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気が付いたら幽霊やってました  作者: 京子
第5章 ワンダーランドの落日と妖綺譚
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第100話 妖綺譚 9

「さてと…妾もひと仕事してこようかの…左近!」


「此処に…」


「妾は左近と共にひと仕事してくる。

右近は千代を守っておれ」


「承知!」


五平を乗せた天丸が出て行った後、左近と呼ばれる如何にも武闘派と見える男を呼び寄せ掻き消える様に居なくなる。


「何があっても私が守りますから大丈夫ですよ…」


五平も楓夏も居なくなって不安そうな表情の千代を励ます右近。


さて、楓夏と左近は一体何処に行ったのだろうか


………

……


ガオン!!


オラを背に乗せた天丸が咆哮と共に物凄い勢いで洞窟を駆け抜け、抜けたと思ったら周囲に雷雲を纏いフワリと空へと駆けてゆく。


「お…オラ…トンでもねぇ体験をしているだ…」


天丸の背はとても乗り心地が良く移動速度など全く感じる事も出来ないでいただが、途中、雨無山を目指す集団を見かけたと思ったらあっと言う間に見えなくなった所を見ると、かなりの速度で移動しているのが解るだ。


「どうした?」


雨土山の頂上迄到着した天丸が山に降りれずにウロウロする。

まさか、迷いの結界のおかげで降りられないとかの理由だか?だとすると、祠の前から歩いて行くしかねぇだが…

迷っている時間はねぇだな…オラは天丸に祠の前に降りる様に指示してそこから頂上目指して歩く事にしただ。


頂上を目指す事一刻程時間が掛かっただが、見覚えのある場所に到着したオラと天丸に襲い掛かってくる黒い影。

オラを守る様にその黒い影に飛び付く天丸。


バウッ!

バウッ!


黒い影はやっぱり地丸だっただか…驚かすんじゃねえだよ…まったく…2頭は久しぶりの再会に喜びを爆発させたのか、まるで喧嘩をしているかの様なハシャギっぷりでジャレあっている。


「五平か…久しいの…楓夏には会えたか」


程なく聞こえて来る山神様の声。何だか以前より弱々しく感じるだが…オラは楓夏様に会えたこと、楓夏様から神気玉を託された事を伝えると早速祠の中に納めよと返事が返って来るので、祠の中に神気玉を納める。


「危ないから少し離れておれ」


祠の中で神気玉が一際輝くとまたも聞こえて来る山神様の声。その声を受けて地丸がコッチだと言わんばかりに吠えるので慌ててそっちの方に行くと途端に祠が爆発した。

爆音と共に巻き起こる土煙と破壊された祠の破片が周囲に飛び散る。

然も、序と言ってはなんだが、迷いの結界も吹き飛んだ様子で朧げにしか見えなかった空がハッキリと見える。

暫くして土煙が収まると身の丈7尺は有ろうかと思われる人影が現れる。


「やっと出られたか・・・」


手足を動かし首をグルリと回すとゴキゴキと骨が鳴る音が聞こえる。


「ほぇ〜…山神様は天狗様だっただか…」


ゴツい体つきに背中から生える一対の翼。そして何よりも赤ら顔に長い鼻。

正確には大天狗と言われる種族だそうだ。

木の葉天狗や烏天狗と言った様に天狗は幾つかの種類に分けられているけんど、山神様はその中でも最強の大天狗だと言う事だ。


「では、愛する我妻に会いに行くとしよう

済まぬが五平よ案内せよ」


「ハハッ!案内致します…戻るだよ天丸!」


バウッ!


五平に呼ばれた天丸は再び五平を乗せて空を駆けるとその後ろを追う様に翼をはためかせ宙を舞う。


その頃…


風刃!!


