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異世界の剣魔法使い(ソードマジシャン)  作者: 蠣崎 茜
プロローグ
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第0話 プロローグ

初めまして、初投稿となるので拙い文章かと思いますが、温かい目で見守って頂き、そして何より楽しんで頂ければと思います。何卒宜しくお願い致します。

「馬鹿だな小僧、出てこなけりゃ見逃してやったってのに」


頬に血糊をべっとりと付けた盗賊風の男は、左手に持っているナイフを顔に近付け、刃に沿って柄から刃先へ舌を這わす。男の視線の先には、両手を大きく広げ、背後にいる何かを庇うようにして立つ、地球で言うところの高校生の年齢程度になる少年だ。


少年の額からは夥しいほどの汗が流れ落ち、鼻先を伝い、少年が身に着けている白いシャツに肌が透ける程垂れ落ちている。


少年は緊張と恐怖と後悔で、足がすくんでいた。対峙する盗賊風の男は、その様子を見抜いているようで、先程の行動から滲み出るような余裕と、コイツはただの獲物だという少年が弱者である確信を得ている。つまり、弄んでいるのだ。口角は歪に吊り上がり、左手のナイフに宙に投げて回転させては、落ちてきた所を掴んでを繰り返して遊んでいる。


(なんで前に飛び出した、俺。いくら可愛い女の子が盗賊みたいな奴に襲われてたからってどう考えても命の危険があっただろう。なんて事だ、なんでこうなった、どうしてだ)


自らの膝に笑われながら少年は、自分の行動にひたすら自問していた。自分が非力だと自覚する少年は、何故助けられる可能性もあまり高くなさそうな少女を、あの盗賊風の男から守ろうと思ったのか理解できていない。しかし、少年はそのような命に関わる重大な局面に自ら飛び出していき、その行動自体に混乱し怯えているにも関わらず、ある「手段」を試そうとしていた。この状況を打破出来る可能性がある、彼の「魔法」を。


(アイツが言ってた、俺の長所を、才能を信じろ…)


少年はおもむろに両手を盗賊風の男に突き出し、感覚のままに魔力を練り上げる。盗賊風の男は戦闘慣れしているのか、はたまた、彼の練り上げる魔力の質が攻撃魔法のそれでない事を見抜いたのか、立ち位置から微動だにせずにやにやしている。男の周りには銀の甲冑に身を包んだ、少年の背後に匿われている者の「元々の護衛らしき人物であった者達」の惨たらしい死体が転がっていた。甲冑の隙間からは未だとめどなく鮮血が流れている。少年は飛び出していく少し前、その者達が事切れる瞬間を離れた茂みから茫然と眺めていたが故に、男の力量は相当なものであると認識していた。それこそ今の少年には太刀打ち出来ないくらいの差があると。


「安心しな、苦しまずに殺してやるよ。その勇気に免じて、なぁ?」


しびれを切らした盗賊風の男はゆっくりと少年との彼我を詰めていく。今にもスキップを踏み出しそうな、軽い足取りで。


少年は飛び上がる心臓の鼓動を感じながら、なおも集中を乱さない。あれだけ恐怖に晒されながらも、彼の精神は完全に屈してはいなかった。胸中の後悔を制しながら、生存本能が鳴らす警笛を聴きながら。


盗賊風の男の足が止まる。少年とは目と鼻の先だ。男は左手のナイフを気怠そうに、だが嬉しそうに振り上げた。少年に回避する術などありはしない。


「さあ、死ね」


少年の眼前に勢い良く、それでいて急所を的確に狙う刃が迫る。しかし、少年は盗賊風の男の前に立ち、魔力を練り上げるのを止めない。斬撃のイメージ、圧力、摩擦力、そしてそれを現実の形に留めるイメージ。少年の頭の中でカチリ、とパズルのピースがはまるような音を立てたそれは、彼の自意識の外から少年の声となって出力された。


「マジックブート、剣魔法(ソードマジック)


ジジジ、と電気が流れるような音が男の耳朶を掠めたと思うと、少年の命を奪うと信じ切っていたナイフが少年の首元で言う事を聞かなくなった。刃の軌跡は少年の手前で何かに阻まれるように止まってしまったのだ。


「なんだぁ、そりゃ」


男はその余裕を崩す事なく、訝しげに少年を睨む。魔法による物理障壁ではない、これは物理障壁の特性である魔法斥力によって相殺されたものではない、確かに質量のある何かによって受け止められ、阻害されている。男はそれを感知した。が、気に留めることもなく一気に左腕を引き、今度は少年の左胸目掛けて目にも留まらぬ速さでナイフを突き立てた。ように見えた。


