第33話 弟は準備を整える。
前回からかなり時間が経ってしまいました。すいません!
10連休遊び過ぎてボケてる今日この頃です。
33話掲載です。
決行の日になった。
昨日は昔の話しを打ち明けたせいもあってか酷く泣いてしまった。アレンに抱いてもらわなければもっと泣いていたかもしれない。
お礼は恥ずかしくて言えないけど、ありがたかった。
朝になって、オリバーとじっくり話すことになった。
「こんにちはオリバー。私はゲルダ。アレンたちと旅?一緒にいる仲間よ。」
私は容態が良くなったオリバーに優しすることを努める。
オリバーはスヴィンと同じくらいの年齢に見えるが、スヴィンと違ってどこか自信が無い印象を受ける男の子だ。
「はい……。」
「今までのこと、憶えてるかしら?」
「えっと、そんなに。僕は何をしてたんですか?」
この質問に対する答えは出てくる。
しかし正直に話すことも躊躇われた。
「はっきり言ってあげるのがいいよ。ゲルダが責任を感じる必要はないから。」
横からへイマンが助け舟を出す。
「そうね…。」
私は事の成り行きを話した。悪い領主に捕まって奴隷となっていたこと。薬で自我を失っていたこと。オリバーは驚き絶句していた。
「そんなことがあったなんて…。でも僕、思い出せないんです。」
私が想像したオリバーのリアクションと違う返事がくる。
「思い出せない?どういうことかしら?」
「記憶が無いんです。家族のこと、何をしていたのか、全然憶えてなくて。だから驚いたけどそんなにショックじゃないというか…。」
私は横にいるヘイマンと顔を見合わせる。
「そんなことあるかしら?薬の影響?」
「薬による症状はスーが良くしてくれたけど、ここまで憶えてないのは不自然だね。」
しかし私はあることを思い出した。
「あの運んでくれたおじさん!!」
私たちをこの街へと連れて行ってくれたおじさんがオリバーのことを知っていたはずだ。
「確かにあの馬車を使ってたおじさんはオリバーのことを知っていたね。後で聞いたら何か分かるかもしれない。」
オリバーのことを解決する糸口が何か見つかるかもしれない。
思えばオリバーはスヴィンがなんとかしてくれなきゃ手の施しようもなかった。
昨日までずっと会話もままならないことを考えるとスヴィンの能力は素晴らしいものだ。
そうしているとアレンとスヴィン2人が部屋へと帰ってきた。
「偵察に行ってきた。」
「ただいまぁ。」
スヴィンは走って部屋へと入りそのままヘイマンの方へ抱きつく。
スヴィンはヘイマンが本当に大好きなんだな。
「全員に言うことがある。聞いてほしい。」
帰ってきて早々にアレンは話す。
「今日、予定通り領館に潜入する。時間は22:00。メンバーはおれと兄貴、この2人だ。他はおれたちが逃走する際の準備を徹底させてくれ。」
みんなが真剣にアレンの話しを聞いている中で1人異論を唱える。
「なんでスーはおうちなの?」
それはスヴィンだった。
スヴィンはヘイマンと一緒に居られないのが不満なのか分かりやすく頬を膨らませている。
「簡単だ。スーは戦闘能力は一般人と変わりない。他も同じだからそういう見立てだ。兄貴が1番の火力持ちだからな。
おれは上手く立ち回るために一緒に潜入する。」
不満でやや泣きそうになっているスーをヘイマンは宥めて頭を撫でる。
「ごめんねスー、一緒じゃなくて。スーには怪我をして欲しくないからおうちに居てて欲しいな?帰ったらまた遊ぼうね。」
「…ほんと?ならがんばる。スーはつおいから。」
ヘイマンが優しく接したのが功を成したのかスヴィンは機嫌を直した。ヘイマンは年下を扱うのに長けているとより実感した。
そして1度解散になった。
私はアレンにこれからのことを尋ねる。
「アレンはこれから何かするの?」
「おれか?おれは一度馬車で運んでくれたおっさんの元に行く。逃げる段取りをしておく。ゲルダはどうする?一緒に来るか?」
丁度さっきまでその話をしていたとこだ、私もオリバーについて詳しく聞いておきたい。
「ええ行くわ。」
私とアレンは話しまとめて一緒に出かけた。
おじさんが泊まっているところまで割と歩く。その道中2人で街を散策がてらに歩く。
アレンは特に機嫌をとるわけでもなく黙って歩く。
そもそもアレンは今日にでも命を落としてしまう予知をされて心中どう思っているんだろう。
「…アレンは怖くないの?自分が死んでしまうかもしれないことに対して。」
「うん?急にどうしたんだ?…なるほどな、おれが黙っているから何を考えているのか気になったのか。」
一々分析して喋らないで欲しい。
「…まぁ心配になっただけ。で、実際どうなのかしら?」
私が言ったことに対してアレンは少し考えて話す。
「そうだな。怖くないのは嘘だがそれよりもどうやって乗り越えたらいいのか頭を使っている。土壇場で危機を凌ぐのもいいがやはり時間があると色々準備出来るからな。おれはこの夜までの時間を確率の1%でも高めることに全力を尽くすつもりだ。もし万が一おれがダメな時でも上手く逃げられるようにな。」
アレンは頭が良くて狡猾なイメージが強いがこうやって私たちが見えないところで準備しているのをみると何も言えなくなってしまう。
こうみると真面目というか、堅実だなと感じる。
「アレンは意外と真面目なのね。」
その言葉にアレンは分かりやすくムッとする。
「意外とはなんだ。確かにキャラ的には合わないがこれで釣り合いがとれているんだ。」
アレンが何か分からない説明をし始めたが私は面白かった。
私たちはおじさんが泊まっている宿へと辿り着いた。
突然の訪問でおじさんは驚いていたがオリバーが回復した旨を伝えるととても喜んでいた。
「なぁおっちゃん。実はおれたちは今日の深夜にこの街へ出るつもりだ。」
「深夜だって?夜道は暗くて危ねぇぞ?」
「わかっているが、そのつもりは変わらない。オリバーはまだおれたちと一緒に来るかわからないがここへ来るようにと伝えておく。彼が困っていたら助けてやってほしい。」
アレンの素直な頼みにおじさんは快諾する。
「馬鹿野郎!たりめーだ。」
その言葉にアレンは顔を柔らかくする。
「助かる。頼ってばかりですまない。」
「そういう時は素直に”ありがとう”と言え若造め。」
おじさんはアレンの背中を思いっきり叩く。
アレンは分かりやすく驚いたが、お互い顔を見て笑い合っていた。
そして、街に夜が訪れる。
長かったですが次で館へ忍び込みます!!




