序章
ペースは遅くなると思いますが宜しくお願い致します
序章
魂及び霊体の強化完了を確認…
悪意の出現を確認…
悪意に対しての抵抗力は十分と思われるが万が一のことを考慮して保護シールドを展開…
完了
覚醒開始…
自身の休眠モードに突入…
………
……
此処は山間に開けた街、雨音。
何故雨音と云う名なのかと云うと、3~4日に1度は必ず雨が降る。つまり、雨音が絶えない街と云う事から付いた名なのだ。
街の形は全長約60km横幅約40kmでラグビーボールを連想させる様な形をしており、北の雨降山の麓には農業地帯が広がり、南の雨土山の麓には工業地帯が広がり、街はその中央部分に広がっている。
東西にはそれぞれ山脈が走っていて更に西側の山脈に沿う様に川が流れている。
交通の便は悪いかと云うと、そうでもなく東西の山脈をくり貫いた3本のトンネルにはそれぞれ鉄道・高速・一般道が走っており、一般道を利用しても都心まで2時間程で行けてしまう。
電車のダイヤは朝と夕方にそれぞれ10本、昼間には1時間に1本の割合で走っており、最終電車は21時26分関東行きが最終である。
アナウンス「間もなく2番線に電車が参ります。危険ですので白線の内側までお下がり下さい」
20時38分信州行き下りの最終電車が都心から乗せて来た乗客を降ろすべくホームへと滑り込んでくる。
ブツブツブツブツブツ・・・
電車が完全に停車し、扉が開くと家路を急ぐ人達が無言で降りて来て改札口へと消えて行く。その人達をホームの片隅で見もせずに膝を抱えて座り込みブツブツと独り言を呟きながら地面の一点を見つめる男。
見た目20代後半でイケメンと言ってもおかしくはない顔立ちで、グレーのスーツの下には適度に引き締まったボディ。
そんな男がホームの片隅で座り込んでいたら最低でも駅員が声を掛ける筈なのだが、誰そのも男に声を掛けない。それどころか存在も認識して貰えていない様子。
そう、彼は幽霊なのだ。
実際には彼の存在を認識する人は数名いるのだが、誰が話し掛けようが返事をせず独り言を呟くのみである。
なので、彼が何時から居たのかは誰も知らない。
そこに存在しているだけで害が無いので皆、無視しているのが現状だ。
21時26分関東行きが通り過ぎると後は日本海方面行きの貨物列車が2本程通り過ぎるのみなので22時を過ぎる頃には駅には清掃係の年寄りと駅員が数名いるのみである。
23時30分
「んなっ!?」
残っていた清掃係の年寄りと駅員が帰宅の途に着き誰も居なくなったホームで唐突に叫び声が上がる。
「何だ?何が起こったんだ!?」
何処までも暗く冷たい悪意そして強烈な空腹感で正気を取り戻した幽霊はすっとんきょうな声を上げながら周囲を見渡したが何も無い。
「上かっ!?」
尚も続く悪意と空腹感の発生源を探していた幽霊はそれが上空から来ているものと気が付き上空を見る。
「なんっじゃあれは!!」
上空には直径2kmはあろうかと思われる漆黒の塊が浮かんでおり、その中央に赤青黄色といった色とりどりの無数の光の玉が吸い込まれて行く。
「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」
見ようによってはファンタジーな光景なのだが、実際にはホラーな光景で、光の玉1つ1つが死者の魂であり、呻き声や恨み言を喚き散らしながら漆黒の塊の中に消えて行く。
「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ」
捕まる訳には行かない逃げろ逃げろと直感に告げられるままに駅のトイレの個室に逃げ込み震えの止まらない体を自分で抱きしめて必死に落ち着きを取り戻そうとする。
30分程経過した頃
「何だったんだ?アレは?」
漸く落ち着きを取り戻した幽霊はトイレからホームへと移動し空を見上げると漆黒の塊の姿は無く、何事も無かったかの様に雲一つ無い夜空が広がっている。
「って・・・アレッ!?俺は一体此処で何をしているんだ?何も思い出せない・・・アレッ!?・・・何で?」
俺は一体誰なんだぁ~~~~~~!!!
時刻は0時40分誰も居ないホームに幽霊の絶叫が響き渡る。