男が放った突きも、やはり何かに阻害されていた。蜃気楼のような景色の歪みが、剣の形を取っているものに。


男はそこで素早く後方へ飛び退いた。剣の形を取っている何かが、突如地面と水平に回転し、自分の首を狙ってきたからだ。


「剣の形をした魔力…いや、魔法として出力されている。質量を確かに持っている…俺の知ってる剣魔法じゃねえな」


男は無精髭をさすりながら、疑惑の眼差しを「それ」に向ける。戦闘経験や魔法に関する知識が実戦で充実している男には疑問だった。男の知っている剣魔法(ソードマジック)は、生産系の魔法だった。剣を構成する鉄や炭、木材、革材等を用意し、それを自動的に加工するプロセスをイメージし、鍛治職人が鍛えた物には遠く及ばない「粗悪な実物の剣」を製成する、おまけに消費魔力も悪い雑魚魔法である、と。今ではこれを主軸に生産職を生業とするものはおらず、稀に鍛治職人が補助程度に利用する、逆立ちしても有用ではない魔法だった。少年は確かにそれを発動(マジックブート)したはずだった。


「剣魔法を戦いに使う奴は初めて見たぜ、元冒険者の俺から見てもおもしれぇ大道芸だな」


男は得体の知れない魔法と対峙しながらも、へらへらと態度を変えない。攻撃速度は遅い、剣筋も甘い、素人同然の動きをあの魔法が見せたからだ。魔法で構成した剣による不意打ちは悪くなかった、だが詰めが甘い。それが男の下した少年への評価だ。男は少年を中心としてゆらりゆらりと回転をしている魔法の剣を観察し、脅威と感じなかった。


「マジックブート、身体強化」


男の身体全体にうっすらと蜃気楼が纏わりつく。

次の瞬間、男は右足を前に出し、屈んだと思うとあっという間に少年との距離を詰めた。


身体強化による筋力・耐久力の増大。これを利用し地球ではおおよそ人間が出せるものではない速度による跳躍で接近、そして急所を刺突。男の最も得意とする技であり、これに先程の護衛であった者達が破れたのを少年は見ていた。


「悪いが、芸に付き合う暇なんてねぇんだよ」


男は狂気じみた笑みを浮かべながら、ナイフを突き出した。それに応じるように、周囲に赤い血が飛び散った。


「本当に斬っちゃった、人の腕」


失くなった()()()()を視界に入れないようにしながら、蒼白な顔面の少年は震えた声で呟いた。


「何…っ、てめぇの攻撃は確かに鈍重で拙かった筈。この速度にはついてこれねぇと踏んだ、何故だっ」


ナイフを突き出した姿勢のまま固まった男に、少年はぼそりと弱々しく言った。


「見えてた、から」


今、男の首元には魔法の剣の切っ先が向けられている。下手に動けばこの剣が突き立てられてしまう。左手を失った痛みもそうだが、男には分からなかった。少年の言っている事が。


男は少年の力量を見誤った訳ではない。確かに少年は拙かったのだ。最初にナイフを振りかぶった時、まるでこちらの攻撃を読めていなかった。魔法の剣も御座成りに出現させ、反撃の隙があったにも関わらず1回目の攻撃時にその隙を突いてこなかった。そして2回目の攻撃時に反撃された時、男は経験から確信した。此奴は戦闘に関して素人であると。だからこそ、今の身体強化を乗せた攻撃を見切り、鮮やかに反撃されたという状況も、少年の言葉も把握できなかった。が、ぎこちなく視線を少年の方にやると、その一部は解決できた。


「なるほど、もう一本剣を製成、してやがった、のか」


少年の周囲に、今男の首元に突きつけられている剣とは別の剣がゆらゆら漂っていた。認識し始めた左手の激痛に耐えながら、はっ、と男は笑った。自分の油断へ嗤ったのだった。少年は剣をもう一本構成し、先程の一本でナイフによる刺突をいなし、構成した二本目で男の左手を斬り落としたのだ。複数本剣を構成出来るという考えを、油断や実力から見落としていたのだ。だがしかし、男はどうにも疑問だった。少年の反応速度だ。見切れるはずの無い攻撃を見切った点に関して、どうにも腑に落ちていない。


「だが、何故、見切れた。俺の、攻撃をっ」


「これは…うーん、神様のおかげとしか」


少年はこの緊縛した空気に似合わない間抜けた返答をしたが、男はその答えがすとんと来たようだ。


「そうか、逆境のスキル…しかもその補正の掛かり方、相当な高ランクのスキルだなっ!?逆境のスキルの中でも神から授かるようなレア物の…」


そこで男の意識は途絶えた。少年が構成した3本目の剣の柄に延髄を叩かれ、気絶したのだった。

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