第97話 妖綺譚 6
来たか…
グルルル…
時間にして一刻半…
3頭に別れた地丸の内の1頭がやって来た。
この地丸は…真ん中の奴だな…
地丸は体格や毛並みとかは同じだが顔つきが違うだ。
一言で言うと怒り顔・無表情・優しい顔と居る訳だが、此処に来たのは優しい顔の地丸だな。
オラの顔を見た途端、オラを組み伏せ尻尾を千切れんばかりに振り顔を舐め回す地丸を呆然と見る事しか出来ない動物達。
「皆に紹介するべ
この犬の名前は地丸
山神様の従者の1人だ
良い奴だから仲良くしてくれ」
どお反応して良いか戸惑う動物達に向かって地丸を紹介したは良いけんど、あまりにも巨大な地丸を前に萎縮してしまっているのが手に取る様に解るだ。
まぁ、立つと6尺…いや…7尺は有ろうかと云う程の大きさを誇る地丸を前では仕方がねぇか…
それでも、オラの紹介で宜しくとペコリと頭を下げる地丸に好感を持った動物達が恐る恐るではあるが会話をした。
そして満月の夜
ヒイ…フウ…ミイ…
八尾の狐…化け狐だって言うから普通の狐を恐ろしくした様ないでたちしているかと思いきや8本もの尾が生えているなんて…
「あの尾はそれぞれ地・水・火・風・喜・怒・哀・楽が宿っていて、後は怨の力が揃うと完成すると言われています
化け狐が言うには1つ村を襲い村人を全滅させる毎に尾が一本増えるとの事で雨無村が最後の標的なのだとか」
「ほぉ?ソイツは面白そうな輩だな…
あの八尾は我が相手するとしようポン吉は他の戦える者達と共に他の奴等の相手を頼む」
「お任せくだされ」
数十頭の手下を引き連れて現れた化け狐の尾の数を見て驚愕するオラを横目に五平と勘太郎は下がっていろと言わんばかりにズイッと進み出る地丸。
大丈夫だか?
戦力差が有り過ぎる。
心配するオラを不敵な笑みを湛えた表情をしたかと思ったら一目散に八尾目掛けて駆けて行く。
「地丸殿に続くだよ!」
オラが号令を掛けると弾かれた様に八尾の手下に向かって行く動物達。
さてと…オラも役目を果たすとするだ…
振り返ると勘太郎が既に準備を終えている。
戦いで傷付いた動物達を治療する薬の調合と木酢液の精製…
兎に角、戦いが終わる迄の間に全てを終わらせねばなんねぇ。
「誰も死なねぇでけろ…」
絶え間なく聞こえて来る叫び声や唸声。オラは祈る様な気持ちで必死に作業に没頭した。
「ぜ…全員無事だか?」
時間にして2刻程経過しただろうか
地丸を除いて全身傷だらけのボロボロの姿で戻って来た動物達を手当てしていた所に1頭の狐を咥えた地丸が戻って来た。
「木酢液を…」
咥えていた狐をオラの前に置いた地丸がスッと離れた所で狐の全身に木酢液を振り掛けてやる。
グッ…グアァァァァ…
あまりの臭いに苦しみ出す狐であったが、暫くすると邪気が抜けた様な穏やかな表情を浮かべて寝入っている様子。
「全くトンでもねぇ狐だったなや…」
その後、夜明け頃に目を覚ました狐は最初こそ敵意を剥き出しにして威嚇して来ただが、地丸に睨まれたのと消えない木酢液の臭いに抵抗する気力も失せたのか、地丸と共に雨土山へと向かった。
その後はどおなったか解らねぇだが、狐の目撃情報が無かった事を考えると何かしらの罰を受けたと考えた方が早いかなと思う。
この一件があったせいか解らねぇだが、オラと勘太郎は薬師として雨無村の住人に受け入れて貰う事が出来ただ。
弥太郎を除いてだがな…
………
……
「化け狐ってそんな尾の増え方をするものなの?」
「シラネ…」
「シラネ…って…」
「そうとしか言えねぇよ
だってモノホンに出会った事が無ければ九尾の狐なんて御伽噺の中でしか知らねぇもんよ」
「それもそうか…」
「でも、意図的か単なる見逃しか解らねぇけど、この時の戦闘で八尾から九尾へと進化はしていたみたいだぞ?」
「マジで!?」
「本家の方にはそう書かれていたし、木酢液ってのも妖怪の力を封じる特別製だった可能性が高いな」
「五平って一体…」
「さあな…何せこれで漸く冒頭の話に繋がるんだ」
「なっがい前置きよね…」
「まぁ、仕方ねぇんじゃね?5巻迄は五平の半生記って意味合いもあるみたいだからよ」
「所でさぁ…」
「ドワッ!何だ…真智子かよ…いきなり驚かすなよ」
「あなた今迄何処に行っていたの?」
「秀一君の所よ?」
「で?アイツはどおなった?」
「全治は解らなかったけど、最低2ヶ月は入院だって。」
「切り傷だけだろ?そんなに酷いのか?」
「下半身の方のダメージが深刻だったみたいで退院後も暫くは通院しないとダメみたいよ?後、性病も貰ってしまったみたいだし」
「そうか…でも、シッカリ治療したら治るんだろ?死にゃあせんのだろ?」
「それは間違いないと思うわ…所で」
「ン?」
「校長と四谷と被害者を殺した奴除いた以外の奴全員出て来るみたいよ?」
「おぉ…ソイツは」
「まぁ…やり過ぎないでよ?
それより続きよつ・づ・き」
「ヘイヘイ…」
………
……
そんな事があった後、村長の口利きもあって村人に受け入れられたオラと勘太郎であっただが、一人だけ猛反対した者がいた。
それが弥太郎だ。
然し、肝心の亥之助が跡を継いでくれるなら良いと受け入れてくれたので弥太郎も渋々受け入れる事に了承した。
けど、オラと勘太郎を心から受け入れていなかった弥太郎は事ある毎にオラ達に嫌がらせをし、食い物も盗んだ。
そんな弥太郎を村人は見て見ぬ振りをするばかり。
最初で話した六郎の一件で弥太郎がオラ達の飯を無断で食って行った事で弥太郎を問い詰めただが、弥太郎を擁護する者まで現れた。
村人の怪我や病気を診てやっても感謝される事もねぇし、あまつさえ悪い事をやった奴を擁護する者までいる…
弥次郎の事は気になるだが、この村ではもぉやって行けねぇ…
村を出て別の場所を探そうかと考え始めた時…ソレは起きただ…