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異世界の剣魔法使い(ソードマジシャン)  作者: 蠣崎 茜
第1章 雨宮式剣魔法
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第10話 カノンの秘め事

「ひゃ、どうしてベッドに…。でも、よく寝てる…?」


ああ、よく聞こえている。


「起きない、のでしょうか」


頬を何かでつつかれているが、それが何かは分からない。何故なら、目は絶対に開けられないからだ。


「起きないのなら、い、イタズラ、しちゃいますよ?」


声が艶っぽく震えている。吐息が瞼やら首やら色々な所に掛かって、一体何が何処にあるのか分からなくなってきた。


「私は…んっ」


柔らかいモノが、柔らかいモノが腹部にある。これは間違いなく…。それが押し付けられている。そして心臓の鼓動、のように脈動しているものが、それ越しに感じられる。ここで反応する訳にはいかない。


滑らかな絹のような感触に、太腿が挟まれている。人肌のような温かさだ。温かさは、その挟んできているモノの支点と言うような所から強く伝わってくる。


その次に、何か生暖かいものが首元から顎にかけて這っていった。ぬるりと這っていった跡が空気に触れて少しひんやりする。だがまだ、反応する訳には、いかない。


「リョウさん…」


太腿を挟んでいたものが、さらに熱を帯びていく。衣摺れの感覚から、太腿を挟んでいるものがもじもじと動いているのではないか。よろしくない所にそれが当たる。


擽るような微風が顎から、頬をそって、耳にまで移動してくる。そのまま、その軌跡をなぞる様に、ぬるりとしたものが追ってくる。生温かく、体を捩りそうになる位擽ったく、思わず声が漏れそうだ。粘着質な音が鼓膜に伝わり、蕩けるような甘さで脳に響いていく。ごめんなさい限界です。


「ストップだああああああああああああああああ」


「きゃあああああああああああああああああああ」


朝の到来を刻む鐘の音が、2人の叫びを搔き消していく。


「いやぁ、朝からお熱い。見てるこっちが興奮してきたぞ」


部屋の「出窓」から聞き覚えのある声がこちらを冷やかしている。


「フルーネ、アンタがやったんだな…っ」


出窓を開けてこちらに顔を出し、まるで親戚のお姉さんが遊びに来ました、というような気軽さで、フルーネはやあ、と右手を挙げて飄々と挨拶した。ここは、二階だ。


「何故、何故あなたがいるのですかーっ」


カノンの顔は触れば火傷しそうな程真っ赤になっている。


しかし、あんなにもカノンが積極的な子だとは思わなかった。この世界では、色々と経験を積む年齢が向こうの世界よりも若いのかもしれない。というか、本名すらこちらに明かしていないのに、かなりちぐはぐしているような気がする。まあ、兎にも角にも一健全たる男子としては果てしなく美味しい出来事ではあったが、俺には晴美という心に決めた人がいる。一線を超えるわけにはいかない。


「昨日は楽しかったねぇ、アマミヤ君」


「その様子だと、俺は負けたみたいだな」


「いや、『メギド』をぶった斬ったのなんて君が初めてだよ。本当に気持ちが良かった…激しい夜だったよ」


「気持ちが良い…激しい…夜?」


敏感少女が余計な口を挟んでいるが、それを相手にせず、あの時起こった事をフルーネから聞いた。


俺はあの時、「二の剣『極光』」によってフルーネの大規模破壊魔法「メギド」を切り裂き、無効化したらしい。その衝撃の余波と、使い過ぎたMPが原因で気絶し、この宿まで運ばれてきた、という。因みに、フルーネは周囲に防御と遮音の結界を密かに展開していたらしく、あの夜、あの草原が滅茶苦茶に禿げ上がったという事実があった事以外、詳細は誰も認知していないようだ。結局、フルーネは終始余裕で、彼女にとっては戦闘ではなく遊戯に等しかったのだろう。悔しくもあるが、よくやった、とも自分に言いたい。


