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第43話 兄弟は捕まる。

半年近く間隔が空いてしまいましたが更新です。

ちょびちょびと書いておりました。

アレンの名前がマクヘールからマクスウェルと一部訂正をしています。



扉が開かれておれたちは振り返った。


もしかしたら、スーたちが助けに来てくれるかもしれないと僅かに期待した。

しかしおれはここで開かれてきた来客に動揺を憶えた。



率直に、乗り込んできた顔ぶれは面識がなかった。

ドタドタと瞬く間に入り口から多くの兵士が乗り込んでくる。

その兵士らの肩に見かけたことのあるエンブレムで彼らを悟る。


彼らは、おれたちを執拗に追っていた追っ手たちだった。ゲルダが奴隷にされていた領主の兵であった。


その姿を見て真っ先に動いたのはヨハンだった。


「時間切れみたいだ。また会おうアレン=マクスウェル。」

言い終わらないうちに懐から何かを取り出し下に打ち付ける。

不意なことだったのでおれも呆気にとられる。

打ちつけられたものは高い音と共に強い光を放つ。ヨハンをじっと見ていたために強い閃光に目がやられる。

そのタイミングでマィアが強く抵抗しておれの手から離れる。


去り際に脚を思いっきり踏まれた。くそアマめ。

目眩しのためマィアの表情までわからなかった。

より腹ただしい。


轟音の反響が鳴り止む。

軽く耳鳴りを憶えたところでおれは落胆する。



居なくなったヨハンとマィア。

そして気がつくと突然現れた兵士に辺りを囲まれている。


満身創痍の兄貴。疲れ果ててるゲルダ。

戦力はもう出し尽くしたか。

「…投降する。」

それだけおれが言うと目の合った兵士に思いっきり銃の柄で殴られた。


正しい銃の使い方をして欲しいと思いながらおれは意識を刈り取られた。




~~~~~~~~~

私たちは今日一日とても巡るましかった。

まず襲われた。これは予知の通り。

だけど撃退した。これは予知の範囲外で、アレンの考えにより功を成した。

しかしその結果というか、私たちは捕まった。うまく敵に逃げられてしまった。そしてというか代わりに捕まった。

しかも私が元々捕まっていたところへ。

…嫌だな。

せっかくアレンたちと一緒にうまく逃げられていたと思っていたのに。


アレンは捕まる前に手酷く拘束されてたけど、私は逆に丁重に扱われた。

前との態度に違いがありすぎて目を疑った。

私は領主の部屋へと連れて行かれた。

前は男の人だった気がするけど今は私と同じくらいの女の子が鎮座している。

その横には護衛なのか男の人もいる。

特に話しをするわけでもなくその女の子はジロジロと品定めのように見られる。

何か思うことがあるなら言えばいいのに何を考えているのだろう。

よく分からない時間が続いてると彼女が喋りだす。

「彼らに連れ出されてどうだった。ここの暮らしと比べて?」

唐突に聞いてくる彼女。

私は素直に答えることにした。


「そうね、ここの人の扱いと違って私をちゃんと人として接してくれた優しい人たちよ。自由を奪って閉鎖的な場所しかわからないところよりもよっぽど彼らと居たほうが楽しかったわ。」


私はしっかりと彼女の目を見据えて話す。

「…なぁんだ。あなたはしっかりと思考して話せるような態度は持っているのね。私が1聞いたら100で返して皮肉まで付いてくるなんて驚いたわ。」

私は彼女が悪戯に笑いながら指摘することに驚いた。嫌な事を全面に押し出して喋ったけど予想よりも悪い言葉で返って来なかったことに。

それよりも思えばこんな人が嫌がるような言葉で話したことはなかった。これは多少なりともアレンたちと行動していた影響(主に悪い方で)が出ているのかもしれない。

というか出ちゃった。


「連れて来なさい。」

彼女が壁に向かって話すと扉が開いた。

すると肩のエンブレムをつけた従者たちが入室してきた。

そこにはヘイマンとアレンが連れられてきた。

アレンは腕を前にして拘束されており、ヘイマンに至っては手と足に数多くの砲丸が数珠のように付けられていた。

二人とも俯いて入る。

ぱっと見ヘイマンの方が酷く扱われているように見えるけどヘイマンはさぞ何もないように平然と歩く。

逆にアレンには顔の傷が多く見受けられたので何か揉めたのかもしれない。


「さて、あなたたちに集まってもらったのは他でもないわ。まず私はシャルル。よろしくね。」

シャルルが自己紹介を始める。

「他でもなくないぞ!第一あんたがおれらを捕まえてきたんだろう。」

分かりやすく憤慨するアレン。

傷顔で言っていると弱いものにいじめられた人に見えなくもなかった。

「手荒な真似をしたのは謝るわ。で、あなたたちを捕まえた理由は何か分かるかしら?」

シャルルは不敵そうにわらう。


するとヘイマンが口を開く。

「…僕らは仮にもここに捕まってたゲルダを攫った。その件にして何か制裁を与えたい、そんなところじゃないのかな?」

ヘイマンが考えられうる、もっともらしいことを述べる。 

シャルルがそれに対して喋ろうとするところに

「いや、違うな。」

アレンが口を挟む。


私とヘイマン、そしてシャルルの3人が一斉に注目する。

「あんたがおれたちを追ってきていたのは知っている。序盤の方が追い方は尋常じゃなかったのも知っているさ。だが途中から追い方が変わった。方針が変わったという言い方の方が正しいかもしれない。」

アレンは1度呼吸を置く。

