1.日常:それは終焉に向かう物語
先輩 男。ワナビ。地味系ファンタジーマン。自分は常識的だと思っているが大分変。
後輩 女。ワナビ。動物系ファンタジーを書いている。なんというかアレな子。
夏。辺りにはセミの声とじわじわと長く蝕む暑さが広がっている。
「書けぬ」
「またですか」
ぐだりと転がる男を冷たく見る女がいた。大学の部室であった。
八畳間には本棚から溢れた本や誰かが置いていった玩具がごろごろと転がっている。
「だってさ、なんかこう、ね。しっくり来ないんだ」
「はいはい、そうですね、せんぱいの、さいのうは、じだいを、さきどり、しすぎて、いますね」
これでもかとやる気なく答えた女、後輩は再び本に目を通した。表題には『図解! 目黒のさんま』とある。意味不明だ。
「うーうーうー」
「うー?」
生ゴミのように転がる男、先輩はうなり声を上げた。後輩はやる気なく、几帳面に答えていた。
「あれさ、普通のファンタジーって今は受けないじゃん」
「何を持って普通とするんですか?」
「ラノベ、90年代、ファンタジー」
「普通? というか、世代でしたっけ」
「古本屋は偉大」
「原作者へ貢献しないスタイルですね」
後輩は冷たく切り捨てて、続ける。
「そもさん」
「せっぱ」
「90年代流行ったものが今になって流行るとでも?」
「流行はぐるぐる回るだろ! サンダルとかだって、古代ローマ風のグラディエーターサンダルとかあったし」
「飛躍しすぎて意味がわかりません、脳が沸いてますね」
いいながら汗を垂らす後輩。地味に暑い。
部屋には冷房はないため、ビルを通り抜けた熱風が窓から飛び込んでくることだけが希望であった。
「暑い」
「ですね」
「あれさ、妥協してさ、今風の書こうとしたんよ」
「今風とか大枠で言われても。良い感じの翻訳ものの大作ファンタジーとかぶつけますよ?」
「やめてください。2日は帰ってきません。
でも、あとでそのファンタジーについて詳しく教えてくれなさい」
なお大作ファンタジーが翻訳されていないので、いろいろセルフサーヴィスなのだ。
しかし思考するのが、めんどくさいので後輩は別に気にしないことにした。
うまくいけば一ヶ月はこいつを放逐できるかもしれない。
「それで今風っていうと」
「チート!」
「古今東西、よくありますよ」
「転生!」
「けっこうありましたよね、ゲーム世界に入るとか含めて」
「ぐぬぬ」
「思うに。
書いてみれば90年代でも今風になりますよ。やってみればいいじゃないですか」
「そうだろうか」
「そうですよ」
『図解! 目黒のさんま』を閉じながら後輩は答えた。
「むーん、それなら、そうしてみるよ。
・・・・・・ところでさ、その本どんな本なの」
「ゲーム風の異世界に転生した主人公が」
「え、はい」
「自動的に経験値溜まるチートを手に入れて」
「まあ、うん、わからんでもない」
「レベルがカンストすると爆発するから、タイムリミットまでに世界を救うという・・・・・・」
「ごめん、やっぱ、無理っぽいわ」
終われ。