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石物語  作者: 遥風 悠
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ソウ ノ ヒトトセ

【リュウ オツル ヒ】


 天変地異の前触れか、それともまさにそのものなのか。天の堕落か神の瞋恚(しんい)(ほむら)なのか。各地で竜族の目撃が相次いでいた。竜族、それは神族と並び称され、同列に扱われる高位種族。地域によってはその土地の守護神として崇められ、空想・夢想・理想の下に偶像がつくられる。ただし、それが現実のものとして眼前に現れた途端言わずもがな、竜族は恐怖の対象へと変貌するのだ。神仏はあくまで心の内に眠らせておかなくてはならない。目の前の触れられる対象として存在してはいけないのだ。

 具現化できぬ感情を胸の内に押し殺す人々がいる一方で、姿を現す竜族の影に巻き込まれる者もいる。自ら首を突っ込むものがいれば、やれやれ仕方なくついていく者もいる。興味本位だけで剣を握るものがいれば、ひしと変異を考察する者もいる。

 きっかけは空から竜が降ってきたこと。天から蛇型のドラゴンが落下してきたのだ。轟音と砂埃を残して大地にめり込む落下物にリリト族が恐る恐る近づいてみると、それは既に事切れた竜族だった。先闘竜アンファング。そしてその落下した場所、それはエティオーグだった。リリトの民が暮らす町エティオーグ。リリト族長老フォルテナによって壊滅し、リリト族の手によって再び羽ばたかんとするリリトの民の町。そこに竜が落ちてきたのだからこの世の終わりとまでは言わなくても、この地メルヴィル、この星ヴィルガイアで何かが起きていると考えるのが妥当な所だろう。そして人間が、ハーフエルフが、魔族が、リリトの下に集うのだった。



 エティオーグに竜が落た2日後、エルは既にガレオスへ向けて旅立っていた。エルに異変を知らせたのもまた竜族。名をアディリス。エルに大地を属性とする魔導石と小太刀を託した六神竜の一角。エルたちの暮らす村にアディリスが姿を現したのはこれで2度目とはいえ、やはり人々に混乱をもたらした。自身が地上に舞い降りることが人間族にどれほどの影響を与えるか、ということは考えていないらしい。エルを残して村人は退避し、エルは突如現れたドラゴンを村の広場へ誘導した。

 「みんなびっくりするからさ~」と文句を言うエルに対してアディリスは僅かに微笑んだのか、少しだけ鼻腔から空気が漏れた。そして。

「エティオーグという村に同胞が落ちた。クリアンカという有翼人が戸惑っているそうだ。」それだけを伝えると、戸惑い質問を投げかけるエルを無視してアディリスは天へと引き揚げていった。遠方から様子を伺っていた村人はあっという間に立ち上っていく竜族に唖然としながら胸を撫で下ろした。同時に、近く、村の若者が旅に出ることを寂しく思うのだった。

 エルの瞳に強い光が宿っていると気付くにはどうしても距離がありすぎた。それでも村人たちは若者の新たな旅立ちを確信した。エルは空を見上げ、神竜の飛翔を見送った。背中にでも乗っけてくれれば楽だったんだけどな。エティオーグ、けっこう遠いんだよね、船も必要だし。仕方がないからオルガの所に行くか。セシリアもいるだろうし。元気にしてるかな。

 エルは迷いも疑いもなくガレオスに行くことを決意した。本音を明かせば、随分前からガレオスに行く口実を探していたのだけれども。相手が竜族ということ、かつて武器と魔導石を宛行(あてか)ってくれたアディリスということもあり真っ赤な嘘という可能性は低い。また、アディリスの口からクリアンカやエティオーグという固有名詞が漏れたことも気にかかった。何かある。何か起こっている。

 シンシア。エルより2歳年長で、今では村全体を仕切る長老のような存在である。年の差はエルと2つ違いだが幼い頃からエルの面倒を見ていて、エルはこのシンシアに頭が上がらない。村での作業もシンシアの指示とあらば何よりも優先してこなさなければあとが怖い、そんな守るべき存在だった。そのシンシアは自分の旅立ちを許してくれるだろうか。そんな不安を抱えて話を切り出したエルへの答えは実にシンプルなものだった。

「もう私たちには手に負えないもの。あなたたちにしかできないことをやってらっしゃい。村の仕事は帰ってきてからでいいわ。大丈夫、いってらっしゃい。」しっかりと釘を刺され全然大丈夫ではないのだが、旅立ちを認めてもらえた。もしかしたら彼女は薄々気付いていたのかもしれない。ますます大きくなる魔族や竜族に関わる問題。対処できる人間族は限られている。そのひとりがエルであるならば―

 エティオーグへ行くには船がいる。しかし四方を山に囲まれたこの村に船があるはずもない。そもそもエルは操舵もできないし、船を持っている人物もひとりしか知らない。だから今、エルはガレオス城を目指している。オルガとセシリアのいるガレオスを。



