セバス×ツアレ=企みのペストーニャ【想像/捏造】
ただ、なんとなく。
妄想を爆発させてみた。
こんな風になるのではないかという、想像。
ソリュシャンは様々なモノをそっくりに真似て調合し、合成することは出来るものの、それはあくまで間に合わせに真似たに過ぎない。どうしてもオリジナルとは微妙に異なる擬物でしか無いため、それ以上の性能には出来ても、それそのモノを作り出すことは、いかなソリュシャンであっても不可能。それは、あくまでもソリュシャンが作り出す独自の物であって、決してそのモノではない。
まして、パンドラズ・アクターの変身であったとしても、そのモノとは異なる、己でもってその要素を代替し、摸倣せざるを得ない。
そのため、ソリュシャンはリュートを定期的に預かり、養育する乳母としての役割をまっとうする。ソリュシャンの役割として与えられたとはいえ、そこに介在する愛情は、嘘偽りは無く、代わる物の無い、ソリュシャン自身の独自の物である。誰も代わる事の出来ない、純粋無垢な想いが、そこに存在するだけ。
・・・ただ、なんとなく。
・・・ ・・・ ・・・
セバスは大事な話をするため、無理を承知で場を設けたところ。ぐっすりと眠っているからと、慣れないながらにリュートを抱き抱える事になった。普段、起きている時と比べるとおとなしいものだと思いながら、男子禁制のメイド達の個室に一脚だけ備えられた椅子に腰掛けて相手を待ち侘びていると、リュートの手が何かを探すかのように、にぎにぎと動き出した。目当てのモノが見つからなかったのか、つぶらな瞳がぱちくりと開き、その眼と眼が合うやいなや、間髪入れずに警報が鳴り響いた!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ~!」=ちがう! ど~こ~?
「むわっ! ・・・よしよし、よしよし?」
最初の瞬間だけ慌て、なんとか取り直してあやすものの、一向に泣き止まない。右往左往しながら懸命にあやそうとするが、泣き止まず。どうしていいか分からずに、とにかく言葉をかけているだけなのだから、なおさらである。更には巌のようなその顔は、微動だに変化したようには見えないのだから。如何に困り果て、竜虎/犬猿の間柄であるデミウルゴスが傍にいたとしたら、諸手を挙げて降参してでも助けを求めざるを得ない・・・と思い詰めていたとしても。
ただ、思い通りにならないからと手を上げたり、放り出したり、激しく揺することがない分、上出来の類ではないだろうか。
泣き出してからさほど間を置かず、救いの手は差し伸べられた。だが、セバスからすると、それですら十分に長く感じられた。
「はぁい、リュート。ご飯ですよ」
慌てふためくセバスを他所に、直に部屋に戻ってきたツアレはその場ですばやくメイド服を開けさせて片肌脱ぎになると、リュートはピタリと泣き止んで、開けられたそれに懸命に手を伸ばすが、その手が届くはずがない。だが、セバスからすると、赤ん坊の思わぬ力強さを見せつけられ、慌てて腕の中からこぼれ落ちようとするリュートを抱き直し、ツアレの方へ向き直った。普段なら、紳士として直視することは避けるのだが、それすら忘れている。
「ツ、ツアレ、泣き声で求めるものがわかるのですか?」
セバスはオロオロしつつ、席を譲りリュートを手渡そうとするが、ツアレからはそのまま椅子に座っているよう促された。促されるままに椅子に腰掛けていると、ツアレはそのセバスの膝の上、セバスに抱かれたリュートと向かい合うように、横座りをして。
そうなってしまえば、セバスにはそのまま椅子としての役目を果たさねばならなくなり、ツアレとしてはセバスに甘えられ、一挙両得。実際には、リラックスできる事が一番なので、その様にセバスに【騙った】。
「えっと、なんとなく、です。そろそろ時間かとは、思っていました、ので」
「そうですか、私にはなんとも判別が付きませんでした」
「うふふ。私、安心しました。セバス様にも、わからないことがあるって」
楽しげに、嬉しげに笑うツアレを見詰め、セバスは言葉を紡ぐ。
