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第32話 少女は過去を打ち明ける。

投稿です。

筆が進むと楽しくなってたくさん書けますね。




「オリバーのことだ。」


おれは一言言い放つ。

ゲルダがこちらを真剣に見据えてるのもあって、おれは作業から手を止めて彼女へと身体を向ける。


「オリバーに初めて能力を使った時は土壇場でどうにか助かった。あの時はゲルダが居なかったらと思うと感謝しかない。」

おれは優しく笑うように努める。そして続ける。


「…だかな、その後はオリバーに何もしていない。むしろ能力を試してすらいない。これは不自然だ。ゲルダが優しいことは知っている。困っているなら人に手を差し伸べる。最近は兄貴と一緒に過ごして前よりも柔和になったとおれは思っている。」


おれは1度喋るのを止めてゆっくりと続ける。



「あの能力を使うと何か制限がある?違うか?」


ゲルダの目が右上へと動く。ビンゴだな。


「なんか、前もこんな会話した気がするわ。」

「そうだな。だがそうだろう?」


「…違うと言ったら?」


「いや、違わない。その目を見たら分かる。…お前は存外分かりやすい。」


ゲルダはハッと表情を変える。

そしてうなだれて頷く。

ゲルダはしばらく静かになった。



「確かにそうよ。私は前にこの能力、”時間遡行”を使ったことがある。触れているものを前のあるべき姿に戻す力。これを大切な人に使ったわ。この不思議な力を1度使ったことがあって、どうしてもその人を助ける為に2度使ったことがある。」


ゲルダは自分の能力を開示し、過去の話しを打ち明けた。

それは悲しい話だった。


「私の出身はスラム街。奴隷狩りが横行する中、母さんと隠れながら生きてきた。時には怪我までしたわ。そして母さんは怪我を負った。前に治せたから治せると思って神様に祈って治してとお願いしたわ。」


ゲルダは続ける。


「けどダメだった。全く能力が発動しないの。何も出来ずに母さんは死んだわ。」

ゲルダはアレンの瞳を真っ直ぐに見る。

能力が発動しない…?


「私はその時気付いたの。神の奇跡は1度きり。人に等しく平等なの。えこひいきは許されない。例え肉親が苦しんでいようとも何も助けにならない。」


ゲルダは話しながら音もしない涙を流す。


「神さまが助けてくれる宗教なんて、本当は嘘よ。あんなに祈ってるのになんで神は現れないの?神は見ているだけ、傍観しているだけなのよ。」


今までの想いを吐き出すかのようにゲルダは話す。


「そんな神さまなんかよりも、アレンたちは助けてくれた。あなたたちに会えた時、神はいるのかもと思えた。」


思えば今まで得体の知れないゲルダは何も話そうとしていなかった。


何か能力を出し惜しみしているんじゃないかと疑って聞いたが、暗い過去をほじくり返してしまったみたいだ。


何かあっただろうとは思っていたが予想よりだいぶ重たいじゃないか。


「…まさかそんなことがあったなんて思わなかった。おれは重い話しは苦手なんだ。おれらは神聖な人なんかじゃない。悪人だ、人だって殺したことがある。」


おれはゲルダの思いに応える。

人を殺したことがある。

あの時はしっかりと憶えてる。


おれは少しおどけて話す。

こうでもしないと居心地が悪い。


「”重たい話しほどフォローして”って言ってたな。おれが優しくなだめても、嘘くさく感じるかもしれない。」


涙を拭っているゲルダの背中に、おれは手を伸ばし抱きしめる。


突然のことだったのかゲルダが驚き微動したのが身体を伝って分かった。


そして、強く話す。


「強がるな。人は弱い。弱いんだ。1人では生きていけないのはおれが1番良く知ってる。おれは兄貴がいないと何も出来ない。」


おれは言いながら微笑を浮かべる。

おれは抱きしめながら続けて喋る。


「近頃能力者を排除する運動がある。これ以上おれたちにとって生きづらい世界は無い。おれたちは選択を迫られている。」


おれは一呼吸置く。


「”淘汰されるか抗うか”。おれは今も模索してる。ゲルダはどうする?」


え?とゲルダは感嘆の声を挙げる。


「このままおれたちと居るとリスクが生じる。守ってやる気持ちはある。が、おれが死ぬという神託の巫女の能力が覆ることも考えづらい。」

おれは提案する。


「考えておくんだ。おれらと危険を承知で付いてくるか。神の真似事をして自分で生きていくか。」


ゲルダはおれの瞳を見つめて、そして何も言わなかった。


次回の更新は1週間後くらいを予定しています。

お楽しみください!!

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