 一方その頃、ガレオス城。ここでも竜族は目撃されていた。ただし最初の目撃者は海賊たち。海の上で鳥だか古代獣だか分からない正体不明の飛行物体を見つけるや否や、海賊船アルタイルは準備を整えた。間髪入れずに砲撃。もしや飛竜か、と思い直した時には既に十数発を放った後だった。逆襲されなかったのは幸いだったが、まさに神をも恐れぬ行為である。しかもそのことを笑いながらオルガに話すのだから怖いもの知らずもいい所。酒を飲みながらということもあり、この時はまだオルガも半信半疑だった。まさか竜が・・・ねェ・・・

 それから7日後。相次ぐ城下町での目撃報告。マジでドラゴンか・・・笑い話として扱えなくなってきた状況で駄目押しの一発が入った。

「間違いないわね。今し方私も見たけれど、竜族よ。」セシリアからの報告で未確認飛行物体の正体が確定した。

「なんで竜族がこんな所を飛んでんだ?」

「さぁ・・・」

「目的は何だ。被害報告は無ェんだろ。」

「うん、無い。」

「じゃあ、放っておくか。」

「ヨンレンさんが飛んでくるでしょうね。」

「そしたらどうするよ。」

「さあ・・・」

「だよな~、ったく。一体何用だ、クソドラゴンが。」

「別に竜は空を飛んでるだけ。何も悪くないけどね。」

「存在が迷惑だ。」

「先代、お客様がお見えです。」ヨンレンが割って入った。オルガの目が光る。

「通せ、エルだろう。」






 第五章 ~ 天界へ

 【天使の誘い】


 エルがガレオス城下町に着いた時、人々の話題は竜族目撃の噂話でもちきりだった。誰が見た、何処で見た、何度見た、色は形は大きさは。尋ねずとも耳に飛び込んでくる。エルはオルガとセシリアに詳細を説明する手間が省けると踏んだ。何言ってんだお前ェ、と疑われることもないだろう。同時に気味の悪さを通り越して人間族数人ではどうすることもできない規模の何かが胎動しているのではないかと感じざるをえなかった。ただしオルガと似ていて正直嫌なのだが、エルは心の躍動を抑えることが難しくなっていた。戦い、争いなどないに越したことはない。村で何事もなく平和に暮らせれば言うことなし、のはずだった。空白がなければ、(いとま)がなければ、渇きがなければ。求めてしまうのだ。オルガと会って性格というか、人間性が変わったのだろうか、というのは言い逃れか。それともシンシアの言う所の俺達にしかできないことをすべきだということなのだろうか。別に誰其れから課された使命というわけでもないので天命に従う必要もないのだが。人助けという意識も毛頭なかった。自らの欲望に従っているだけと言われれば反論する気もない。欲望を満たすべく運命の歯車が回っているかのようだ。幾分好都合な歯車ではあるが。そんなどうでもいいことを考えているうちにガレオス城に辿り着いた。 ヨンレンに案内されたエルは、まさに竜族について話をしているオルガ、セシリアとに再会するのだった。

 昼飯でも食いながら、というオルガに従って食堂へ移動する3人。そこで料理の盛られた皿を移動カートに乗せて元いた部屋へと戻っていく。周囲に聞かれてマズイ話をするわけではないのだが、話をするには食堂があまりに広すぎて落ち着かない。円卓会議室は飲食厳禁。膝を合わせるにはそれなりに狭い方が都合がいいのだ。尤も、大した情報量があるわけではなく、情報交換できるだけの信ぴょう性も伴っていないわけだから竜に関する話は早々に終わってしまった。話をまとめれば、竜族の相次ぐ目撃情報は各地で上がっている模様で、もはや見間違いで済む状況ではないこと。別段被害があるわけではないが、かといってこのままにしておくわけにもいかない、ということだった。

 もしもエルの報告がなければ動きようがなかった。迷惑なことにまたもやアディリスが村に降りてきたこと、エティオーグに竜が落ちてきてクリアンカが困っているらしいこと。3人にはこの情報だけで十分だった。クリアンカに会えば何かしら進展する。



 海賊船アルタイルの船旅は快適だった。次こそ竜族を撃ち落とすべくこれでもかと砲台を整備する船員に囲まれながらの船旅は、無事3人をエティオーグへ送り届けた。船旅の間竜族は現れなかったのだが、そのことがちょっとだけ船長と船員をがっかりさせたようだ。オルガの前でドラゴンを召し捕りたかったのだろう。外見とは裏腹にちょっとピュアな一団である。



