7.日常:キャラクター? キャラクター!
先輩 男。ワナビ。キャラクターは人間味こそ正義。モブにだって命があるんだ
後輩 女。ワナビ。なんだっていい、心を折るチャンスだ
ポウ 男。なろうマン。物語であるなら人間の戯画。それなりに書くべし。
リン 女。読み専。だがGMはする。キャラシーなら予備有りますよ。え、違うの?
神は七日目に休んだ。
そんなわけで新しいクーラー神の取り付け工事のため、文芸部の一部が珍しく食堂でだべっている。そのためか普段部室に顔も出さないリンがいた。ボードゲームに人狼、テーブルトークRPGばかりで遊ぶような人物だった。その体はあいかわずわがままだった。
「斧ってさぁ、女の子だよなあ」
ポウが訳の分からない台詞を漏らした。
「はあ」
「ほほう」
相変わらず気のない声を上げる後輩、そして先輩と同輩であるリンが興味深げに声を上げる。
リンは眼鏡を不自然に、くいくいっと直す。あるキャラクターの物まねが癖になったそうだ。
「大きな武器と少女、アンバランスな感じがしていいでしょう。
特に斧は、こう形状といい、破壊力といい、そそられますね。
イラストにしても、女の子の部分が隠れるのが最小限ですし」
ポウは興奮気味に伝えるが、死んだ目を先輩がしていた。
「個人的には食傷気味だがなあ」
「いやいや、これはですよ、それほどメジャージャンルということです」
リンは納得しつつ、ふんふんと大仰に頷く。胸部にある立派なものが揺れた。
務めて目を逸らしながら、先輩が不満を垂らす。
「そうかぁ?」
「戦闘する女の子というのがもうメジャーなんですよ。ソシャゲ見ればもうそんなコばっかりですよ」
「ぬぅー」
先輩は唸り続ける。
「まあ、確かに僕も何の意図ないで、武器を持たせるのは嫌ですけどねぇ」
「アンバランスならアンバランスなりの意図が必要、と」
「そうです。武器を持っているというのは理由があるはず。あとは戦いたい女の子と、戦わざるおえなかった女の子では、また心持ちが違いますから。描写や戦いの態度もかわりますね。この辺りをどう味付けするかが、このジャンルの肝ですよ」
「むー。まあわからんでもないが」
反応が微妙だ。
「先輩の感性の古さは置いておくとして」
「なんだとぅ」
それを無視して後輩は続けた。
「男性の役割を女性に投げている、という意見も聞きますが」
「まあ、それはあるでしょうね。責任とか、男かくあるべし、とかないですし。
というかフィクションでそこまで人間の強さを求めてもねぇ」
リンがそう言う。後輩と並ぶと全体的に大きい。いろいろと。
先輩は思わず見比べてしまうのだが、恥ずかしさを隠すために口を開く。
「物書きとしちゃあ、それで面白いものができるが、重要だがなあ。
葛藤こそ物語の種だ。背景の人間の時代性や精神性の考察なんかは、うまく物語を回すためのおまけだ」
後輩はじとりと先輩を見た。
「まあ、うん。それでもいいですけど」
「なにか言いたいことでもあるのか」
「いや、先輩のキャラって葛藤薄いですよね」
「ぬぐ、おっ」
めしっめしっと言葉で殴る後輩にポウは肩をすくめる。
その横をすり抜けてリンが紙を配ってきた。テーブルトークRPGで使われるキャラクターの記入用紙だった。
「へえ、新作かな」
「そ、それのサンプルキャラね。いっそ先輩達も沼に引きづり込もうと思って」
事前に作られたキャラクター達がずらりと並ぶ。定型に基づいていたり、元ネタがあったりする用意されたキャラクター達だった。
「無理な勧誘は友達無くすよ」
「まあ、暇そうだしいいじゃない。で、どれか使いたいのある?」
「んー、まあ最初は脳筋だよな。なんにも考えなくても良さそうな奴。
えーと、とりあえず攻撃してれば良さそうな“砲弾の魔女”かな。見た目も好みだし」
描かれたキャラクターは金髪碧眼の少女だ。人間が持つことができそうもない大砲を構え、防御力のなさそうな水着めいた服を着ている。幼げな顔とやたら肉付きいい体がアンバランスだった。
先輩なら蛇蝎のように罵りながら、チラ見するようなデザインであった。
「へえ、それでこのキャラクターの武器を持つ理由は?」
「初手で聞かれても困るって。まあ、おいおい楽しそうなのを考えるよ」
「ま、それぐらいで丁度いいよね。下手な考え休むに似たり、と」
そうして二人はゲーム談義に花を咲かせるのだった。
なお、その横で先輩後輩は互いの悪いところを突き続ける醜い争い。下手な考え合戦を続けたが、放置された。
終われ。