水平線の向こうから
続きです。遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。
ここ数日、浜辺に腰をおろし、水平線を眺めている。
鬼の船は、定期的にやってきていたようだが、次はいつになる事やら……。
監視を始めた時に、一人と三匹が作り始めた超大作の砂の城が、今にも完成しそうである。
前回で懲りて、もうやってこないのでは? とも思ったが、トウ曰く、優れた器を作るのには、相応の時間と労力だけでなく、偶発的による変異が必要。后帝が、そう簡単に諦める訳がない。らしい。
遠回しに、自分が優れていると言いたいのか? とからかってやったら、ここ数百年で最高の器だと、ふくれっ面で開き直りよった。
いったいどこが優れているのか? 夢中で砂遊びをしているトウを見ると、頭を捻るばかりだ。
「よし! あとは名前だな! 」
アイアイが、ふんぞり返りながら、砂の城を見上げる。
どうやら、完成したらしい。
我々の家よりもでかいものを、砂でよくもまあ作ったものだ。
「名前かー。私、そう言うのはあんまりだからなー。シバちゃん、どう? 」
「うーんと……、じゃあ、海の家! 」
「却下。」
間髪入れず、シバの案をアイアイが退ける。
羅生門もそうだが、こだわりが強いのだろう。
「えー……、それなら、アイちゃんはどうなの? 」
「フッ……そうだなー、砂上の楼閣……ってとこかな。」
くだらん。
規模がでかいとは言え、言ってしまえば、ただの砂遊び。そんなものに大層な名前をつけおって、羅生門以上に、名前負けもよいところだ。
「それってー、どう言う意味なの? 」
「あん? えーと……、つまりだな……。 」
ケーンの問いかけに、アイアイはしどろもどろになり目を泳がす。
気に入った言葉を並べただけなのだ、意味などあるはずもない。
「砂の上のー……お城って事だ! 」
そのまんまじゃあないか。
「そのまんまじゃん! それなら、海の家の方が良いよ! 可愛い気がする! 」
「はあ? 可愛くてどうすんだよ! カッコよくねえと、鬼がびびんないだろうが!? 」
「可愛くてもびっくりするもん! カグヤちゃん初めて見た時、アイちゃんもびっくりしてたじゃん! 」
「うぐ……! い、いや、びびるとびっくりは違うだろ! シバ、おまえ鵺見た時びっくりしたのかよ!? 」
「え!? えっと……、び、びびるって言うか、怖かっただけだし! それに、鵺はカッコよくなかったし! 」
「それをびびってるって言うんだろうが! そして、鵺はカッコよかった。敵とは言え、ゾーケービ的なもんがあった。」
「カッコよくない! 」
「カッコいい! 」
おい、ケーン。取っ組み合いになる前に止めさせろ。
やかましくてかなわん。
おい、聞こえているんだろう? なんとか言え。
「……聞こえませーん。」
こいつ……。
ケーン、オマエの今日の晩飯は抜きだ。
「直ちに遂行いたします! 」
現金な奴め。
「ねーねー。じゃあさー、トウちゃんにも聞いてみようよ。大陸って、とっても大きいから、色んな所から、色んな生き物が集まってくるんでしょー? だから、素敵な言葉、いっぱい知ってそうだしー。」
「え!? 私ですか!? 」
唐突に矛先を向けられて取り乱すトウ。
「……それもそうだな。トウ、カッコいいの頼むぜ! 」
「トウちゃん! 可愛いのだよ! 可愛いの! 」
「なんだと!? 」
「なにさ!? 」
ケーン。
「御意! ま、まーまーお二人さん、そんな調子じゃあ、トウちゃんも答えにくいでしょー? 」
ケーンに諭され、二匹は出かかった言葉を飲み込むと、熱い視線をトウに向けた。
そのせいで、トウは更に困惑してしまう。
「おい、トウ。適当でいいからな。」
我々が声をかけるが、トウの眉は下がりっぱなし。
しかし、性格なのか、こんなくだらない事でも真面目に考えているようだ。
「で、でしたら……、竜宮城、と言うのはいかがでしょうか? 」
竜宮城……。
たしか、リュウグウと言う名の遊覧海洋都市の中心にそびえ立つ城だったか。
「この広い海の上を、ゆっくりと移動しながら、世界各地を巡っている都があるそうなんです。その都の、象徴とも言うべきお城の名前なんですよ。」
トウは、無言の二匹を不安そうに見つめる。
我々は、良いと思うぞ。
「……いいんじゃないか。カッコいいし。」
「……うん、そうだね。可愛いし。」
二匹の様子に、ホッと一息つき、胸をなでおろす。
心なしか、トウは嬉しそうであった。
ありがとうございました。