 エル、オルガ、セシリアが新生エティオーグに足を踏み入れた。そこにはもう、少なくとも目に見える形では傷跡がほとんど残っていなかった。

「ほぉ~、すっかり復興してるんだな。凄ェ、凄ェ。やるじゃねェか、クリアンカの野郎。俺達があれだけ滅茶苦茶にしたのにな。」一部誤解を招く箇所もあるが、オルガの感想に嘘はなかった。ゼロからのスタートではない。マイナスからの旅立ち。中途半端になってしまったが、途中まで手伝っていたエルも驚いたくらいだから。

 エルとオルガ同様、周囲を見回しながら満足気に頷くセシリア。あっちこっち走り回り飛び回る子供たちの顔は喜びに溢れていた。子供の顔に笑顔が戻るだけでエティオーグに光が戻る。エティオーグが明るく輝いていた。希望の光なしには明日を願うことはできない。明日に希望を託すことができなければその国に未来はない。生きながらにして未来を諦めることは、光と対をなす闇。遂にそれは絶望と化す。死と同列に扱われる(つい)の化身だ。それを見事に追い払ったエティオーグ。その証拠が子供たちの笑顔なのだ。

 「あっ!」セシリアが手を振る。それを見てエルとオルガも気づいたようだ。懐かしいリリト族が姿を見せた。エティオーグを救ったリリトの戦士、クリアンカ。



 再会を果たす4人。この地この場で死闘が繰り広げられたことなど夢、幻であったかのように笑顔を交わす4人、プラス無表情の者が独り。クリアンカの横に立っている男の子。明らかに幼い少年で、人間族で言えば13、4才といった所だろうか。その背中にはクリアンカ同様翼が生えていて、きっと快適な空中遊泳が可能なのだと推測された。ただしこの少年、他のリリト族同様翼はもっているが、服装は大きく異なっていた。純白。少年は縁の黒色以外は目を細めたくなるくらいに陽光を反射する真っ白なローブを羽織っていた。どちらかというと法術士の出で立ちに近い。

 「悪ぃな、いきなり押しかけちまって。」心にもないことを吐きながらオルガはクリアンカの家に入っていった。エルとセシリアもお邪魔しますと続く。例の少年は先にクリアンカと中に入っていった。

「押しかけるだなんてとんでもない。いつでも歓迎しますよ。それにね、むしろ好都合というやつです。文を書いたり、こちらから出向く手間も省けましたし。説明の半分は済んでしまったわけですから。さ、どうぞ掛けて下さい。」ここ、クリアンカの自宅に案内される途中、エルが単刀直入に尋ねた。

「エティオーグに竜族が落ちてきただろう。」

「おや・・・」先頭を征くクリアンカが後方を振り返りながら眼鏡の位置を直した。3本の指、法術を唱える時と同じ形で。

「よくご存知で。既に死んでいましたが、全くもって迷惑な話ですよね。」クリアンカの横を歩く少年が僅かに俯いたように見えた。


 不思議な雰囲気を纏う少年だった。落ち着いている。これから展開される少年にはやや難解と思われる話題を前にして誰よりもどっしりと構えていた。誰とも目を合わせないし、一緒に行動していたであろうクリアンカと口を聞くこともなかった。謎の少年。彼のあまりに白すぎる服装を目にした時からもしやと思っていたエル、オルガ、セシリアの3人だが、今や誰ひとり彼をリリトの民と考えていなかった。この少年は何者なんだ。竜族の件と何かしらの関係はあるのだろう。でなければ申し訳ないが、用無しだ。

「では、詳細を私の方から説明させて頂きます。」口を開く謎の少年。息が詰まり集中力が増す。

「その前に自己紹介をさせてもらいますね。以前に一度お会いしているのですが―」3人は記憶を辿ったが、思い当たる節はなかった。



 外では子供たちのはしゃぐ声が気持ちよく響いていた。地で空で遊び回っているのだろう。リリトの民の笑顔、殊に子供たちの笑い声を取り戻せたことはクリアンカの誇りだった。少しは恩返しができたのだろうか。感謝を、自分の過ちを認めてくれた皆への思いが形になっていれば言うことなしだ。だからもう決して失いたくない。危険にも晒させない。そんな折に落ちてきた竜族。たまたま被害は出なかったが、我々を不安に陥れた存在。恐怖を与えた。放っておくわけにはいかない。そして場合によっては、許さない。

 「天人族のティモシーと申します。以前、森で飛び翔ける訓練をしている際にお会い―」

「へ?」

「な!」

「え!?」

 記憶された映像と目の前の人物がとてもではないが結びつかないのだから無理もない反応だった。整理がつかずとっ散らかってしまった。

「今回お伺いしたのはですね・・・」

「待って、待ってくれティモシー。」エルが止めた。

「確か小鳥が狙われていて―」

「ええ、その通りです。当時は私も未熟でして、下界の生物に触れてしまいまして、大目玉を食いましたよ。そうそう、エルさんに頭を撫でて頂いたことも覚えていますよ。」天人族は意外と天然なのだろうか。