ところで、フルーネは何故こちらが宿泊してる宿を把握していたのか。そして、何故この部屋のベッドに寝かせる事が可能だったのか。その理由は、何とも厄介な事であった。


「ああ、私は隣の宿に泊まっているのだよ。本当は私の部屋で可愛がろうとも思ったのだが、彼女の魔力を感知したのでね。気を利かせてみたのだ」


非常に困った。こんな狂人がお隣さんとは。俺は聞きたくない事を聞いてしまった、とバツが悪い顔をしてフルーネに聞く。


「カノンに余計な魔術使ってないだろうな?その…卑猥な術とか」


ばふん、と蒸気が吹き上がったような音が立って、カノンは完全に固まった。


「いや、彼女の『種族の性』ではないのかね。私はそこまで野暮ではないよ」


「種族の性…?」


「そうだ、彼女の種族は…」


俺の質問にフルーネが答えようとしたその時、全身の皮膚という皮膚に画鋲が浅く押し当てられたような、痺れる痛みと悪寒を感じる。


「おいおい、魔力で人を殺す気かね」


フルーネはカノンの方を見ながら言う。その額には汗が浮かんでいるようだった。俺はカノンを直視する事が出来なかった、恐らく見たら死ぬ。突然身体がそれを悟ったのだ。


「朝ごはん食べに行きましょうか、リョウさん」


ふっ、と身体を突き刺す痛みが引き、明るい声につられて俺はカノンの方を見た。明るい声とは裏腹に、顔貌は鉄仮面のように無表情だった。


ここはフルーネを相手にせずカノンと食事に行くのが最善策だろう。今の力は昨晩フルーネが放ったメギドのそれよりも「恐ろしかった」。


「もう、……段階まで…最悪……ろす…か…」


フルーネは何かを呟いていたが、俺にはあまり聞こえなかった。どうせ碌な事を考えていない。


俺はフルーネにしっしっ、と手で払うジェスチャーを送って一瞥してやり、部屋を出た。そして、カノンと朝食を摂り、身支度を整える。その頃には普段のカノンらしい様子に戻っていた。


「今日は冒険者ギルドで依頼を受けるんでしたよね、戦闘では役に立ちませんが、採集や探索ならお手伝い出来ますよ」


「ああ、じゃあ先ずは最下級冒険者らしく、薬草採集にでもいくか」


カノンの目的を俺は知らない。何故この水都アレーアに同伴してついて来ているのか、俺がガストから助けるまでに、どのような経緯を歩んで来たのか、そもそも何故偽名を使う必要があるのか。先程の「力」は何なのか。


そろそろ、彼女に直接聞いてみた方が良いのかもしれない。


「ーー入りたまえ」


それは、俺達が薬草採集や、弱いモンスターの討伐依頼を難なくこなして、宿の1階で初依頼達成の祝杯を上げたその後の夜の事だ。


どうやらこの世界では15歳から酒類は嗜めるらしく、浴びるようにエールを飲んでいたカノンはぐでんぐでんになって宿の自室に千鳥足で帰っていく。カノンは酔うと誰かに甘えずにはいられなくなるようなタチで、後半、終始俺は抱き着かれたままだった。


周囲の囃し立てるような視線が痛い。今日はお楽しみですかね、と言わんばかりの視線が、カノンを介抱する俺の背中に突き刺さる。実際お楽しみかけてしまいましたけども。


それはさておき。


今俺達が宿泊している「泉の精」の通りを挟んで向かい側に建っている「金の斧」という宿屋の一室、その扉を俺はノックし、中から聞こえてくる声に従ってノブを回す。


「やあ、今夜は夜這いかな」


「そうでない事を見抜いている癖に、よく言う」


「いいや、君の魂は確かにその目的があると言っているぞ。ほんの少しだけどな」


その部屋の中には、窓の側で椅子に腰掛けているフルーネがいた。俺は「金の斧」の主人から、フルーネの付き人を偽ってどの部屋に宿泊しているのかを聞いていた。この夜、再び相見える為にやって来たと言う事だ。


「まあ、そんな格好でいるからな、微塵も無いなんて事は無いだろうが」


「ふふ、ただの寝巻きなんだがね」


確かに、寝巻きではあるのだが、薄着故の体のラインが強調され、月明かりに青白く照らされた肌が映え、妖しすぎる色香を放っている。


「綺麗だよ、フルーネ」


俺は何故か、フルーネの言葉に対してまるで出した事も無いような声質で、素直に褒め称えてしまった。


それを聞いたフルーネの眼が大きく見開かれた。


「エドガー…いや」


フルーネはふと、窓の方へ視線を逸らして続ける。


「それが【器用】のスキルか」


「このスキルについて、何か知っているのか?」


「ふふ、それは今夜、ゆっくり語ろうとしよう。ベッドの上で構わないかな」


「断る」


「冗談だよ、それよりも、だ。気になるのだろう?彼女が」


本題はそれだ。カノンについて、少なくとも何かしらの事情を知っている素振りを見せているのはフルーネだけだ。カノンは名前こそ俺に隠してはいるものの、姿はこの街で隠そうとはしていない。俺に対する行動といい、あまりにちぐはぐで、整合性が無い。


「カノンは、いやエレナは何故あそこ迄莫大なMPを持っているんだ?」


「まあ君も【観察】を持っているから分かるか。そうだね、先ずは単純な解答から示していこう。解説はそこからだ」


フルーネは椅子から立ち上がり、再び俺と視線を合わせてこう言った。


「彼女にはある種族の血が流れている。看破の魔眼は魂を看破る眼だ、間違いないよ。さて、アマミヤ君は夢魔、と言う存在を知っているかな?」


「夢魔、サキュバスか?」


「また古臭い呼び方を知っているな、君は。そう、サキュバスだ。サキュバスとは男の精を糧とする淫靡な魔物…おっと、知っていそうだな。つまりだ、彼女の魔力が膨大なのも、今朝のような魔力による威圧が出来るのも」


「サキュバスだから?」


フルーネは、話は最後まで聞くものだ、と此方に一瞬で近付き、俺の唇に人差し指を当てて口止めする。


「人間と魔物の子、半魔という禁忌の種族だからだ」


混血児問題、ここに露呈せり。

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