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あなたのうたになりたい 01


あのひととの出会いは、まるで夢のようだった。


高校時代の男友達の一人に駆け出しのバンドマンがいて、彼から連絡が来たことから始まった。


「お前って、まだシルビー好きだよな?」


(よし)(たか)とは高校の三年間、ずっと同じクラスだった。一年生の六月。それぞれ一緒にいるメンバーが固定されて、クラス内に薄っすらとグループ成立の気配が漂い始めた頃。苗字が離れていることもあって、さして会話をしたこともなかった佳貴が他の男子たちと雑誌を囲んでいるのをたまたま目撃した。白いカッターシャツの隙間から覗く表紙が、つい先日私が購入したものと同じだったから、思わず息を呑んだ。だけどもともとの引っ込み思案が顔を出して、その輪の中に飛び込んでいく勇気は無かった。仲良くなった女友達と適当なことを話しながら、耳を必死にそばだててなんとかその雑誌の持ち主が佳貴だということを突き止めると、それ以来何をしていても彼のことが気になるようになった。


けれどそこに恋の予感があったわけじゃない。


ただやっと同志を見つけたという、静かで激しい喜びと興奮に胸を震わせていた。


ようやく佳貴と話すことができたのは、それから二週間が経った英語の授業中だった。コミュニケーションの授業ではくじを引いて席を決めていたのだが、佳貴とペアになった。よろしく、とお互いに声を掛け合って以降、私はただひたすらどう本題を切り出すべきか悩んでいた。突然ロック好きなんだよね? と質問したら気味悪がられるだろうか。この前偶然見ちゃったんだけどさ、なんて言ったら余計に怪しいだろうか。先生の話なんて少しも頭に入ってこなかった。


突然教室が騒がしくなって、はっと顔を上げた。さっきまで黙って先生の話を聞いていたクラスメイトたちが、それぞれのペアと英語で会話を始めていた。慌てて教科書に目を落としたけれど、私はページさえ開いていなかった。


「13ページだって」


狼狽えていたところに突然声を掛けられて、思わず肩が弾んだ。それすら恥ずかしくてぎこちない動きで隣をちらりと見る。佳貴が、ここ、と大きな挿絵の入った13ページを指さした。


「ありがとう」


そのページに書かれた例文を使ってペアに質問をするということだったらしい。名前や誕生日、好きな食べ物などをお互いに聞き出して、それから趣味の話になった。思いがけないチャンスだった。


「What’s your hobby?」

「I really love to listen to music」

「What’kind of music do you like?」

「I like rock music」


そこまで答えて、それ以上は英語力が続かなかった。けれど私の答えを聞いた佳貴の目が輝いたのを見逃さなかった。


「そういえばこの前ちらっと見ちゃったんだけどさ、筧くんも邦ロック好きなの?」


雑誌を広げていたのを見てしまったと素直に白状すると、佳貴は予想に反して嬉しそうな笑みを浮かべた。


「めっちゃ好き!」


声のボリュームを必死で抑えながら、私たちは逸る思いのままに早口で喋り続けた。佳貴は有名なバンドはもちろん、私が好きなマイナーバンドのことまで知っていた。


「シルビーめっちゃ良いよな!」


彼がそう言ったとき、思わず涙が滲んだ。私が勧めるまでもなくシルビーのことを知っている人に、彼らの曲を良いという人に初めて出会ったのだ。好きなものを共有できるひとがいるというのは、これほどまでに嬉しいことなのかと感動してしまった。


佳貴が好きなバンドのなかには聞いたことがあるものも、名前しか知らないものもあった。私たちはお互いにお勧めのバンドを紹介しあったりCDを貸し借りしたりするようになって、あっという間に仲良くなった。二人でライブに出かけることも少なくなかった。


 佳貴は小さな頃にピアノを習っていて、中学生でロックに目覚めるとベースを始めた。私とは違ってただ聴くだけじゃ物足りなかったらしい。うちの高校には軽音楽部が無かったから、二年生になる頃には他校の生徒たちとバンドを組み、ベーシストになった。


有名無名を問わず、ステージの上で音楽を奏でる人種にどうしようもなく憧れを抱いていた私は、間近でバンドを見られることが嬉しくて、頻繁に練習を見学させてもらっていた。


学校では私と佳貴が付き合っているという噂が流れたけれど、私たちの間にはそんな雰囲気は無かった。一緒に夢を追っている同志のような気持ちだった。


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