「え~と、うん。その・・・あれからまだ1年ちょっとしか経っていないわけで、俺達、君の姿にちょっと戸惑っているんだけど。何か、ずいぶん大きくなっちゃったな~って。」

「ああ、なるほど、そういうことですか。我々天人族は必要に応じて身体の成長を早めることができるのです。場合によっては知識を埋め込むこともあります。」

「へ、へぇ~。」もはや人知を超えすぎて無理矢理に納得するしかなかった。そういうものなんだと合点しなければ話が先に進まなかった。



 その日も天界には円かな時が流れていた。煩悩の絆を断ち切った世界で天人族が何に追われることなく、時間からも隔離されて生活していた。天界はその全域が結界に囲まれている為に人間族は足を踏み入れることはおろか、目にすること存在を確認することもできない聖域だ。人間族に限らない。魔獣も魔族も古代獣も、神族も竜族も例外ではないはずだった。けれども、静かで穏やかで、清らかで気高い天界をレッドドラゴンが急襲した。ただ白く綿よりも雲よりも深く白色に彩られた宮殿を、ドラゴンの口から放たれた火球が掠めた。被害状況を確認することもなく慌てふためく天使達。そこに統一された集団行動などありはしない。楽園が戦場に変貌した。

 集い応戦する天人族の戦士達。戦士とは言ってもその姿はアーチャーか。淡く緑に光を放つ弓矢、物質的本体はなく天使の発する法力で形造られる大弓を構え、百を超える矢が一斉に発射された。それらがまともに当たる。レッドドラゴンが全く回避する素振りを見せないから当然の成り行き。これだけの巨体だ、全弾避けることは不可能という結論なのだろうか。天人族の矢は竜に刺さるというよりは赤鱗にくっつき、吸収されるように消えていくと竜族の総身至る所で小さな破裂を次々と引き起こした。レッドドラゴンの叫び声が天界を揺るがす。効果はある。ダメージはある。それでもやはりドラゴンの追撃は止まらない。

 次いで放射された火炎噴射が今度は宮殿ではなく天人族を襲った。先の炎球が固体の炎であれば今次の攻撃は気体の炎。レッドドラゴンが首を動かせば攻撃範囲が拡大した。天使達が逃げ惑う。が、間に合わず火炎に飲み込まれた天使は微細な粒子になって天界からさらに天空へ舞い散った。クゥーンという軽薄な音と共にあっけなく、実にあっけなく消えていった。

 それでも負けるわけにはいかない。逃避行に没入するわけにはいかなかった。訳の分からぬまま急襲を受けた天使達も反撃を止めず、不得手な近接攻撃ではなく遠距離からの反撃を主軸に、緑に輝く矢に加え同色の美しい網を放った。竜族の中ではさほど大きくはないレッドドラゴンではあるが、天人族と比べればまるで山のよう。その巨体全身に巻き付き食い込む天使の網。◯(もが)くドラゴン。鱗が弾け、火よりも赤い血が迸る。そこに幾本もの矢が降雨する。ドラゴンの至る所で破裂を引き起こす。それでも網を切り細裂(こまざ)くレッドドラゴン。それを見計らったように新たな網が打たれ、矢が放たれ、竜が炎で応戦し・・・これが幾度か繰り返され、遂にレッドドラゴンは捕らえられた。



 本来、天界全域には強力な結界が張られている。だから下界の人間には見ることも触れることも足を踏み入れることも、、その存在を感じることもできない。俗に言う異次元というものに近い。天人族は戦闘よりも結界の扱いに長けた種族である。特に防御に関する結界の。竜族や魔族とてその結界を持て余すほど。そうでなければ純白な天界が維持できるはずもない。にもかかわらず音もなく竜族の襲撃をあっさり許したということは、どこかに結界の解れがあるのでは、という天人族の予測は正しかった。幾許もなく結界に開いた大きな穴が見つかった。こんなことは初めてだった。戦いの才に関してはともかく結界師としての能力はあらゆる種族の中でも最上位を誇る天人族。彼らの自負は不安に塗り替えられた。これを塞がなければ再三再四、竜族の侵入を許すことになりかねない。人数と時間をかけて修復に当たるはずだった。その思いを嘲笑う竜族の進撃。結界の解れを直すべく天使が集まったのを待っていたかのように、新たな邪竜が突入してくるのだった。



 さて、これまでに駆逐した竜族は3匹。レッドドラゴンにはじまりアンファング、モルガロン。結界の解れを修復にかかった天人族を(せせら)笑うかのようにアンファングやモルガロンが天界に侵入してきた。できれば竜の討伐に全力を注ぎたいところだったが、これでは戦力全てを対ドラゴンだけに当てるわけにはいかなくなってしまった。竜と戦っているうちに新しい竜族が現れては元も子もない。そこで半数を竜族との戦いに、もう半数を結界の修繕向けた。一体全体何事なのだ。天人族にとってこれ以上ないほどの迷惑行為。高位竜族であれば言葉を理解し操る種もいるのだが、アンファングやモルガロンはこれに該当しない。ただ雄叫びを上げながら天界中を揺るがした。言葉なしには考え、心理を知ることは不可能であった。沢山の天使が犠牲になり、建造物が破壊され、あろうことかアンファングについては捕らえることに手間取り下界に落としてしまった。

