あなたのうたになりたい 16
そのままヨウイチさんが大きめのコンビニの袋を手から提げて帰ってくるまで、泣き続けていた。私の顔を見て固まるヨウイチさんと、コンビニの袋の膨れ具合に笑いが込み上げてきて、堪え切れずに笑った。
「私、そんなに大食いじゃないですよ」
私のことばに呆気にとられたようで、今度はヨウイチさんが口をパクパクさせた。乱れた髪を直して立ち上がり、袋の中身をテーブルに並べ始めた彼を手伝った。おにぎり。サラダ。サンドイッチ。チョコレート。スナック菓子。お茶。スポーツ飲料。ジュース。コーヒー。それらが複数個ずつ入っていた。改めて数の多さに呆れる。どう考えたって二人で食べるような量じゃない。
「……どうしてこんなに買ってきたんですか」
「いや、美月ちゃんが何食べたいかわかんなかったから、ヒットするものがあればいいなーと思って……」
笑った顔のまま、ため息が出た。そうやって大きく息を吐き出さないと身体の中で渦を巻く感情が爆発してしまいそうだった。こんなことしてくれなくたっていいのに。
こんなことをされたら、愛されているんじゃないかと期待してしまう。
「じゃあ、これ頂いてもいいですか」
満面の笑みで頷いたのを確認して、サンドイッチとコーヒーを手に取った。今にも溢れだしそうな感情ごと、噛み砕いて飲み込んでしまいたい。
私たちはいつものように、他の誰とでもできるようなどうでもいい話をした。だけどいつもよりも彼の目を見て話を聴いた。声も微かな表情の変化も何もかもが愛おしくて、もう駄目だった。
ソファからベッドに移動してもずっと話し続けた。並んで横になって他愛のないことで笑って、私たちはまるで親友のようだった。このまま眠くなって寝られたら幸せなのかもしれなかった。
だけどどちらからともなく手を伸ばして、唇を重ねていた。いつもよりも丁寧に彼に触れた。触れられた感覚をいつもよりも深く味わった。彼が私のなかにいる間、初めてその首に両手を回した。背中に爪を立てたい衝動に駆られたけれど、東京に帰って彼女か奥さんにでも見られたら大変だと思い留まった。激しく揺さぶられるままに声を上げた。
私が彼の恋人だったなら良かったのに。
肩で息をしながら、私の上に崩れ落ちたヨウイチさんを強く抱きしめた。見られていないことを確認すると、涙が一滴だけ右目から流れ落ちた。目じりからこめかみを伝って髪の中へと落ちていくそれは、夢と現実との間に明確な境界線を描いた。