「風の噂で元の領主が死んだのは知っている。あんたがその鞍替えの領主というところまで目星はついてる。つまりあんたがボスだ。やりようはいくらでも幅を利かせられる。おれたちを殺そうとわざわざ追いかけて捕まえる?そんなやり方はしないはずだ。あんたは残虐姫のシャルル、人を利用することで自分が潤うことしか考えていない。」


私はアレンの言葉を疑った。私と同じくらいの年の女の子がそこまでアレンのいうような人格に思えなかったからだ。


「つまり、殺すよりも生かしておいて何か対価を払わせる、そんなところだろう。」

アレンは考察を述べ終わる。 

あー痛ぇと言いながら頬を擦った。


「ふふふ。見事ね。アレンと言ったかしら。あなたの考えはとても思慮深い。あなたのお兄さんの能力はとても力強くて危険なパワーを持っているけど私はあなたの方が危ないと考えているわ。あなたの頭は回転が早すぎる。私と同じくらいに。」

ニヤと悪い笑みを浮かべるシャルル。

この笑い方はアレンとそっくりだったので悪い人はみんな同じような顔になるのかもしれない。


「私の名前をどう呼ぼうと構わないわ。そしてだいたいその線で合っているわ。あなたたちに仕事をして貰いたい。」

シャルルは改まって私たちに話す。

「あなたたちの泥棒としての盗む技術はよく知らない。けれど私たちがあなたたちを追っていた時に撃退するくらいの戦略、戦術があるのを私は知っているわ。それを見込んでの頼みよ。」


ヘイマンは唾を飲んで話しを聞く。 

アレンは鼻をほじって飛ばしていた。

「私のお父様を殺したやつを殺して欲しい。報酬は弾むわ。これは命令よ。」

私はそれを聞いて驚いた。

「…復讐をするんですか?」

私は振り絞ってシャルルに聞いた。

「復讐と思ってくれても構わないわ。けれど私の財たる人を奪って行く人はそれ相応の報いは受けてもらう。要はその一味を根こそぎ富と一緒に奪いたいのよ。」

シャルルはハッキリとそう言い放つ。


「けれどあなたたちの協力を仰ぐのが大前提になる。こればっかりは強い能力者の判別は難しいわ。前にお父様の雇った能力者も上手く使えなかったみたいだし。」

この一言で私は忘れていた。前にオリバーと金髪の人に追われていたが結局彼らの仲間が私たちもろとも銃撃でやられてしまった。  


「断ったら…?」

ヘイマンが恐る恐る言う。

それを聞いたシャルルはニッコリと机からあるものを取り出す。

それはよく見たことあるものだった。

「"コレ"を付けるわ。」

それは首輪とだった。

「この子がつけてるものよりも何10倍も強力なやつ。迂闊に外したら狂っちゃうかも。」

それは見た目はそこまで変わらないが威圧感の漂う首輪だった。


私たちの間に僅かな沈黙が出来る。

するとそれを察してかシャルルが話し始める。

「簡単よ。あなたたちが盗んで暮らすだけの財力や計画よりもずっと楽に稼げるわ。なんてたってあなたたちは強いもの。」


アレンはため息混じりに話す。

「つまり賞金首を狩れ。そういうことか。」

「話しが早くて助かるわ。」

シャルルは嬉々として話す。

「今ここでおれたちが暴れて逃げ出すことを考えていなかったのか?」


「大丈夫、あなたたちはそんな真似はしないわ。」


「ほぅ?」


「なぜこんな個室にあなたたちを呼んだのか、それはここの方があなたたちには不利だからよ。」

シャルルが笑うとずっと黙っていた後ろの護衛の男が前へと動く。

その男はわたしたちを見つめる。すると後ろから声が聞こえた。


「なるほど…。アレン、彼は能力者だ。全く動けない。それも瞬きすら難しいほどに。」

ヘイマンが絞り出すように声を発する。

アレンもそれに動揺したようでヘイマンをじっと見ている。そして向き直す。

「うまいやり方だ。こちらには隙を一切与えない。兄貴だけ能力を掛けたのは交渉が決裂しないようにするためのせめてもの配慮。ということか。食えないな。」


「あなたたちの手配書は止めてあげる。けど裏切ったりしたら前よりももっと酷いものになるわ。それがどのくらいのものになるか分かるかしら?」

ヘイマンはそれを聞いてゆっくり答える。

「貴族の権限を使ってあらゆる手を使う、か。」


「確かに人員と情報を揃えられると厄介だ。そうだな。あんたの言っていること、受けることにするよ。」


アレンはすぐに了承する。

「え、いいの?こんな危ないことに加担して。」

私は思わず反論というか口を出した。

「これを断ったときの方がリスクが大きすぎる。選択肢は無い。」 


アレンはそう言うと手を差し出す。

それを見てシャルルは満足そうな顔を浮かべ手錠を解除した。

「あなたは素晴らしい選択をしたわ。よろしく頼むわね。」

アレンは部屋を退出しようとする。

しかしシャルルから声が掛かる。


「その女はいらないから連れて行って有効活用しなさい。」

その言葉にアレンは歩みを止める。

「あんたが追っていたのはゲルダではないのか?」

「私のお父様が欲しがってたけど、私が使うよりもあなたと一緒にいるほうが難を逃れられることも出来るはずよ。」

「何も知らない癖にどの口が言ってるんだか。」


「ふふ。旅団を撃退出来るだけのことをしておきながら私たちにはあっさり捕まる。それはある程度の確証がないとすんなり捕まらないはずよ。」

アレンは嫌そうな顔をして答える。

「買い被り過ぎた。おれたちに余裕はなかった。」

「そう?それならそれで構わないけど。」

ふふ。と笑うシャルル。


私たちは部屋を出た。アレンは出るときに「恐ろしい女。」

と呟いた。


かくして私たちは無事に屋敷から出られた。



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