 そして致命的ともいえる出来事。手に余る竜族の侵入。どうにか結界の修繕と強化を終えられそう、ようやく混乱に終止符をと油断などするわけない。音もなく、結界に触れることも壊すこともなく天界に参上した、天神族にとって相性最悪の竜、それがエアドーハスだった。望み絶つ魔竜、絶望竜エアドーハス。天人族にとっては文字通り天敵だった。属性でいうところの火と水、土と風といったところだろうか。天使の矢はほとんど効力をもたず、竜のいかなる攻撃も天人族にとって致命傷になりかねない。壊れ逝く天界、羽をもがれた天人族に対抗できるだけの余力はなかった。どうにか結界の強化までを済ませてこれ以上の侵入は防ぐに至ったが、入ってきてしまったエアドーハスだけはどうにもならない。どうにかしなくてはならないし、原因究明・対策強化も必要だった。とはいえ戦う力は残っていない。今、天使たちは逃げ隠れ、幻術で相手を攪乱して時間を稼ぐことしかできない状況だった。

 仲間が竜族を退治する者を待っているのです。



 話を終えたティモシーに対する人間族の答えはYES。あっさりと了承するエル、オルガ、セシリアとクリアンカ。あまりに軽すぎて依頼した本人が不安になるほどだった。ただし、ひとつだけ条件をつけた。1日まて、明日のこの時間にでも出発しようやということになった。俺たちも少し話したいことがある。この1年のことをな。








 【ソウ ノ ヒトトセ ~ エルとクリアンカ】

 体内に魔導石を秘めた人間とかつて魔族だったリリト族が共に向かっている先、それは『風雷の塔』。その塔には風神と雷神が住んでいて、各々風と雷の魔導石をもっていて―まさかエルとクリアンカにとってこんな都合の良い展開が待っていようとは。あまりに出来すぎていて何かの罠か間違いかと勘ぐってしまうほどだった。

 数日前、子供達と一緒に畑を耕している時にクリアンカから声を掛けられたエルは最初、冗談半分でしか聞いていなかった。だからエティオーグから半日以上かけて目的地に着いた時の感想は、本当にあった、だった。まぁ、長い時間かけた結果嘘でした、では困ってしまうが。

 

 ここは砂原の中央。果てしなく広大な、という砂地ではないのだが、足場は悪い。歩くたびに靴が沈む。それを持ち上げて、また沈めてを繰り返す。歩くペースは自ずと遅くなり、余計な疲労も蓄積される。そんな砂場の上に塔が構築されるはずもなし。『風雷の塔』は存在しなかった。それでも全くのデマゴギーというわけでもなし。エルとクリアンカを迎えたのは『風来の像』。砂原には似合わない二体の石像。どういうこと?っていうかそういうこと?ふーむ・・・?エルはポリポリ頭を掻き、クリアンカは腕組み首を捻った。フォルテナ、ちょっと話が違うようですが。


 「風雷の塔について、クリアンカは誰から話を聞いたの?」エルの顔に怒りや呆れたりという色はなかった。かわりにいたずらっ子のように薄ら笑いを浮かべながらクリアンカに問うた。まんまとはめられたであろうクリアンカの答弁を心待ちにするエルだった。

「リリト族に伝わる御伽噺、伝承歌なんですが、おそらくはフォルテナの作り話です。大昔の。挙げ句の果てに塔と像の間違いを何年、何十年も訂正することなく・・・黙ってひとりほくそ笑みながら母が子に語り伝える姿を見ていたんでしょうね。」まったくもって困った人だ、というクリアンカの表情は懐かしさに満ちていた。長老という立場にもかかわらず、いつも子供たちと一緒になって母親の雷を受けていた。気のせいだったかもしれないが嬉しそうに、幸せを噛み締めているかのようだった。

「で、どうする、クリアンカ。」

「う~ん、そうですね・・・昔話によると確か・・・塔に魔法をかけると―どうなりましたっけ?」

「俺は知らないよ、でもさ・・・」エルは何かを発見したようで、風神と雷神、二体の像に向かって歩きだした。石像自体ではなく、その背後にある小型の機械に何か思う所があるようだ。

