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異世界の剣魔法使い(ソードマジシャン)  作者: 蠣崎 茜
第1章 雨宮式剣魔法
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第7話 いざ水都

「君、なかなか可愛い顔しているなぁ、黒目黒髪…それも珍しいが、高い魔力と、特にスキルは…ふふふ」


ずいとフルーネに近付かれ、花のような香水の香りに鼻腔が擽られ、至近距離に豊満な…


いや、待て。


今スキルと言った。俺は【観察】されたのだろうか。 俺の【観察】を無効化し、逆に【観察】を使用したのか。


「あ、あの、リョウさんがどうかしたんですかっ」


カノンが瞳を潤ませ、頬を赤らめながらフルーネに言う。


「おや、君は…ふむふむ」


フルーネはカノンの方を振り向くなり、目にも留まらぬ速度で近付き、つま先から頭のてっぺんまで舐めるように眺めている。フルーネは、かなり危険な人種だ、俺は確信した。カノンもその動きに対応できず、身動き一つ取れない状態だ。


「成る程、これは…」


フルーネはカノンから顔を離すと、目を細めている。やはり【観察】を持っているな、カノンの、いやエレナの膨大なMPに気が付いたのか。


「それはさておき、門兵くんよ」


「はい」


「そこの彼は確かに記憶喪失だ、この金剛石の指輪に懸けて、誓ってやろう」


フルーネが門兵に向き直り、言い放ったその言葉を聞いた瞬間、門兵は腰を90度に曲げ、頭を下げた。


「はっ、金剛石の名の下に、彼の者を記憶喪失であると認めます。では銀貨1枚を」


看破の魔眼がどのようなスキルであるかは分からないが、チャンスだ。俺は素早く懐から銀の貨幣、銀貨を取り出し門兵に渡した。


「御三方に魔法神の息吹があらん事を」


もともと業務に忠実であった門兵が更に畏まっているように見えた。国家金剛石級魔法師とは、それ程までに厳かなものなのだろう。


大きな水門の横にある、人が通るサイズの扉が門兵によって開かれる。ここは裏口なのかもしれない。


門をくぐり抜けると、一帯は湖になっていた。圧巻だ、こんなに美しいものとは。


湖に浮かぶ数多の小島に建物が並び、それら小島同士を繋ぐ橋が架かっている。太陽から受けた光を宝石の如く散りばめて揺れている水面、神秘的で壮大な景色。遠くに途轍もなく巨大な崖から雄大に流れ落ちる滝があり、その跳ねた飛沫から虹が浮かび上がる。虹が描く孤の丁度下に、白銀に輝く豪奢な建造物が建っている。あれが城だろうか。


「さて、一つ貸しだな少年。後で私の所に来たまえ、よ・る・に、だぞ?」


景色に見とれていた俺に、フルーネはいつの間にか耳元で囁いていた。吐息が耳を掠めて背筋がぞくりとする。思わせ振りだと分かっていても心臓の鼓動が速くなる。革袋にはいつの間にか、地図らしき紙が丸めて差し込まれていた。やはり俺が記憶喪失でないと見抜いていたか。


「そして少女よ、お節介かもしれないが、君は魔法が使えないだろう?冒険者ともあろう者が、魔法の一つも適合させていないでどうする?」


「それは…」


「【救援要請】で私の教えを請うてみたらどうだ?おっと、そういう使い方は出来んのだったな、あのスキルは」


「…」


カノンは険しい顔つきになってフルーネをきっと睨む、が、裏腹に言い淀んでしまって口は真一文字に結ばれている。俺もカノンが色々と隠しているのは分かっているが、何故フルーネは表向きにしたのだろうか、事情をある程度把握しているに違いない。


「カノン?」


空気が悪いので、俺は何も知らない事を装ってカノンの様子を心配してやった。


「なんでもありません、行きましょう。フルーネさん、リョウさんの件はありがとうございました。これで失礼します」


カノンはぺこりと一礼すると、つかつかと早足で街の中へ入っていく。俺も視線と共に一瞥し、その場を後にした。


「リョウさん、とりあえず宿を探しませんか?リョウさんの手がかり探しも一朝一夕とはいかないでしょうし」


誤魔化すように少し早口で喋るカノンに、俺は乗ってやった。まずは拠点探しだ、その後で冒険者なら何なりになって、この世界から帰還する手掛かりを見つけようじゃないか。


俺達はしばらく街を歩き回ったのち、『泉の精』と書かれた看板が下がっている、煉瓦造りの建物に入っていった。


「いらっしゃい、宿泊かね?」


「はい、1ヶ月ほど泊まれますか?延長の予定もあるのですが」


俺の問いに宿屋の女将さんは屈託のない笑顔を見せて返答する。


「1ヶ月ならまけて銀貨2枚にしてあげようかね。でも、あいにく翠華祭の前だから部屋がほとんど空いてなくてねぇ、残り一部屋さ。彼女さんもそれでいいかい?」


「え、彼女…ええと、ううんと…」


「ああ、もうその一部屋で良いですよ」


しどろもどろしているカノンをよそに慣れた風に返事する。正直どこもかしこも宿が空いていなくて疲れたのだ、さっさとここに決めたい。あらぬ誤解も無視し、期待すべきシチュエーションも無い。俺は晴美一筋である。