「私が求められたるは、このナザリックを盤石の状態で維持することをお助けするために生み出されたまで。それ以外のことに関しては、及ばぬことばかりです」
事実を事実としてのみ、口上するセバス。その台詞に、セバス様は何時までも変わらない、私と初めて遭った時のセバス様のままで居てくれる。その事に安堵するとともに、我儘も言いたくなってしまう。いつまでも、変わらぬ関係でありたいと思う、しかし、変わってほしいという思いも、またツアレの胸の内に蟠っている。
だから、自分も思いを言葉にして告げようと、口を開きかけたが、その口からは、言葉は出てこなかった。
「だから、ツアレにも助けていただきますよ。これから色々と分からないことが多くなってくるので、その都度、内助をお願いします」=ツアレには、私の【妻】として、これからも助けて頂きたい。
その様に極自然に紡がれる言葉の内に込められた意味が、ツアレの心に響いた途端、おおいに慌てふためいた。
「わ、私なんて! その! あの!」
セバスの思わぬ詞の意味に顔を火照らせ、慌てふためくものの、リュートはまだ離さじとメイド服を掴んでいるし、セバスもリュートを落とすまい、ツアレが今離れてはほとほと困ってしまう、とばかりに両方を優しく、されど手放さぬように力強く抱き抱える事に。そうなってしまうと、ツアレには逃げ場はなくなり、真っ赤になりながらもセバスに対し、
「は、はぃ・・・、その、がんばり、ます」と尻すぼみがちに返事をした。
「期待しています」
セバスは普段とほぼ変わらぬ謹厳実直を絵に描いたような表情なのだが、ツアレが間近から見る角度からだと、微妙に口角が上がり、極希少な微笑みを浮かべた表情に見えた。
「セ、セバス様・・・不意打ちは、その、・・・、です」
「何かいいましたか?」
「・・・ぃぇ」
セバスの腕の中では、満腹になったのか、うつらうつらと舟を漕ぐリュート。
「あ、セバス様、リュートの背中を、こう、ぽんぽんって優しく」
「ツ、ツアレ。こ、こうですか? これで本当にあっていますか? 力が強すぎたりはしていませんか?」
仕慣れない動作を、ぎこちなくも繰り返す。
「はい、そっと・・・はい、ガスが出たのでもう大丈夫です」
「・・・私には分からないことばかりです。ツアレ、私には貴女の助けが必要ですね」
「はい、私がセバス様を・・・お助け、できるのであれば、何なりと」
何方からともなく、自然と笑みが溢れる。
戸惑いつつも、迷いのない、セバスから温かな眼差しを注がれている事を、ツアレは比較にならない喜びをもって受け入れる。
儚げなれど、誇らしげな微笑みを浮かべるツアレを見て。
その笑顔の下に、盤石の決意が秘められている事を、セバスは感じ取っていた。
あの、初めてあった当時の、か細く儚い姿からは想像がつかない強かさが垣間見えた気がした。
眠いけど、眠くないもん! と頑張るリュートは、セバスの腕の中から這い出そうと敢然と頑張っている・・・が、力の差がありすぎていて抜け出せない。
ただ、この枕は固過ぎてイヤ。という思いは伝わってきそう。リュートにはまだまだ早すぎた枕らしい。
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蛇足話
ペストーニャ・S・ワンコは、餡ころもっちもち様により作られ、ナザリックの良心とまで呼び讃えられている。
だが、邪悪なモノ達が大勢を占めるこのナザリック地下大墳墓において、それは比較対象と比べて、良心的と思われているのであって、決して邪悪でないというわけではない。見方を変えれば、極悪と思われる行為をも、善行にすら掏り替えられてみえる。
・・・ ・・・ ・・・
ペストーニャは隣室にて鎮座し、聞こえてくる声に耳を欹て、一部始終を伺っている。
「これで問題の一つはクリアできましたか。ここまでセバス様を誘導するのは、本当に骨が折れました・・・わん。さて、ここまでが餡ころもっちもち様が残された【神書=恋愛指南書】に記載されていた通りになりましたね。此処から先は・・・」
言葉を切り、辺りの音に耳を澄まし、周囲の空気を嗅ぎ摂り、辺りに散る気配に対し、低く低く潜めた声を放った。
「貴女達? どうしてここに集まっているのかしら?」
