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流星群の下で

作者: 上上手取

短編創作お題出したーよりお題を頂きました

上上手取は、静寂に包まれたグラウンド が舞台で『コーヒー』が出てくる明るい話を7ツイート以内で書いてみましょう

このお話はお題に添ってなくても委員会の提供でお送りいたします

 草木も眠る……とまではいかないが学生が一人で外を出歩くには遅い午後8時、俺達は学園のグラウンドに集合していた。今夜は数十年に一度の流星群の日。天文部である俺たちはこの場所で泊まりがけで流星群を観測する合宿を行うことになった。

 本来なら学園の屋上で行うのが筋というものだがあいにくとフェンスが老朽化しており一般生徒はおろか教職員ですら気軽には立ち入れない場所になっている。


 グラウンドはしんと静まり返り天文部員以外に人はいない。試しにはぁー、と息を吐いてみる。息はたちまちのうちに白く染まり今の気温がとても低くなっていることを示してくれた。天体観測には最適な雲一つない夜空も俺たちに快適な環境というわけではないようだ。


「ホイ、コーヒー。キンキンに冷やしておいたぜ」

「阿呆、こんなに湯気立てておいてなにが冷え冷えだ。ありがたくいただきます」


 そんな小咄を部員の一人としつつ流星群が始まる刻限を待つ。熱いコーヒーが冷えきった体を温めてくれる。はー生き返るなー。今日の夜中は寒くなると言っていたから結構着込んできたんだがそれでも寒いものは寒い。


「だ~れだ?」


 そんな声とともに俺の襟首に冷たい物が突き入れられた。俺は声にならない声を上げながら落としそうになったコーヒーのカップを受け止めることに成功する。


「あ~げ~は~!!」

「あっはっは、冗談冗談。あれ? ひょっとしてマジギレ……す、すんませんでしたー」


 そう言って謝る素振りを見せながらキャーキャーとふざけて距離を取る彼女は鹿島(かしま)揚羽(あげは)。飄々として掴みどころがなくいつも俺を引っ掻き回すトラブルメーカーで……俺が天文部に入ったきっかけでもある。


――――――――


「やあやあそこの君、君には破滅の相が見える。ここは天文部に入ってその運命を乗り越えようではないか」


 部活の勧誘合戦のさなか俺にそんな勧誘文句をかけてきたのが彼女だった。正直語るに値しない詐欺まがいの勧誘文句だったのだがそんなこととは関係なしに俺は彼女に見惚れていた。小動物のような目を、ツンと整った鼻立ちを、自信をたたえた口元を……端的に言えば一目惚れだった。彼女を見た瞬間何かが俺の心の琴線に触れたのだ。

 俺はそんな彼女の言うがままホイホイと部室までついて行きその場で入部してしまった。それが多大な苦労を背負い込むことになるとも知らずに。


 彼女、鹿島はとにかく落ち着きのないやつだった。俺を天文部に入れるやいなや、


「隣の町にツチノコが現れたらしいから一緒に捕まえに行こう」


 と、俺を部室から引っ張りだした。ツチノコと天文部がなんの関係があるのか聞いてもあれやこれやとはぐらかされるばかりで結局その日から一週間、放課後はこいつと一緒にとなり町で潰される羽目になってしまった。


 それからもやれ「旧校舎の女子トイレで幽霊が出た」や「学校の裏山で謎の石碑が出た」などのうわさ話が出るたびに俺は鹿島に引っ張り回された。

 挙句の果てには「駅前の喫茶店のどれそれというケーキが美味しいらしいから一緒に食べに行こう」というものまであった。まったく鹿島の行動力には困ったものだ。


 だがそれに付き合わされるのにも妙な心地よさを感じているのも事実だ。これが惚れた弱みというやつだろうか?


――――――――


「じゃーん。毛布借りてきた」


 俺からさんざん逃げまわった鹿島。どこに隠れたんだとぶつくさ言っているともうすぐ流星群が始まろうかという頃になって再び俺の前に姿を表した。


「ほほう、それでさっきのをチャラにして欲しいと。愁傷な心がけだ。で、俺の分の毛布は?」


 その俺の問いかけに鹿島は大仰に毛布を広げて見せて、


「いや~一枚しか借りられなくてさ~」


 などとのたまった。おいおい、何だそれは。見せびらかしに来たのか? 仕方がない、このままじゃちょっと冷えるから俺も毛布をもらってくるかとその場を離れようとして、


「だ~か~ら~二人で一つ。一緒に入ろ?」


 その提案に俺の思考はオーバーフローした。


――――――――


「あははは~あたたかいね~あ、ほら! 始まったよ流星群!」

「あ、ああ」


 俺は最初はなんだかんだいって抵抗していたような気がする。そんな二人で一つの毛布だなんてまるで恋人同士のようなこと……俺と鹿島が? 正直理性を保っていられる自信がなかった。だが鹿島に言葉巧みに丸め込まれ今では触れ合った場所から直に鹿島の体温を感じている。


 ちょうど流星群が始まったらしいが俺は正直それどころではなかった。


 当たってる! 当たってるぞ! 鹿島ぁ~~~~!!


 胸の鼓動が鳴り止まない。腕に当たる感触に夢中で流星群のことなど頭からスッポ抜けていた。いや、流星が流れるたびに照らされる鹿島の顔が幻想的でとても美しいということはかろうじて理解できた。


「ねぇ、キミはどんな願い事をするんだい? こんなに流れ星があるんだからもしかしたら願い事の一つや二つは叶うかもしれないよ?」


 そんな問いかけをされたが俺は一杯一杯だったので答えになってない答えを返したような気がする。


「キミ、それじゃ答えになってないよ~」

「そ、それじゃぁ鹿島はどんな願い事をするんだ?」


 そんな俺の苦し紛れの反撃に鹿島は真剣な顔になって、


「僕かい? 僕の願いはね、ある人に思いが通じるようにお願いするつもりだよ」


 それを聞いた瞬間。頭をガツンと殴られたような気がした。


「ほら、僕ってさ結構わかりやすいじゃん。それなのにその人は僕の気持ちに全然気づいてくれなくてさ。このまえだって駅前の喫茶店に……」


 そう言いわけめいた言葉を連ねる鹿島の言葉を俺は右から左に聞き流していた。そうか……鹿島に好きな人が……それにこのところ放課後はずっと俺と一緒にいたと思うんだけどデートまでする仲なんだ。なんだ、俺ってとんだピエロじゃないか。かってに惚れて構ってくれるからそれに満足してこちらからはなにもせず好意を持ってくれているんだと勘違いして……


「……と思うんだけどキミはどう思う?」

「いいんじゃないか。俺は応援するよ。思いが通じるといいなそいつに」


 正直俺がこいつと一番仲が良かったんだという自負はある。でももうデートまでする仲なんだ。今更俺に勝ち目はない。うん、俺は鹿島の恋を応援しよう。どうやら相手は鹿島の思いに気が付かない鈍感野郎らしいがなぁに俺にやってるみたいに相手を引っ張り回してやればそいつも鹿島の魅力に気づくはずさ。

 俺自身の恋は悲しいがきっぱりと諦めよう。こういう運命だったんだきっと。


「あちゃーこれでも通じないとなると本気で星に願うしかないのかな……あっ……」


 でも最後にこれくらいの役得は合ってもいいよねと俺は鹿島の肩を抱き寄せた。抵抗されるかもと思ったがそんなことはなく俺は最後に鹿島のぬくもりをこの身に刻みつけるのだった。


――――――――


 後にこの頃の俺達が天文部一のバカップルと称されていたのを知るのは随分と後になってからのお話。





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