9.日常:中身と後ろ姿
先輩 男。ワナビ。昔、いろいろあってな。だが、考えているようで何にも考えていない。
後輩 女。ワナビ。実は複雑な家庭持ち。しかし、大学生ともなればスルー案件であった。
からんと氷が鳴る。涼しげな音が熱帯びた体に心地よい。少しレトロな雰囲気だった。木の色が良く映えた落ち着いた純喫茶だ。窓の形やドアの硝子も凝った形をしていた。
「薄っぺらい話ですね」
そう切り込んできたのは、部室で行われたヒロインについてのことだった。
「まあな、雑談だし」
「雑談でも物書きならもう少し考えて発言しましょうよ」
「いやいや、オレは自分から話してないし」
そう言って先輩はケーキを突く。フルーツがこんもりと盛られている。甘党の先輩に対して、ビターチョコのケーキを後輩がもぐもぐと口に運んだ。
「そもそも属性だのなんだのって分類でしょ、分類で人を語っているようではリアリティが欠けます」
「現実の人間も定型とかあるが。トッキーとか」
「ノンフィクションならそれでいいですけど、こっちはフィクションですよ」
「むー」
「現実で起こったことってそもそも現実離れしていることもありますし」
「言葉はすごい矛盾する気がするが、わからんでもない」
「あとはあれですよ、ポウも言ってましたが、キャラクターの背景というものには理由がなきゃいけませんよ」
そう言ってアイス・カフェオレを吸った。ストローと唇を眺めながら先輩は口を開く。
「まあな。あれだろ。まず、そのキャラが動く理由があってって奴だな」
「そうです。自分から動くならその動機、巻き込まれた場合関わっていく理由は欲しいですね」
「それがストーリーと組み合って物語だからなあ」
うんうんと頷きながら、ホイップクリームと焼き林檎を放り込む。先輩は幸せそうな顔をした。
「まあ、つめていきましょう」
「ふむ。ならば、実際やってみるか」
「そもさん」
「せっぱ」
先輩は答えると生地とキウイに手を掛けた。程よい酸っぱさが心地よく口に広がり、満足げだ。
「部誌のリメイクで」
「こっちのかよ」
「だって私のは童話っぽくつくってたので、リアリティは二の次でしたし」
「本当“に”残酷なグリム童話って感じだけどな」
「人間賛歌がテーマなのに、ひどい言い様ですね」
不満そうにチョコケーキを捕食する。割とワイルドにばくばくと食べた。
「で、先輩、あの主人公を詰めましょう。なんとなくフィーリングで作ったでしょ」
「まあの」
「で、彼の背景を考えましょう。正直、分かりづらい」
唸りながら、先輩は紅茶をすする。後輩も示し合わせたようにアイス・カフェオレを吸った。
そして二人はぱくぱくとケーキを削っていく。お互いの返答を待ちながら、ゆっくりゆっくりと時間は流れた。
何度も何度も二人の会話は横道に逸れていったが、またキャラクターのことに戻った。
「まず血筋だの生活だのなんだのか、きめんとな」
「いやまず、それで何を書くか、からですよ。英雄に英雄の、変態には変態の、役割がありますからねぇ」
「話からキャラクターを作るか」
「少年漫画や長編ライトノベルにするつもりでなければ、無難かと」
「お話を納めるなら、そうなるか」
「そのキャラクターの話を中心に短編、その後長編というのもありですが」
「速度的にむずかしいからなあ」
空になってしまったケーキ皿を隅に寄せる。日が落ちて赤々とした光が道路を照らした。
「まあ、奴の役割は怪奇への対処だからデウスエクスマキナの方がいいよな」
「じゃあ、前言ったとおり、怪奇に首を突っ込むヒロインの肉付けをメインにした方がいいでしょう」
「あるいは、ホームズ&ワトソンとかの鉄板でいくか」
「コンビものですか。確かにヒロインは驚き役としては良いですね」
「んじゃあ、家で詰めるわ。そろそろ暗くなるし、あがろう」
「そうですね」
後輩は立ち上がり、あっと声を上げた。
「先輩、あれのモデルって先輩自身ですよね、格好良く書くのにためらっちゃあ駄目ですよ」
ふふっと笑い、するりと離れていく。綺麗な黒髪がさらりと流れた。
「ぐ。むぅ」
先輩は顔を赤くして俯くと、残された伝票をもぎ取った。
終われ。
書きために追いついたので、今後はかなりのスローペースです。
のんびりお付き合いください。