「俺はこれと似たものを知っている。使ったこともある。ちょっと形は違うし大きさもかなり小振りだけれど、多分コイツは転送装置だ。」


 ポチッ、トナんとなくボタンを押し込むエル。ためらいがないというか好奇心に従順というか、性格はフォルテナに似ているのかもしれない、クリアンカはそう感じた。転送装置が作動すると空より1個の光の玉が降ってきた。雷神像から数歩下がるエル。拳大(こぶしだい)の光が一方の石像に落下し、鈍くカーキ色に染め上げた。そして2人の予想を裏切ることなく動き出すのだから、エルは臨戦態勢に入らざるをえなかった。レイピアを抜くエル。クリアンカも槍を構えんとするのをエルが制止する。

「コイツは俺がやる。」欣然(きんぜん)として宣言するエルだった。

 こちらの石像は法術士を型どったものでフードを被り、右手に杖を、左手には何やらブ厚い辞典のようなものを持っていた。その雷を属性とする石像が早速動きをみせる。石像が動く時点で奇怪なのに、その滑らかな挙動は見事なものだと吐息が出てしまう程だった。雷神の像が左手の書物を天に掲げると右手の杖が光を帯び、杖を降る度に小さな稲妻がエルに向かって飛んでいった。これを見切るエル。放たれる雷撃。躱すエル。石像の杖から次々と発射される稲妻ではあるが、杖を振る毎に一発ずつしか射出できないようで、単発ではエルの動きを到底捉えることはできなかった。そのことを早々に悟った石像が左手のみならず杖も空に向けた。両手を挙げてバンザイする形となった雷神の像はどこかマヌケに映ったが、杖から放たれた雷撃のレベルは数段上昇した。エルの頭上十数メートルの所に集められた雷の塊がエルを囲むように(とばり)を下ろした。雷というよりは薄い光の布といったところ。

「ありゃ?」石像の格好に負けず劣らず間抜けな声を発したエルに逃げ道はない。標的を包囲したあとは当然、エルに向かって今までよりも大きな一発が落ちてきた。そして、その落雷が地面に達するよりも早くエルは上空へと逃れ、風属性の飛び道具で石像を破砕してしまった。


 「囲みが甘かったから、どうにか動けたよ。」サラリと言うエルの左手には雷を属性とする魔導石が握られていた。笑顔を添えて。

 冗談ではない。とんでもないスピードです。確かにエルの言う通り雷のカーテンの中で動けるスペースはあったのでしょう。とはいえ、その僅かな隙間を塗って雷撃を避けて上空に逃れ、石像を破壊してしまった。エルの放った風の太刀は石象の背中に当たっていた、ということは敵が気付く間もなく攻撃をぶつけたということ。雷のベールでエルの姿が見えにくかったのは確かだ。確かではあるが、エルがそのベールから飛び出してくるまで彼の動きを私も把握できていなかった。見失っていた。とんでもない瞬発性といったところだ。そして、それ以上にあの冷静さ。逃げ道を閉ざされても動じない。雷の壁を破る、一撃に耐える、といった選択肢もあっただろう。その中で隙を見つけて上空に回避するbetterな選択肢。大したものですね。そんな感想を胸に、今度はクリアンカが石像のスイッチを押すのだった。ポチッとな。


 クリアンカの相手は風神の石像。こちらの武器は薙刀だった。反り返った刃の刀に長い柄を付した珍しい武器。薙刀使いとは初めて立ち合うクリアンカも槍を構える。どのような攻撃を仕掛けてくるのか、突くか、払うか、叩きつけるのか、その形状から素早い攻撃は難しいだろうが。リーチはどちらが長いだろうか。慎重にジリジリと間合いを詰める・・・必要はなかった。石像が薙刀で空を払うと風の刃がクリアンカに牙を向いた。一太刀、ニ太刀、三太刀、四太刀・・・石像が滑らかに中距離連撃を繰り出す姿は相も変わらず奇怪ではあったが、槍を使って流麗に裁くクリアンカ。互いに様子を伺って三十秒、石像が動きを見せた。薙刀の反り返った刃が地面に打ちつけられる。すると大地を裂きながらクリアンカの脚部目掛けて風の刃が迫ってきた。砂をかき分けながらリリトの戦士に接近し、足元で突然爆ぜた。砂漠の砂は軽い、そのことを実証するかのように砂が舞い踊り、クリアンカは思わず空へ逃れた。それを目で追ったエルは見とれてしまった。相も変わらず白く、清く、美しい翼だった。そこへ石像からすれば待ってましたということなのだろう、標的へ凶刃が放たれた。

 通有の心理として、誰しも空中へ飛んだ時には動きが鈍る。だから敵の攻撃などを無闇にジャンプして躱そうとするのは得策ではない。とても防御し辛いし、次の行動に移りにくいのだ。

