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お話になりません  作者: 五部 臨
部誌作成編
2/12

2.日常:願望垂れ流し

先輩 男。ワナビ。地味ファンタジーマン。自分は常識的だと思っているが大分変。イラストは見る派。

後輩 女。ワナビ。動物系ファンタジーを書いている。なんというか理性的な天然。解剖しないとイラストは描けない派。

部長 残念ながら男。むしろイラストレーター志望。


 汗を垂らし、転がっている男女がいた。色気は、なかった。


「旅に出たいです」

「いけば」


 さっくりと切り捨てた先輩はごろごろした。ダメージを受けた様子もなく、後輩は口からどろどろと言葉を吐く。


「なんで、とか、どーして、とかあるじゃないですか。むしろどこに行きたいとか、言うべきでしょう。もちろん、費用は先輩持ちで」

「いやいや、中国だと後輩が奢るらしいぞ、賄賂で」

「あいあむ、じゃぱにーず」

「俺、必修言語、ドイツ語なんだよね」

「じゃ、ちょっとボドゲの翻訳して欲しいんですけど」

「年、一コマ程度で分かるようになるわけねーだろ、と先生はいってたぜ」

「役立たず、不能」

「セクハラじゃね、それ」


 八畳間の狭い中、転がりながら狭苦しく虚しい言葉をぶつけ合う。

 ちゃぶ台越しに、後輩はウバァーっと声を上げる。威嚇するように、狐の形を指で編むがすぐに飽きてやめた。


「暑いよう」

「だよなあ」


 先輩の方が頷く。


「何故、我々はここにいるのか」

「クーラーが生きているはずでしたね」

「図書館が死んでいなければ」


 二人は部室で蠢く。家族でもないのに、溶けたように崩れた姿を互いにさらす。


「原稿、進みました?」

「文学フリマ用の奴だっけ」

「締め切りが近いですよね」


 あーばーげーがー、と唸り続ける。文芸同好会なので年何回か、オフセット印刷の同人誌を出す。基本的にこれは対して売れない。基本的に部員に配って後は余っていく。部室にはそうした敗残兵達が山となって残っている。

 それを見てなお書こうというのは物書きの業であった。


「しかし、駄目なんだ」

「駄目なんですか」

「短編ってさぁ、アレだ。ネタ出しが命だろ、落ちがしっかりしてないとさー、微妙じゃないか。中々決まらなくて」

「長編は」

「長いんで書くのが大変。だいたい同人誌で長編って死ぬぞ。連載にして読む奴いるのか?」

「中編」

「ネタ出しの難しさと長さを合わせた地獄」


 二人で虚しそうに天井を見上げた。


「あと書いてると、これ面白いかって疑問が浮かぶと駄目じゃないか、筆が死ぬ」

「ああ、ありますよね」

私もなんかこう、鼠の肉体構造、これであっているのかなあとか。作業中なのに解剖したくなる」

「近寄るな変態」

「そんなひどい」


 がちゃっと戸を開ける音、入ってきたのは美人の男だった。フィクション修正はない。これは部長だ。


「聞いていたぞ。いいから、おまえら進めるんだ」

「だが、ねた」

「おまえのネタが面白いとか、知らない。そんなことはどうでもいい。進めるんだ」

「いや」

「締め切りは今週末だ、じゃあの」


 閉じる音、二人は静寂に残されながらも、よろよろと動きだした。


「やりますか」

「やろう」

「お腹空きましたね」

「う゛ーん。そろそろ、一杯引っかけたいな」

「暑気払いですね」

「そ・れ・だ」


 仲良く手を組んだ二人。


 それを消すのは、がちゃっと戸を開ける音。血走った目だけが、彼らを見ていた。


「いいから、進めるんだ」

「「アッハイ」」


 終われ。


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