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02 美少女ずるい

 この世界では基本的に学院に通い学ぶのは貴族と決まっていた。それはほとんどの学院がガチガチの貴族主義の時代に創られたもので、貴族以外を受け付けていないからだ。その後貴族主義が大分緩和され、独裁的ではなくなった頃に創立された学院ですら"伝統"を守り貴族以外を受け付けない。

 唯一の例外が俺達の通うオーフィルズ学院である。オーフィルズは実力を重視するため、ボーダーラインを越えれば誰でも受け入れるのだ。創立当時は頭の固い貴族やらが"伝統"が云々とうるさかったらしいが、オーフィルズを創立した学院長が相当な実力と権力を持っていたため黙らせた。今ではオーフィルズで功績を残せば本物の実力者と認められ、英雄になれるとされているため、この国一の学院とされている。

 しかしそれでも貴族の割合が多い。それは単純に貴族は金があるので教師を雇うなりで力をつけ、ボーダーラインを軽く乗り越え定員を埋めてしまうからだ。……その定員を裏工作やら偽装で入学して埋めてしまった俺としては申し訳ないことこの上ないが、俺の意思ではないので仕方がない。兄も双子姉弟がオーフィルズに入学していて次男の俺が入っていないのは侯爵家としてマズイのだとか。兄と双子は実力なのに、腑甲斐無い俺を許してほしい。

 話はそれたが、つまりオーフィルズは名目上は貴族も平民もないが、その実は他の学院と同じ貴族だらけの学院となっていた。

 だがやはり例外というものは存在し、一人の平民が今年、編入してきたのだ。名をオウカ・ヤヨイ。修羅の国と名高い極東出身の少女である。


 ことの始りはこのオウカ・ヤヨイを我が許嫁であるエリュレアル・レクゼがとある貴族から庇ったことに始まる。


「ということで今日からここで学ばせることにした」


「オ、オウカ・ヤヨイです。よろしくお願いします!」


 そう言ってオウカ・ヤヨイを連れてきたのはエリュレアルの担任であるカレンであった。オーフィルズは実力主義と言ったがそれは生徒だけに当てはまることではなく、教師にも適応される。そのためある程度の自由が約束されていた。故に稀にではあるが、気に入った者を入学させることもある。定員どうしたと言いたくなるが、強者こそがルールのここでは罷り通ってしまう。そんなわけで編入生自体は珍しくはあるが別段騒ぐほどのことではない。と言いたいところだったが今回は少しばかり事情が違った。これまでは、大抵編入してくるときえば貴族であったり、その従者である騎士だったのだがオウカ・ヤヨイに関してはただの平民。しかも他国の平民である。

 いくらカレンが認めた者だとしても、"伝統"を重んじる貴族はオウカ・ヤヨイの存在に嫌悪を抱いた。


「あの、これは……?」


「退学届だ。オウカ・ヤヨイ、貴様はこの学院に相応しくない。即刻立ち去れ」


 そうやって真っ向から彼女を排除しようとしたのが件の貴族、エンバー伯爵家のガルド・エンバーだ。

 横暴に見えるがそうでもない。ガルドは"伝統"を大切にしてはいたが、今回のように無闇に排除するような男ではない。彼も当初は受け入れていたのだ。カレンが連れてきたのなら間違いはない、と。それほどにカレンに信頼があったのと、彼自身の許容もあった。

 しかし、オウカ・ヤヨイにはその実力がなかった。厳密に言えば一点特化だったのだ。

 オーフィルズにおいて実力とは座学、戦闘力、全てを意味する。賢いだけでも強いだけでもダメなのだ。無論、一点特化が悪いという訳ではない。その証拠にオーフィルズにも特化した者は多かった。しかし特化だからと、一点以外ができない訳ではない。……まぁ、つまり、オウカ・ヤヨイは彼女の一点、戦闘以外が全くできなかった。その姿に流石のガルドもプッツン、ということらしい。やはり横暴に見えるが他の貴族らしい貴族に比べればマシな方だ。

 

「少し落ち着けエンバー。ヤヨイも戸惑っている。それになんだ? 排除しようとしているようだが……お前にその権利はないだろう」


「だからこうやって自主的に去ってもらおうとしているのだ」


 そこでオウカ・ヤヨイを庇ったのがエリュレアルという訳である。そしてあれこれ言い合うように喧嘩へ発展した。


「まだ彼女の本領である戦闘を見ていないのにそれは早計だろう」


「それ以前の問題だ。もし戦闘がオーフィルズ一の実力だったとしても他がゼロならここにいる価値はない」


「価値……価値か……人をそのようにしか見れないのなら底が知れたなエンバー」


「なに?」


 の、ように盛り上がり、決闘という運びになったらしい。ここまでがエリュレアルから聞いたあらましである。


『決闘だザレッド』


 ここまで改めた。それで俺が言われた一言がこれだ。何故俺が巻き込まれているのかと言えばそれは……これまた"伝統"のせいである。色々と省くが、要は許嫁が決闘をするのに黙ってみてれば男として廃る、ということらしい。どの時代にできた流れかは知らないが、昔から女性が決闘をする場合婚約者がいるのなら婚約者が代わりに出るのが常識になっていたのだ。

 そしてその決闘でエリュレアルが求めたのが『オウカ・ヤヨイへの謝罪と今後の保護』で、ガルドが求めたのが『オウカ・ヤヨイの自主退学とザレッド・ラーカーの全て』だった。

 俺が決闘の賞品になっているは何故かと言えば、ガルドが最初その決闘に乗るつもりはなかったからだ。彼が求めるのはオウカ・ヤヨイの排除。エリュレアルのいう保護と排除では天秤が傾いてしまう。そこでエリュレアルが皿に乗せたのが俺の全て――俺の隷属だ。侯爵家の次男を隷属させられるとなれば食い付かない訳がない。そう考えての発言だとのこと。今度はエリュレアル側に皿が傾いたが吹っ掛けたのは彼女の方なので問題無しとなり決闘が成立したのだ。


 さて、突然のことで頭が追い付かなかったがやっと落ち着いた。とどのつまり、エリュレアルが御人好しを発動させそれに巻き込まれて、全てを失いかけているということだ。なるほど。


「お前マジか」


「手っ取り早いだろ?」


 あまり人前でするような内容でなかったので取り巻きを放置して二人きりなれる場所へ移動して問うとこう返ってきた。馬鹿じゃないかと。釣り合うくらいの条件を出せば良いのに……。金とかさ……。不満げにしていると彼女は笑った。


「それに、お前ならこの程度乗り越えられる。私はお前を信じているからな」


「お……おう……」


 悪戯に頬笑むエリュレアル。こうされるとなにも言えない。なにせ女性に免疫はないのだ。ずるい。美少女ずるい。

ザレッド・ラーカー……転生者。弱い


エリュレアル・レクゼ……ザレッドの許嫁。かっこかわいい。御人好し。


ガルド・エンバー……貴族。伯爵家。


カレン……教師


オウカ・ヤヨイ……ファンタジーによくある日本のぽい国の少女。強い。


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