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第47話 兄は弟の真似事をする。




僕はみんなが寝静まったタイミングを図って外に抜け出した。


アレンはスーの捜索を後回しにしたけど、そんなことできない。

スーに何かあったらと思うと心配だし、睡眠もとれない。


そもそもスーは僕たちの勝手で連れて来なかった。本当は預けて来たのに僕たちと再会出来たってことは、抜け出して僕たちに会いに来たんだと容易に想像できた。

だからスーには追及しなかった。


いつかスーが話したい時まで待とうと思っていた。

その結果がこうなってしまった。


待とうと思ったのは甘い考えだったか。見過ごしたという方が正しかったのかもしれない。

僕は手掛かりを探るためにもう一度酒場に戻る。


急ぎ足でゲルダときた道を辿ると酒場の入り口で片している酒場の主人の姿が見えてくる。


人も閑散としてもう間もなく完全に店を閉める直前だった。

僕はそのまま直ぐに向かうのではなく若干息を整えて向かう。



酒樽を運んでいる主人の傍へ分かりやすく足音を立てて気付かせこちらを向く。


「あんたは…さっきいた客か。」


主人が僕の方へ顔を向ける。

「ここにこれくらいの小さな子がやって来た筈だ。違う?」

率直に僕の今一番聞きたいことを質問する。

僕は手を腰くらいのところにやってスーを探していることを暗に伝える。


「いや、知らないね。片付けがあるから帰ってくれ。」

主人は僕の話に聞く耳を持たずすぐ後ろを向いて片付ける。


「簡単に話すつもりがないなら少し色を付けてもいい。」

僕は金貨が入った小袋を見せて主人の顔をよく観察する。

アレンと一緒に行動するようになってから、僕の中で交渉術というのはまだ理解しきれてないけど、似たようなことなら出来るかもと思っていた。


僕は金貨が入った袋をチラつかせる。

しかしマスターは顔を緩めない。


(何故こんなに動じない…?スーは確かに来てたはず。本当に来てなかったのか?)


僕はここまでしても片付けをしている主人を注意深く見る。

すると先程僕がここに来る前に息を整えていた時よりも、主人の足の動きが忙しくなっていた。



この違いはアレンならすぐ分かるかもしれない。アレンならこの変化をどう考えるのか?

…僕はそのまま考えて1つの仮説に辿り着く。

そして僕はその上で少し怒気の籠もった声で話す。



「全て知っているんじゃないか。」

僕の声が変わったことに主人は顔を強張らせてこちらを見る。

「口止めされている?子供1人居なくなったことで誰も困らないからね。」


主人は口を噤んだまま。反論がないなら踏み込もうと思っていたことを話す。


「あなたに話すまでここを遠目で見ていた。先程と違って"分かりやすく"手早く片付けをすること。」

僕は考えていたことを淡々と述べる。

主人の瞳が僕を捉える。

「やましいことをしている自覚があるなら正直の方が最善だ。子供の時に教わらなかった?」


僕は主人の横にあった樽を片手で掴むと店の壁ゼロ距離に押し潰すように破壊する。

樽の中は赤ワインだったようで僕の背中にも主人にも派手に飛び散る。

熟していたのか少しドロっとしていて鮮血のようにも見え、返り血のようになった。

本当は身体に被るなんてしたくなかったけど、説得力を増すためには仕方ない。


僕の突飛な行動に流石に動揺したのか主人が腰を抜かす。


「な、何をするんだっ…!」


「穏便に済まそうと思ったけど気が変わった。」

僕はそれだけ呟くとそっと主人のもとに行き耳元で囁く。



「前はよくしてくれたのにがっかりだよ」


僕は主人のシャツを乱暴に掴む。そのまま上に持ち上げて主人の脚が浮く。主人は呼吸が苦しいのか激しく抵抗するがただバタバタと藻掻くだけで顔が赤くなっていく。


僕はそれを冷淡に見ていたけど、スーが居ないことを考えると手に力が籠もった。

すると強く握り過ぎたのか持っていた襟の部分だけ千切れて主人が尻から落ちる。


主人は力強く過呼吸をするのと手を僕に向けてひらき、少し待ってから堪らず叫ぶ。

「…待ってくれ!!知っている!!」


ようやく僕が待っていた言葉を出した。

「簡潔に。」


僕が深く話さないことで、主人は僕の顔を見ながら絞り出すように話し始める。


「小さい子供たちがうちの店に来た!だが子供だけなのを見て野郎共が連れ去っちまった!」


「それで?」


「…ガキだけでいるなんて無謀だ。攫ってくれと言ってるのと変わらねぇ。」


「感想を聞いてるんじゃない。何処に行った?」


「奴隷商のところだ。今頃檻にでも入れられてるんじゃないか。」


奴隷商?この街にも居るのか、いやどの街にも僕が知らないだけでいるのかもしれない。

「奥の方に進んでいくと見つかるはずだ。地下にマーケットがある。」

「地下?」



「…セキュリティがいる…。その奥に進める。」

観念したように主人は話す。

知っている者しか入れないのがよく伝わる。

僕は聞けることを聞いて目的地へと走って向かう。


スー、待っていてね、今からいくよ。


前回の更新からだいぶ空きましたが更新です。

ヘイマンの優しさと時に熱くなる所を書いた回になります。

これからヘイマンの気持ちはまだまだ熱くなります。

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