…そして、その結果。


「あなたにはデリカシーとか、配慮が足りませんっ。衣服とか、その、寝床とかどうするんですかっ。ベッド一つしか無いんですよっ?というか、これだと私も1ヶ月滞在になってしまってますよ、もう」


「悪かったよ、もう宿探しが億劫になっちゃって」


「まあ、でも…良いですけど…リョウさんなら…あ…とか…こ………とか………」


ああ、嫌なセリフが聞こえる。俺は異世界モノ宜しくな朴念仁では無いぞ。いや、この失態を犯した時点である意味テンプレに嵌っているというか、なんだか落ち着かなくなって来たぞ。


質素ではあるが清掃が行き届いており、最低限の生活用品が置かれた狭くも広くもないこの部屋で、男女が2人。


普段の俺なら確実に考慮出来た。やはりここまでの精神的な疲れがどっとやって来たのだろうか。


まあ、ガストは相当な金を持っていたし、カノンの分も問題なく支払える。ガストは金貨4枚、銀貨8枚、銅貨45枚を持っていた。金貨1枚で民家が建つらしい。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚だ。特殊な金貨として、金貨100枚分の価値を持つ真金貨というものがあるらしいが、日常生活ではまず目にしないという。


「…とにかく、まずは冒険者ギルドに行きましょうか。日が暮れるまでまだ時間がありますから」


コホン、と咳払いをしてカノンは切り出した。


「そ、そうだな。早い所俺も冒険者ギルドでギルドカードを貰わないと、いつまで経っても身元不明だし」


気を取り直して、俺達は冒険者ギルドへ向かうことにした。


「あったあった、此処ですよリョウさん」


「なかなか立派な建物だな」


冒険者ギルドの建物はかなり大きな造りになっていた。入り口には交差した二本の剣と、盾の描かれた紋章が入った旗が、でかでかと掲げてある。これが冒険者ギルドの目印であるようだ。


そのまま開放されている扉をくぐると、町役場のようなものを木造で作りました、と言わんばかりの構造になっていた。待合室で、屈強そうな男達がテーブルを囲んでいる。


「いつも絡まれそうで不安になります」


「おやめなさい、カノンさん」


そういう事を言うと、現実になってしまう。


首をこてんと傾げて此方を見つめるカノンの様子に、いまいち調子が狂ってしまう。あどけない上に可愛過ぎる。邪な感情というより、父性を掻き立てられている気がする。まだ俺も16歳なのだが。


そんなこんなで受付の前に立つと、受付の女性はこちらに機械的な笑みを浮かべて接客を始める。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件は如何なものでございましょう」


「冒険者になりたいのですが」


「ギルドカードの発行ですね。それではこちらの書類に署名をお願いします」


受付の女性は淡々と書類を取り出す。そして、冒険者になるにあたっての説明を始めた。

冒険者ギルドは、冒険者を管轄するギルドだ。魔物討伐、護衛、採集、探索。それらを生業とする者達の政治的秩序を保つ為冒険者という役職を作ったという。


冒険者ギルドは、民間人から国直々の要請まで、ありとあらゆるものに応え、冒険者に依頼という形で掲示する。


冒険者には格付けがあり、E級からS級まで分かれている。誰しも最初はE級から始まり、経験を経て昇級していく。S級の冒険者は実質存在しておらず、それこそ歴史に名を残すような偉人が現れた時に用意している階級のようだ。一つ下のA級の冒険者は、単身で竜を屠るような化け物揃いですよ、と受付の女性は笑みを浮かべて言っていた。この世界には竜がいるらしいし、聞いている限りではかなり強大な存在、それこそ天災の類みたいだ。それを単身で撃破するとは、A級冒険者は本当に人類なのだろうか。


冒険者ギルドは、冒険者同士のいざこざには基本的には不干渉であるが、明確な犯罪行為、及びギルド内での闘争は禁止されているようだ。


その話を聞いて、先のカノンの発言といい、嫌な予感しかしない。起こるとも分からない事にそこまで気をつける必要も無いと言えば無いが。


冒険者のギルドカードは依頼を3連続で失敗した時、あるいは前述の禁則事項に抵触した場合のみ、剥奪される。それ以外では、国王ですらギルドカードを取り上げる事が出来ないという。かなり強力な法令措置だ。


そして、俺は書類に「この世界の言語、ルクティア語」で署名する。転生した時、ルクトの計らいで向こうの世界の言語認識をこの世界の言語認識に変換させられていたのだ。そうなると、帰った時に日本語が認識出来なくなる可能性もあるが、まずは帰る事が大前提だ。しのごのは言わない。


「それでは少々お待ち下さい」


数分待たされた後、受付の女性はカノンが持っていたような黒い札を俺に手渡した。黒を基調とし、白い染料のようなものでギルドの入り口にあった紋章と同じものが描かれている。


「これで発行完了です。紛失しないよう十分気をつけて下さい。初回発行は無料ですが、再発行は銀貨3枚です」


相当な金額をとってくるな。しかし、良くあるような魔力を測定したりだの、ステータスを開示したりだのは無かった。どうやら、冒険者ギルドにとって素性など些細な事で、仕事さえキッチリやってくれていればそれで良いようだ。


「これで俺は晴れて冒険者、か」


「そうですね、リョウさんならきっとすぐ昇級して、A級冒険者になりますよっ」


「いや、流石に竜を単身で倒すとか…無いだろう」


何故か、自分の言葉に僅かな寒気を覚えるのであった。




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