羅生門の鬼4
続きです。楽しんでいただけたら幸いです。
珍しく早い更新。個人的ですが、新年に間に合って一安心してます。
聞こえるか? 聞こえるならば、抽象的でかまわん、心を思い描け。
それが出来たら、ゆっくりで良い、目を閉じ意識をそれに集中させろ。
オマエの意識は落ちていく。
深く、深く、深く……。
やがて、オマエの意識は心の底へとたどり着く。
どうだ?
我々が見えるだろう?
その我々を……あー、殺せ。
「こっ! 殺!? ええ!? 」
言葉に驚いた鬼の娘が素っ頓狂な声を上げ、目をぱちくりとさせながら我々を見つめる。
我々は、見上げる娘の額に手刀を落とす。
「痛い! ……もう、何するんですか? 」
「集中を切らすな馬鹿者め。最初からやり直しではないか。」
額を擦りながら、怨めしそうに我々の顔を見上げる。
なんだ? その顔は? わかっているのか?
我々が誰のために、こんなしょうもない事をしていると思っている?
無論、我々のためだ。
「……もういい、面倒だ。先ほどのように、記憶を読み取らせてもらう。」
「ああ! ごめんなさい! ごめんなさい! それだけは! 」
鬼の娘が必死に縋り付いてくる。
言葉とは裏腹な怪力が、我々の身体を変形させた。
我々は身体を流動させ、縋り付く娘から抜け出す。
「取り乱すな面倒くさい! 我々でなければ瀕死だぞ! 」
「ご、ごめんなさい……。」
「……まあいい、もう一度だ。集中しろ。」
「はい……。」
殺せ。
そう言ったが、消すでも滅ぼすでも何でもかまわん。
底にいる我々をどうにかしろ。
少しの間を置いて、鬼の娘が頷いた。
すると、娘の心象風景の中に黒い穴が出現し、我々はその穴の中に吸い込まれ消えていった。
「なるほど、やはり鬼と言ったところか。消し方も呪術的だな。」
「……嫌味ですか? 」
「好きにとらえろ。どこかの三匹は我々を食ったが、それよりはマシだ。」
鬼の娘は青ざめて言葉を失う。
想像の中とは言え、仲間を食うと言うのは異常だろうな。
だが、あいつらも色々セトギワだった。
だから我々も、それなら食ってしまえ! と促したわけだ。
「まあ、そんなことはどうでも良い。これで穴は塞がった。オマエのような奴にも配慮してやったんだ、感謝しろ。」
「うう……素直に感謝し辛い。こんなにふてぶてしい童女がいるなんて……。」
「だーれが童女だ。これからいくつか質問する。いいな? 」
「……はい。」
「名前は? 」
「トウ、と申します。」
「年は? 」
「……わかりません。」
「そうか……、あいわかった。以上だ。」
「……へ? それだけ、ですか? 」
「ああ、オマエは始后帝の次代の器。だが、器になるのを恐れたオマエは、大陸に突如として現れた化け物によって引き起こされた混乱に乗じて、巨大な亀に術を施し、空間跳躍の呪術を用いて、この地に逃れてきた。だろう? 」
「き……。」
「き? 」
「記憶読み取ってるじゃないですか! 」
今は読み取ってないだろ。
「今じゃなくて、その前が問題なんです! 」
「おい、心を読むな。」
「あ、ごめんなさ……、なんでですか! 」
面倒な奴だ。
大体オマエは、何処の馬の骨ともわからん奴に加えて鬼だぞ。
手放しで信用できるわけがないだろう。
記憶を読み取るのは、いたって当然の行為だ。
我々は、オマエのいかなる主張も聞く耳もたん。
「配慮したって言ってましたよね!? 」
「だから配慮してやっただろう? 自我を食いつくして、まさに、空の器にすることも出来たんだぞ。」
「ひっ! 」
トウの背中に冷たさが走った。
我々もゾクッと寒気を感じてしまった。
繋いだばかりはいかんな。
先程も心を読まれた。
敏感過ぎる。
「理解したなら、しばらく大人しくしていろ。家の犬と鳥が帰ってきたら話をまとめる。」
シバもケーンも、何か獲ってくるだろう。
我々に食事の必要はないのだが、しばらく何も口にしていなかったせいか、気分的に腹が減った。
久しぶりに、食事を楽しめそうだ。
ありがとうございました。
みなさん良いお年を。そして、来年もよろしくお願いします。