あなたのうたになりたい 12
ヨウイチさんからの連絡は、毎回突然だった。
仕事中や友だちと会っている最中に電話が掛かってきていて、折り返すと会えないかと誘われる。そこそこ頻繁にふらっと東京を出たくなる日があるらしい。そうして何度か会って、身体を重ねた。
気が付けば私は二十五歳になって、契約社員として派遣されていた企業で正社員として働いていた。その間も相も変わらず、シルビーのファンだった。彼らの曲を未だに毎日聴き続けていた。
正社員になれたことでようやく妙なコンプレックスが解消されて、疎遠だった友だちとも徐々に元の関係に戻り始めていた。
私からヨウイチさんに連絡することは無かったし、彼からの連絡が無くても寂しさに身もだえることは無かった。東京で忙しくしているのだろうから。
「美月はさ、いい加減彼氏とか作らないの?」
女同士で集まると、大抵この話を振られる。
「……私はモテないからさぁ」
「いや、モテるっしょ。普通に可愛いし、優しいし、ねえ?」
「うん。そう思う。あたしが男だったらこの中で絶対に美月を選ぶもん」
「何だったら誰か紹介しようか? どんな人がタイプだっけ?」
酔いが回ってきて顔を赤らめた三人が、口々に声を上げた。
「えー。いいよ、私は」
ヒートアップした彼女たちを相手に、面倒なことになったと半ば辟易しながら手を振った。
「でももったいないよ。美月、可愛いんだしさ」
「そうだってー。もう私ら二十五だよ? 大学卒業して三年だよ? 信じられる? いつまでもハタチの気分じゃいられないってー」
「うーん、でも私は……」
恋人がいないということは、そんなにも憐れまれるべきことなのだろうか。最近の私は仕事も大抵のことが一人でもできるようになったし、土日には友だちや佳貴と食事をしたりライブや音楽イベントに出かけたりもする。それなりに充実しているし、楽しいと思える瞬間も確かにあると言うのに。
「もう。美月がそんなんじゃ安心してお嫁に行けないよ」
「なにそれ」
あはは、と高い笑い声が私を含めた三人の間で沸き起こったけれど、一人だけ真面目な表情をしていることに気が付くと、自然と空気が引き締まった。
「え、……もしかして、まじで?」
一人がそう言った。その声にはもはや怯えが滲んでいた。うん、と大きく頷く。
「あたし、結婚することになったんだ」
おめでとう、という声が残りの三人の口から発せられるまでに一瞬の間があった。それは瞬きの間のような僅かな時間で、私たちと親しくない人が聞いたならとくに不自然に思うこともないようなポーズだった。
「いつプロポーズされたのー?」
自然と私に彼氏がいない問題から遂に仲間内から結婚する人が現れたというビビットでホットなトピックへと変わっていった。私は内心胸を撫でおろしながら、足元がぐらつくのを感じた。話がひと段落してトイレに立つついでにスマホを確認したけれど、着信は入っていなかった。
その夜は用も無いのにスマホを弄り続けて、なかなか眠れなかった。