!!即座に再生しおったか…う〜む…思ったより厄介だな…


周辺には楓夏に退治された妖怪達の死体100体が転がり、そして目の前には立派で頑丈そうな城門がその口を開けて更なる妖怪を召喚しょうと不気味な音を響かせている。

実の所、雨乞いの儀式で楓夏の治療に来た娘は帰りの道中、漏れなく捕らえられ妖怪の餌に成り果てていたのだ。

それを解っていながら何も出来なかった自分が酷く不甲斐なく情けないと感じていた。

だからこうして門を破壊する為に此処まで来たのだが、妖怪門と言われるこの門は意思もあれば自己修復機能まで備わっているが為にただ単に破壊するだけでは何れまた復活してしまう。

この妖怪門を設置したのは氷柱であり、雲海と楓夏を消した後、この門より大量の妖怪を呼び寄せ人間界を征服してやろうと目論んでいたのだ。


誰か居るのかの?


「ン?誰じゃ…誰か居るのか?」


どおしたものかと思案していた所に不意に聞こえて来た聞き覚えの有る声。

久しぶりのその声に思い出すのにも苦労する楓夏にその声の主がなのったその名は


「儂の名は地龍 緑発ハツ

何方かは存じませんがあまりこの門を刺激しないで下され。この門は攻撃されればされる程、頑丈でより強固になり、厄介さが増すのです。」


「おお!緑発殿でしたか!妾じゃ楓夏じゃ!覚えて居らぬか?」


「楓夏…おお!楓夏殿であったか…いやはや…妖怪共にほんの僅かな隙きを突かれて捕まってしまいましての…この門の力の源にされてしまったのです」


「なんと…では緑発殿を助けられぬではないか」


「現状では無理です。

先ずは門を閉めそれから厳重に封印して下され

そうすれば儂から力を吸い取る事は出来なくなり、時間は掛かりますが弱って行きます。

この門が弱った所で跡形も無く破壊するしか方法はないのです」


妖怪門は開いている時のみ緑発から力を吸収し、成長する様で閉じている時は休眠状態になるとの事。

この話を訊いてどうすべきかと僅かな時間ではあるが熟考した楓夏は直ぐに行動に移る。


「フ〜ム…

では、早速始めようとするかの…」


「お願いします」


完全破壊を目論んでいた楓夏としては現状では不可能と知り不本意ながら門を封印する事を決意し楓夏は門を閉める。


ギィィィィィ…


鳥肌が立つ様な嫌な音をさせながら閉まる門に近くに落ちていたかんぬきを掛け自らの気で作り出した札を扉に貼る。


永久に止まぬ竜巻よ

龍となりて

彼の者を封じよ


八岐の大蛇オロチ


楓夏の術で生み出された8柱の竜巻が龍の姿に変化して妖怪門の周囲を隙間なく取り囲む。

まるで意思を持っているかの如く絡み付き蠢く竜巻を見て頼むぞと1言呟くと洞窟へと戻って行く。


………

……


左近と共に楓夏が妖怪門の封印へと行っている間、特にやる事も無い右近は戯れに千代と会話を試みようとしたのだが、逆に質問攻めに合ってしまい困惑状態を通り越して、どお扱って良いのか解らなくなってしまっていた。


「じゃあ、右近様は妖怪なんだべか?」


「いえ…正確に言うと、妖怪と人間の混血で、私の父が妖怪です」


「そ…そうなんだべか…じゃあ、右近様のお父様は何処かで生きていると言うことだか?」


「はい…魔界の何処かで生きている筈です

因みに私は男でも女でもない…無性と言うやつです」


私に対する千代殿の反応が恋する乙女の反応だと理解したのですが、私は半妖で然も男でも女てもない無性だと知れば諦めれてくれるのではないかと思ったのですが…


「そうだか…じゃあ、お…お嫁さんとか…は…?」


・・・って・・・そう来ましたか・・・確かに千代さんは人間の女性の中でも美人に入る部類でしょうし、見た目以上に性格も良さそうではあるのですが…半妖の私と人間の千代さんでは寿命も違いますし無性の私ではお嫁さんなんかを娶る事は出来ないのですよ。