 天へと逃れたリリトの戦士を襲う風属性の刃。地上から空中へ逃れざるを得なかったターゲットに対して放たれた一太刀。石像からすれば好機と感じて打ち込んだ一発をクリアンカがあっさりと避けた。しかし石像も気にする素振りなく空中のリリト族に向けて攻撃を続ける。薙刀をドゥンドゥン音がエルの耳まで届くかのような迫力で振り回して鎌鼬(かまいたち)を生み出す風神の石像。それをクリアンカは槍を用いて防ぐまでもなく、容易に見切った。驚くべきはその体のキレ、機敏な立ち回り、敏捷性。空に身を置いているにもかかわらず、

攻撃を見切った上で体がついてくるのだ。まるで虚空に足場でもあるかのよう。巧みに羽を使って俊敏に空舞うリリトは地上よりも空中の方が機敏に立ち回ることが可能なのではと思われるほど、華麗だった。もはや石像に勝機はなかった。クリアンカは雷撃によって風神の石像を容易く破壊した。

 エルがクリアンカに雷の魔導石を、クリアンカがエルに風の魔導石を手渡し、戦いに終止符が打たれた。






 【ソウ ノ ヒトトセ ~ オルガとセシリア】


 辺りは薄暗く、野鳥の鳴き声が気味悪く訊こえていた。自分の足音が妙に残る。落ち葉の踏まれる音がうるさい。大きすぎる森は小さな人間に恐怖を与える。ましてや普段、森や林と関わらない人間にとっては道の迷宮に近い。ここはエルフの森。オルガにとっては大きすぎる森。そしてセシリアにとっては故郷の森。自分が生まれ、育ち、そして、自らの意思で捨て去った森。そこに帰ってきた。オルガを連れて。


 オルガには出かけるからちょっと付き合って、としか言わなかったが、何一つ文句を言わずに付いてきてくれた。理由を聞くこともなかった。何処へ行くのか、どこまで行くのかにも興味がないようだ。だからセシリアもはなさなかった。できれば説明したくなかったし。口の軽い男が何も言わずに黙々と同行してくれた。口を開くのは黙々とタバコを吸う時くらいで、無口の優しさをオルガから感じることができた。そしてそのことに耐え切れなくなったのはセシリアだった。

 「どうして何も聞かないの?」森を歩きながら話しかけるセシリア。顔も視線も手向けない。オルガに見せるのは後頭部だけ。

「ん?何だ。言いてェことがあるなら聞いてやるぞ。」後方からの返答にセシリアは答えず、再び静かに歩を進めた。オルガもそれ以上のことは喋らずについていく。そう、オルガがついていくのだった。いつもと違って先頭を征くセシリア。いつもはオルガやエルガ先頭を歩いているので後ろをついていくだけなのだが、いざ先頭を切るとなると、今は2人だからなのかもしれないし、こういう状況だからなのかもしれないが、振り返ったらオルガがいなくなっているんじゃないか不安で仕方ない。性格上の問題なのだろうか、どうしてオルガは自信満々に振り返ることもせずに先を突っ走ることができるのだろうか。前を、前だけを見るようにして、背後の足音に神経を澄ませながら目的の木を目指した。


 「着い・・・た・・・」その独り言からは安堵なのか確認なのか後悔なのかは分からない。とある巨木の前に立ち止まるセシリアにオルガも倣った。その老樹、確かに巨木ではあったが周囲もというか、この大森林の至るところ巨木だらけなのでとうてい目立つ木だとは思えないのだが、セシリアに迷いはなかった。コイツも喋りだすんじゃねェかと構えていたオルガだったが、その心配は無用だった。ハーフエルフが木に手をかざすと人ひとりが十分に通れるほどの、異空間への扉が開いた。真っ黒な楕円の戸が急かすように口をあける。セシリアはひとつ息を吐くと表情固く足を踏み入れた。その様子をポリポリ背中を掻きながら見つめるオルガも続く。

「やれやれ、不思議も度を超えると気持ち悪ィだけだぜ。っ()うか、そろそろ俺も慣れねェといかんのかね~。」

 木の中の世界。そこはエルフが隠れ住む処。命を紡ぐ処。かつてリリト族に追われ、辿り着いた処。それは昔の話。それは歴史から抹殺された事実。オルガなどが知る由もないはずの話だった。

「へぇ~、エルフって本当にいるんだな。」

「あんたね~、私がハーフエルフだって知ってるでしょう。

「ん、ああ、まぁな。ってことは、ここがお前ェの故郷ってわけだ。」

「・・・うん、そう。私の生まれた所。」元気がないどころの話ではなかった。セシリアの顔が強ばっていることは森に入った時から気になっていた。今は顔色まで良くない。普段は色白で美しいその顔が蒼白している。同じ白なのにこうも違うのかというほど。けれどもオルガにはどうすることもできない。もっといえば、どうこうする気もない。まぁ、エルでもいればふざけ合ってセシリアの気を紛らすこともできただろうが、独りで愉快な空気を作るという柄ではなかった。

 なぁ、セシリア。なぜ戻ってきたんだ。捨てた故郷が恋しくなって、なんて冗談は通用しない。ここに何がある。何をしに来た。目的は何だ。ってか、俺、必要か?

