第37話 兄弟は油断する。
だいぶ更新が遅くなりました!
37話、更新です!
重たい扉を開けると、広いダクトになっていた。
長らく使っていなかった割には綺麗な空間だ。
アレンが先に降りて僕も続いて降りる。
梯子を伝って降りて通路を歩くとすぐに明るいところを見つける。
僕らは慎重に、しかし着実に歩を進める。
そこに、先程とは別の金庫が置いてあった。
「また当たりだな。」
「僕らはついてるね。」
アレンは金庫の状態を確認する。これはダイヤル式のもので、数字が円状に刻まれている。
「あ、間に合った。」
僕らの後ろから不意に声を掛けられて僕は直ぐに後ろを向く。しかし動きに合わせて相手が僕へと振りかぶる。
左腕に衝撃が走る。
重い一撃と身体を裂傷する様な感覚に思わず顔をしかめる。
「あれ、左腕貰ったと思ったけどそれくらいのダメージかぁ。」
斬りつけてきたのは若い男だ。顔はヘラヘラとしている印象を受ける。身なりは杜撰な服装で、どことなくくたびれている。
「兄貴!!!!」
咄嗟に僕の前へアレンが出る
「兄貴、大丈夫か。」
アレンは前を向きながらに僕へと声をかける。
「平気だよ。出血しているから止血してからなら戦える。」
僕は淡々と自分の状況を伝える。痛みは無いが血を止めないと僕の動きに制限が出る。
「アレン、敵の時間を稼いでくれ。」
「当たり前だ。兄貴は無理をするな。」
無理をして戦わないといけないのは僕の方なのにアレンは強がりを見せてくる。
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まずいな。
兄貴が強襲で怪我を負った。兄貴は痛覚が鈍感だから痛みは無いと思うが出血はまずい。
下手をしたら死んでしまう。
兄貴は戦力として貴重だ。何より火力もパワーもおれよりも桁違いだ。
敵の分析から始める。
おれらはダクトを潜ってここまで辿り着いた。
それまでに人の気配を一切感じなかった。
いつもとは勝手が違う敵だと想定した方がいい。
「お前は誰だ?」
おれは戦闘よりも会話をすることを優先する。
兄貴は今のままだと足手まといになると察したのか後退して止血を始めてる。
「僕?僕はヨハン。天啓に導かれる者だよ。」
ヨハンは爽やかな笑顔で喋る。
「天啓?そんな大層な人とお会いできるなんて光栄だな。」
おれは話しながら自分の武器の手数や戦略を練る。どこまで通じるか。
「僕はね、定められているんだよ。その中で君達を討たなくてはいけない。理解出来るかな?」
おれは嗤いながら答える。
「生憎宗教の勧誘なら間に合ってる。」
話しを聞いてると不信感が湧く。こいつはアホみたいな話に自信を持って話している。こんなに自分の考えに疑いを持たない奴も珍しい。こいつに冗談なんて通じなさそうだし、絶対に仲良くなれないような掴み所の無さを感じる。
「僕らは粗方君達を知っている。狙いは君ではなくてパワー自慢のお兄さんだ。邪魔をするなら怪我はもちろん生死も問わないと言われてる。」
なんだか物騒な流れだが1つ分かったことがある。
「お前、単独ではなくグループで動いているのか。」
厄介なのは例えこいつを倒したとしても、おれらはまた誰かも知らない奴に狙われることになるということ。ゲルダを連れてきたことで火種が大きくなっていると思ったが、目的は兄貴とくる。ヨハンはおれの問いかけに薄く微笑むだけだ。
深くは語らない、か。
すると一瞬のうちにヨハンは消えた。
おれは本能で横に転がる。
コンマ数秒でおれが立っていたところにヨハンの剣の突きが来る。角度的におれの首筋に位置する所に剣が来ていた。
危なかった。身の危険を感じる咄嗟のことで論理的に躱す余裕は無かった。
おれは相手の間合いに自分がいる事を恐れて直ぐに距離を置くように動く。
しかし敵もそのままおれが居たところへ剣の薙ぎ払いをしてくる。
間一髪に逃げ出せたが横で剣を振り回しているのを体感して自覚する。
こいつの動きは速い。
おれだと逃げるのがいっぱいいっぱいだ。恐らく動き続けると限界が来る。
おれは距離を置いていると右腕の長袖が切れていることに気がつく。
兄貴と同じ怪我を負ったらお終いだ。
兄貴の方を見遣るとまだ出血は出ているようで包帯から赤く滲み出ている。そしてこちらをじっと見つめているが表情が芳しくない。
「君も今の2撃を逃げるなんて大したものだね。大体これで終わりなのに。」
ヨハンは口を開けながら驚いた表情で話す。
「余裕なんてないさ。お手柔らかにお願いしたいね。」
おれが弱音を吐くとヨハンは笑う。
「ダメだよ。全力を持ってしてやらないと、返り討ちにあうからね。」
ヨハンは剣を構え直す。
剣の形状からして重い両手剣だ。
一般的な小回りの利く剣ではなく両手剣を使うというのは相当なパワーに自信が無いと使わない一手だ。
しかし、敵が一瞬にして消えるくらいに迅速に動くことや重い両手剣でおれの喉元を狙った所から並々ならぬ器量を持っていると自分の中で警鐘を鳴らす。
おれは逃げるだけでは拉致があかないので銃を取り出す。相手の頭を目掛けて銃弾を3発打ち込む。
しかしヨハンは剣を微妙に角度を変えて銃弾を無効化する。
金属音が鳴り響く。
そんなの有りなのか?
「嘘だろこんなこと…。」
おれは青ざめる。
「驚いたかな?普通の剣なら折れてしまうけどこれくらい厚い剣なら防ぐことはできるよ。」
「いや、その剣のことよりも防ぐことが出来る技術におれは驚愕している。」
「それかい?これはね、相手の目線と拳銃の向きさえ把握出来ると分かってしまうんだよ。」
いやなんでだよ。
思わずツッコミを入れたくなった。
おれは談笑している間に必死に策を練る。
まずこいつは今流行りの能力者なのかどうか。
これは黒だと思う。
常人には出せない動きがそれを語っている。銃弾を無効化する技術は果たして能力によるものなのか、自分で編み出したものなのか。これが後者ならおれに為すすべは無い。前者でも厳しい。
こんなのに遭遇したら通報したいがおれも捕まることも想定しなくてはいけない。
おれは試しに敵の脚を狙って撃つが剣を下に構えて弾くことでまたも無効化される。
おれは思っていた反応をされなかったことに違和感を覚えた。
「さて、そろそろ終わりにしよう。」
ヨハンは剣をまた構え直す。この構えと先の攻撃、おれはこれが初めてでは無い。これは軍隊式剣術の構えだ。
昔稽古でよく喰らったものだから忘れることがない。
「お前、軍人だったのか。どうして道を踏み外したのか気になるな。」
おれは独り言を唱えるように話すと相手の笑顔にヒビが入る。図星だったようだ。そしておれは敵を能力者としてではなく剣士として見ることで新しい分析を始める。
構えはしっかりしている。ブレがないし王道の剣術だ。
1番安定した戦い方で隙がない。
だがおれはその戦い方で1つ仮説を持つ。
兄貴に手傷を負わせた代償を貰い、さっさと金目の物もいただきに掛かろう。