どおしようかと迷った挙げ句に、いると返答するつもりが私の口から出た言葉は「いませんよ」との1言でした。

真っ赤な顔をして照れながらも嬉しそうに良かったと呟く千代さん。

私、こう言った雰囲気は慣れていないと言うか、人間の女性に慣れていないと言うか、経験した事が無いからどお反応したら良いか解らないのですよ…

五平殿でも楓夏様でも誰でもいい…早く帰って来て下さいよ…


ホントに困った…


後日、この時の事を千代に問い質した五平殿の話によるとどおやら千代は私に一目惚れしていたらしい。それで何とか右近の事を知りたいと思った千代さんが積極的に話し掛けたのだそう。



「ほぉ?奥手の右近が人間の女をたぶらかしているなんて珍しいものが見れましたよ

明日は雪が降るかも知れませんね」


千代さんへの対応に困り果てていた私の背後から巫山戯半分からかい半分の言い回しで聞こえて来る聞き慣れた声に思わず救われたと思ったのですが、誑かすとは聞き捨てなりせんね…

左近…後でシメる!とか考えていると「妾の力を使えばこの季節でも雪は降らせられるぞよ!?」と楓夏様…マッタクこの二人は…


「まぁまぁ、そう怒るでない!冗談に決まっておろうが」


私の表情を読んだのか、慌てて言い訳をする風花様

えぇ…解ってますとも…解って…やり場の無い怒りを飲み込んだ時…


「ふうかぁ〜〜〜〜〜〜!!!」


突如として洞窟内に響き渡る懐かしい声

そして、ズングリムックリの密林髭の山伏が目にも留まらぬ速さで楓夏様に襲い掛かってくる。


「「バキッ!!!」」


その声の主を一瞥すると同時に山伏の拳が楓夏様の頬にめり込んでいた。

然し、楓夏様もまた同時に拳を突き出していたが為に山伏の頬にめり込んでいる。


「力は衰えていない様だな…」


「フッ…そなたこそな…」



あぁ〜あ…顔を合わせると何時もコレだよ…どおにかならないものかな…この似た者過激夫婦は…

軽い挨拶を交すと途端に再び始まる二人の組み手。

先に襲い掛かって来たのは楓夏様の夫である雲海様なのですが…実の所、お互いにやる事が多すぎて人間界で言うと、数十年に一度くらいしか顔を合わせる事が無い。

更に言うなら元々喧嘩友達の様な間柄だったのだけど、何時しか恋心が芽生え、そのまま結婚してしまったと言う良く解らん夫婦なのですよ。なので、顔を合わせる度に挨拶代わりに組み手を始めてしまうのです。

私達の様に見慣れている者達は良いのですが、五平殿と千代さんの目の前でのおっ始めたものだからお二方共々あ然としているではないですか。

いちいち説明しなければならないのは私なのですよ?


通常なら、この組み手はお互いに疲れ切る迄は続くのですが、雨無村の民達が其処まで近付いているのでそろそろ止めて欲しいのですがね。

そんな事を考えながらお二方に説明をし終えた所でやっと組み手を止めた二人は熱い抱擁をし、お互いの無事を喜び合う。


と…そこに…


「お〜い…五平〜…勘太郎〜…生きているかぁ〜!?」


と、村長らしき人物の声が聞こえて来る。

その声に答える様に返事をする五平殿。

程なく現れた数人の村人と村長は五平の姿を見て安堵していたのですが、勘太郎が女だったと大騒ぎし始めましたよ。

それについて雲海様が事の経緯をお話になると、今度は弥太郎と云う者は何処へ行ったかと騒ぎ出したので、弥太郎の腕を見せて愚かな末路を話して差し上げたのですが、村長が弥太郎は何故この子が女だと解ったのかと問い質して来るものだから、半妖であったのが災いしたと存じますと話しておきました。

実の所、私もあまり詳細は解らないのですが、あの弥太郎と云う人物の恐らくは父親の方が妖怪…然も、ぬらりひょんの同系統…つまり、親戚の様な上位の妖怪が父親であったのではないかと推測致しております。

私の話を訊いて、弥太郎は雨乞いの祭壇に千代さんを置いた後の帰り道、熊に食われて死んだ事にすると村長が宣言しました。

まぁ、それが良いでしょう。

妖怪に食われて死んだとなれば、私達の立場がどおなるか解りませんものね。


妖綺譚は次で終わる予定です。

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