プロローグ2
続きです。楽しんでいただけたら幸いです。
主人公は女の子ですが、ベースはもちろん桃太郎です。
我が家を視認した時から分かってはいたが、生体反応が一つ多い。
生体反応の主に、いくつかの見当はつくが、どれもこれも迷惑極まりない。
戸に手を掛けため息一つ。
家族水入らずを邪魔され気分が悪いが、気を取り直して戸を開く。
「じい、ばあ、ただいま。」
「おかえりいいいいい! 」
雄叫びとともに、我々へと飛びかかって来た邪魔者をかわす。
勢いよく地面へと落ち、痛みで蹲る邪魔者を、大根の要領でグルグル巻きにして持ち上げ、字面に何度か打ち付けてやる。
そうすると、ピクリともしなくなったので、我々は声をかけた。
「ただいま、シバ。そして、さようなら。」
閉めた戸に、つっかえ棒がわりの竹ぼうきを差し込んで一息つく。
我々の不在時に、毎度毎度、あの手この手を使って上がり込みおってからに。
「モモちゃんおかえりーい。さっきねー、おじいさんがねーえ? 」
「犬を拾ったんでしょ? ばあ。」
「そうじゃそうじゃ! 家の前で腹空かせておってのー! 」
「うん、じいは優しいね。」
「それでー……犬はどこ行ったかのー? 」
「病気持ってたから捨てた。」
「なんと!? 」
「おやまあ!? 」
「聞いて。じい、ばあ。あの犬の病気は人にうつる危険なものなの。最悪、死んでしまうわ。私は、じいとばあとずっと一緒にいたいから……仕方なく。ごめんなさい。」
「モモちゃん……! 」
「ほん……とに良い子だー。」
うーん、ちょろい。
お人よしにも程があるが、そんなじいとばあだから好きなのだ。
嘘をついてしまった事に、若干の罪悪感があるが、これは、必要な嘘だ。
「ちょっとー! 開けてよー! モモちゃーん! ねー! 開けてってばー! 」
けたたましく戸を叩き喚き散らす、邪魔者改め、シバ。
少々、躾が足らなかったようだ。
「ほら見て。これが病気なの。ところかまわず騒いで、うるさいでしょう? 私が何とかするから、じいとばあは危ないからここにいてね。」
シバ、おまえのせいで、いらん嘘を二つもついてしまったでわないか。
覚悟は出来ているんだろうな?
我々は、戸を開くいなや、シバを先ほど同様に締め上げて持ち上げると、敷居をまたぎ、後ろ手に戸を閉めた。
「おい。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。」
「聞け。」
「はい。」
「もう何度も、ここには来るなと言ったろ。」
「えー。だってモモちゃん家のごはん美味しいんだもん。しょうがないじゃん。」
「ほお、叩きつけ甲斐のある事を言ってくれるな。」
「ごめんなさい。」
わかれば良いんだ。
謝罪に免じて、勢いよくぶん回すだけにしておいてやろう。
野太く盛大な風切り音の後、ぐったりしたシバに言い聞かせるように命じる。
「もう来るな。いいな? 」
「……やだ。」
先ほどの態度とはうって変わって、シバは真剣な眼差しで我々を見つめた。
何か、言いたそうだな? 聞いてやるが、言葉を間違えるなよ。
「何が言いたい? 」
「えっと……その……。」
シバは言いよどんだが、何かを覚悟したように表情を強張らせると、恐る恐る口を開いた。
「いつまで……続けるの? モモちゃんの……おじいちゃんも、おばあちゃんも……もう、いないん……。」
「うるさいっ! 」
我々は、シバの言葉を遮るように絶叫すると、力なく項垂れた。
そんなことは分かっている。だから放っておいてくれ。
口には出せなかった。
今の我々には、シバの気持ちも痛いほどわかるのだから。
ありがとうございました。