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2-C 出席番号01:アイザワ ハヤト

二年生に進級して新学期初日の朝。壁に貼り出されたクラス表を眺め自分の名前を見つけたものの、同じクラスに忘れたくとも忘れられない名前を見付けてしまい思わず眉を顰めた。思い返せば、私の非日常はこの男から始まった気がする。新しい教室へと足を動かしながら、私は自然と当時の事を思い返していた。


…そう、あれは忘れもしない丁度一年前の入学式の日。新入生代表挨拶という名の全新入生男子へ送る私お披露目ステージを気持ち良く終え、晴れやかな気分で残りの式を過ごし恙無く全てのプログラムは終わりを告げた。他の新入生が自分の教室へと足を向ける中、私は一人別行動で職員室へ向かい担任の先生から女子一人で心細いかもしれないけど頑張れ的な労りの言葉を受けた。いやいや望むところですっていうか理想です!ユートピアはここにあった!!…とは流石に言えないので、にっこり笑って有難う御座いますと返す私は本当に可愛かったと思う。先生との会話を終えてさぁいよいよ教室へ向かうぞ!と職員室の扉を横にスライドさせると、目の前には真新しい制服に身を包んだ一人の男子生徒が立っていた。ネクタイの色が今年の一年生カラーである赤だったので、同級生に間違い無いだろう。他の新入生は全員教室に居る筈なのにも関わらず、何故彼は一人ここに居るのか。私は答えを知っている。



出待ちだ。



誰よりも先に私と話したいという衝動を抑え切れずこんな行動に出たに違い無い。そういう積極的なの、いいと思う!思わずサムズアップしそうになるがぐっと堪えてにっこり挨拶。美少女の笑顔だよ?全身全霊で喜んでくれていいんだよ??



「どけよブス」



この後の事はよく覚えていない。気が付いたら職員室の前でもその後向かったであろう教室でもなく自室のベッドに腰かけていた。

だって、その位衝撃だったのだ。ブスって。言うに事欠いてブスって。今まで男子から一度たりとも言われた事の無いその単語に、理解が追い付かずフリーズしてしまったのはしょうがない事だと思う。

そのまま全てを忘れるように夢の世界へと旅立ち、翌朝。幾分すっきりした頭で考えた結果、きっとあれは聞き間違いだったのだと私は結論付けた。だってブスって。今まで私の気を引きたくてバカだの何だの憎まれ口を叩く人は確かに居たけれどもブスだなんて言われた事が無い。何故ならそんな見え透いた嘘なんて言えない位私は可愛いから。

だとすると、彼には悪い事をしてしまった。聞き間違えてしまった為内容は分からないが、せっかく出待ちまでして話し掛けてくれたのにも関わらずきっと私はロクな返事もしていなかったに違いない。もし今日会ったら謝らなくちゃ!そんな決意を胸に、私は元気良く学校へと向かった。


そして学校に辿り着き、靴を履き替えている途中。ふたつ隣のクラスの下駄箱前に、昨日の彼の姿を発見した。タイミング良く相手も目線をこちらに向けたので、私は朝の挨拶と昨日の謝罪を述べる為に誰から見ても可愛い笑顔を作って小走りで彼の元へと駆けていった。



「おは「なに笑ってんだよブス女」



そして邪悪な呪文によって笑顔のまま足が止まった。

固まる私をそのままに、奴はさっさと自分の教室へと向かっていった。残されたのは、思わず見蕩れてしまうような愛らしい笑顔で立ち尽くす私一人である。数秒か、はたまた数分か。暫く経った後、私は顔を俯かせてゆっくりと足を動かし始めた。


何で俯いてるかって?そんなの決まってるじゃない。





笑 う の を 堪 え る た め よ !!!!!




私は理解した。確かに、今まで私の気を引きたくて憎まれ口を叩く人は居たけれどもブスだなんて言われた事が無い。そう、『今まで』は。つまり、彼は私の気を引くのに必死過ぎて見え透いた嘘も言っちゃうニュータイプだったのだ!今までが男子校育ちで年頃の女子との接触が少なかった故に、テンパッて何を言えば良いのか分からなくなってしまったのだろう。で、結果あんな事を言ってしまった訳だ。ブスの一言に動揺したものの、裏が分かればどうって事無い。恐らく彼は、私に構って貰う為今後も心にも無い暴言を吐き捨てにやってくるに違いない。その際にちょっと悲しげに目を伏せた後に全てを許すかの様な儚げな微笑みを一つ浮かべてしまえば私の勝ちだきっと彼は罪悪感でおろおろと狼狽える事だろう。私も鬼じゃない、素直に謝って可愛いと持て囃してくれれば許してあげる!!!



そう思って一週間。その後奴は一度たりとも私の前には現れなかった。この事は私に大きな混乱をもたらした。そしてこの事に気を取られていて気が付かなかったが、私はある重大な事実に気が付いてしまった。


私、この学校の人に入学してから一度も告白されてない。それどころか、話し掛けられてすらいない!!!!!

一瞬えっ本当に私ブスになった?世界の可愛い基準変わった?気が付かない内に美醜が逆転したパラレルワールドに迷い込んだ?と不安になったが、学校以外では相変わらずのちやほやされっぷりなのでそれは無い。明らかにおかしいのはこの学校だ。


そして原因を探るべく、この日から周囲に気を配って生活をしてみると様々な光景が目に付くようになった。


ある時は男子が男子に抱きついている光景。

またある時は男子が男子に壁ドンしている光景。

そしてまたある時は男子が男子を組み敷いている光景。えとせとらえとせとら。

ここにきて漸く、私はこの不可解な状況の根底を理解した。




即ち。この学校の男子は、同性にしか興味が無いと。




男子校ではそういう恋愛が珍しくないと聞いた事がある。そして今は共学化しているとはいえ、この学校に通っている男子の大半は男子校であった中学からの持ち上がり。つまりはそういう事だ。

そりゃ私に興味持たないはずだわ…可愛いの基準が違うはずだわ…この衝撃に暫くは打ちのめされていたけれど、数週間もすれば流石に開き直った。だってここの生徒以外の大多数から見て私が可愛いのには変わりないし?別に学校以外でちやほやされてるから良いし?負け惜しみじゃないし!!!


そうして校内唯一の恋愛対象外()としてぼっちで最初の一年を過ごしていたのだが、恋愛対象うんぬんはともかく流石に校内で友達ゼロは寂しくなってきた。一年生の時の校内イベントはぼっちには地獄だった今年もあんな居た堪れない思いをするのは嫌だ絶対嫌だ。


そんな訳で今年の私の目標は『友達を作る』だ!あんな、人をぶ、ぶすだなんて言う男を気にしてる場合なんかじゃない!!


友達作りの第一歩は挨拶から。笑顔で元気良く挨拶!第一印象大事!!深呼吸を一つ吐き、感じの良い笑顔を携えてガラリと教室の扉を開く。すると私の机に花を飾っている男―…相澤隼人が目に入り、私は笑顔のまま動きを止めた。なにこれデジャブ。

花瓶からこちらへ顔を向けた相澤が、にやにやと笑いながら「よォ、気に入ったか?」と聞いてきたので、「素敵な贈り物ね、有難う」と笑顔のまま皮肉で返してやった。友達は欲しいけどこいつとはなれない。

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