 

 全部で13人しかいないそうだ、エルフの生き残りは。そこにセシリアが勘定されているかは分からないが。エルフの居住区へ到着するや否や、その内のひとりがセシリアに近づいてきた。早足で乱暴な歩き方だった。残念ながら遠目に見える彼女の表情から全く歓迎されていないことが、セシリアからやや距離を置くオルガにも分かってしまった。

「セシリア。まさかあなたが戻ってくるとはね。」

「ノワール、久し振りね。丁度良かったわ、あなたにお願いがあるの。彼の、人間族の属性を調べてくれないかしら。」セシリアはオルガにすっと視線を向けたあと、ノワールという名のエルフをじっと見つめた。睨みつけたという方が正しいか。

「身勝手な性格は変わっていないようね。はい、わかりました、なんて言うと思った?セシリア、あなたはここを捨てて外の世界を選んだの。ここはあなたの居場所ではない。戻ってくるべきではなかった。わかったら帰りなさい。」

「エルフの考えが全てではない。エルフは全能なる神にはなれない。間違いを犯すこともある。そして、エルフの民は間違いを犯した。私の考えに変わりはない。そして、あなたが属性を調べてくれるまで帰らない。私を追い払いたいのならさっさとなさい。属性を調べることなんてあなたにとっては簡単なことでしょう。」

「あら、脅迫のつもりかしら。」

「私に出ていって欲しいんでしょう。その為のアドバイスよ。」両者共引かず。

 長引くのかねェ・・・と、オルガは煙草に火をつけた。途端にノワールの目の色が変わった。

「貴様!人間!何をしている!すぐにその火を消せ!!」声を荒げるエルフに対してオルガは目を閉じ、至って落ち着いたものだった。おそらくは、そういう事なんだろうな。ヨンレンの予想は多分、正しい。そしてオルガが口を開いた。煙草の火はそのままに。

「セシリアの言う通りにするんだな。そしたら俺らは消えてやるさ。お前達の嫌いな炎と一緒にな。」

「ふざけるな!仲間を呼ぶぞ!」

「構わんさ。気配からして10人ちょっとだろう。ひとり30秒で片付けてやる。」余裕のオルガはタバコをくわえ、フォーーーと煙を吐き出した。

「ちょっ、オルガ――」セシリアの面倒が増える。

「セシリア、お前ェが何をやろうとしているかは知らんが、協力するぜ。コイツらを斬れと言われれば、斬る。」

「本当に仲間を呼ぶぞ!!」

「こんな状況で誰も助けに来ないんだな、お前ェさんのお仲間さんは。随分と薄情じゃねェか。大方どっかに隠れてこっちを覗き見てんだろう。」森に籠ることもできる。それでも世界は回る。他を拒絶することもできる。それでも、世界を見下してはならない。



 エルフの森を後にするセシリアとオルガ。結果は1分とかからずに提示された。ノワールがオルガに杖をかざして、それだけだった。オルガの属性は特殊型。『鬼』と呼ばれるものだった。

「まっ、オルガらしいって言えばオルガらしいのかしらね。道理であらゆる魔導石に拒絶されるわけだわ。」

「なあ、セシリア。」

「な~に。」セシリアはノワールに渡された杖を眺めながら生返事をした。無言のままノワールがセシリアに手渡した杖。エルフ族に伝わる紫檀(したん)の木で作られた美しい杖。

「なんで俺の属性を?」

「魔導石を使うかどうかはあなた次第よ、オルガ。でも、いざっていう時の為に準備だけはしておきたかったから。」

「ふーん、そうか。」

「でも、、まー、属性が『鬼』じゃあねー。」

「何なんだ、その、『鬼』っつう属性は。火とか水とかと違って、あまりイメージが沸かねェんだが。」

「ん~、気にしなくていいわ。鬼人族はもういないし、鬼属性の魔導石も残っているかどうか。どちらにしても他の石は使えないし、しばらくは何も変わらずってことね。」

「クックック・・・いいんじゃねぇか、それで。話のネタにはなるだろうよ。」セシリアに落胆の色はなし。オルガに意欲・関心の色はなし。

「あ、そうだ。今回の旅のこと、ヨンレンさんに言うの忘れてたんだっけ。今頃オルガのこと探し回ってるかな。うまく言い訳しといてね。」

「フッフッフ・・・終わった。俺の人生ここまでだ。」二人に笑顔が戻る。

「さっ、帰りましょう。」

「あんまり帰りたくねぇな。」オルガの足取りが重くなった。

「ダーメ。帰りましょう。」セシリアが両手でオルガの大きな背中を押していく。広く、強く、堅く、頼り甲斐があって、優しい背中だった。

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