フム…妖怪の血が混じっておるな…恐らくは妖怪の血がお七にとって良くない作用を齎せているだろうよ
良かろう!お七は我らに任せるが良い。
神社の管理はそこの右近が手助けしてくれる手筈になっておるから安心せよ!」
「村人よこれで文句はあるまいな!?」
緑発が神社を建設している間、雲海と楓夏は村人の事を観察していて、その結果、管理を五平に任せるのが一番良いと判断した様だ。
右近が力になってくれると知って1番喜んだのは千代なのは間違いない。
尚も煮え切らない五平に対して楓夏が何やら耳打ちすると渋々ではあるが了承した後、更に
「では、この神社の名は風龍神社
村の名は雨降村
この山は雨降山と名を変更せよ
そして宮司は五平
巫女は千代とする」
と高らかに宣言し、五平は薬師五平から久良光五平と名乗る様に言われた。この久良光と言う名は雨の神様 クラミツハ に肖ったとの事だ。
その後、雲海と楓夏は魔界へと帰還したが、この地に定期的に雨を降らせると村人との約束を守る為に分身体を残し五平達を見守る事にした様だ。
………
……
レイ「此処までが初代久良光五平の話だな」
コヨミ「ふぅ〜ん…で、お七はその後どおなったの?」
レイ「解らん!」
コヨミ「ヘッ!?」
レイ「妖綺譚にも史実にも書かれていないから解らんよ。6巻以降は同じ名前でも何代も後の久良光五平が書いたものだしよ」
真智子「そうなんだ
あの首塚と胴塚の話も出ているかと思ったのにな」
レイ「アレについては8巻の最後に少しだけ触れられているけど、見知らぬ集団に危険な者の一部を封じたから塚を護るようにと言われただけらしい」(てか、8巻を書いた五平はカナリいい加減なヤツみたいだったからコレが本当かどうか解らんがな)
真智子「そおなんだ…」
コヨミ「この後の巻はどおなっているの?」
レイ「都で起きた妖怪絡みの事件とかこの地を前川善兵衛が治めた時の話とか、その前川家が滅んだ時の話だな。何れも史実と変わらないし指して面白い話でもないよ」
真智子「・・・そろそろ出ましょうか・・・館長さんにも悪いし」
レイ「そうだな」
俺達は館長に丁寧にお礼を言って図書館を後にした。帰り際「また何かありましたら何時でも来て下さい」と言われたのは単なる社交辞令だと思いたくないな。
おっと…俊哉のヤツが何やら面白そうな事をやっている様だぞ?からかいに行ってみるとしますか。