メイドの嗜みとして、通常スキルでは聞こえぬ【|メイドの囁き《Whisper of the Maid》】、近距離のみ有効な【情報共有スキル】。メイド専用【職業スキル】。
すると、近隣の部屋から、ぱたぱたと慌てふためきながら狭い出口へと殺到する音が聞こえた。
「まったく、関心があるのはおおいに結構。その調子でお相手も見つけてくればいいのだけれど・・・わん」
ふと、部屋に備え付けられたテーブルには不釣り合いな、ヴェールで覆われている大きめのランプ、らしきものが目に止まった。
「あら? こんなところに、こんなものがあったかしら? ・・・わん!」
小首をかしげながら唐突に一吠えすると、ヴェールが掛けられたモノが、ビクリと震えた。
そそくさと【首のない】体が現れ、その不審物を抱えると、とっとこ部屋を出ていこうとする。
「全く、そんなに気になるのでしたら、隠れなければいいではありませんか。わん」
呆れたように部屋を出ると、セバス達の居る部屋を挟んで向こうの扉からは逃げそこね、糸が切れた傀儡人形のように装う姿が見え隠れし、脱兎の様には逃げそびれたバニーが、見えないナニかを必死に掴んで引き止めている。見えないナニかからは、自分だけは逃げて助かりたい一心で「捕まったら、あとが怖いっす!」という叫びが聞こえる。
他にも、扉を薄く開けてこちらを伺うような視線がちらほら見え隠れしている。
更には、セバス達が居る隣室には、鍵穴に白く丸い球体がへばり付き、塞いでいる。【円筒状の塔】=不自然な蜘蛛の巣が扉を覆って、その糸はセバス達のいる部屋の向かい側から伸びている。
それを見て、はぁ、と一息吐くと、ぱんぱんっ! と手を打ち鳴らした。
「皆、仕事を疎かにしてはなりません。わん」
それを合図として、ザッ! とどこから現れたものか、一糸乱れぬメイド達が一斉に廊下に左右に列を為し立ち並ぶ。
「さぁ、仕事を片付けたからこそ、ここに居るのだと信じていますが、仕事は今もこれからも湧出しているはずです。それぞれこれからの仕事に向かいなさい。わん!」
その中には、条件反射で飛び出してきたツアレも含まれているのだが、皆、見て見ぬ振りをしながら、しっかりとツアレの赤くなった顔を確かめ。それぞれが散り散りになる中、思い思いの祝福の言葉を投げ掛け、更に朱に染めていく。
メイド達の姿が消え、一人廊下に佇むペストーニャは、おもむろに固く閉ざされた部屋の扉に向かって声を掛ける。
「貴方はすでに包囲されていました、ワン。無駄な抵抗はやめ、おとなしく出てくることをおすすめします、ワン」
と告げるだけ告げ、自身もそそくさとその場をあとにした。
あとに残されたセバスは、真っ赤な顔をしながら謹厳実直を絵に描いたような姿勢のまま、おんぶ紐でリュートを括り、仕事場=アインズの居る執務室へと向かうのであった。
その日の執務室では、アルベドが困った風を装いながらもリュートをあやし、妄想を繰り広げては、昂ってアインズに詰め寄って八肢の暗殺蟲達の手を煩わせている。デミウルゴスが些細な案件を持ち出しては出入りを繰り返してセバスをからかい、赤く染め。リュートをかまったり。コキュートスは、ロードナイトに稽古を付ける際、手加減を誤ったと報告して、門番代行に収まっている。ロードナイト=全治一刻。アウラとマーレは、あまりに落ち着かない様子のアルベドのために、アインズに呼ばれ、童謡を歌ったり、絵本を朗読したり。シャルティアは普段、仲が悪いはずのアルベドの仕事の邪魔を取り除くと称し、子守をかって出て、妄想を現実とするべく・・・アルベドと同じことを繰り返しては、仕事が中断されて返って邪魔をすることに・・・繋がった。
ペストーニャは、ナザリックに住まう者達が、自分の掌の内で面白いように翻弄されている様を見るのがお好き。何時もとは違った様子を観察し、それを見て楽しむ。各々それぞれではあるが、転がされる側からすると・・・極悪非道。
なので、リュートが生まれてから巻き起こる騒動に関しては、ペストーニャがティトゥスにまとめてもらい、記録している。表題は【家政婦長は観ている】。
更に数年後、セバスが知らず知らずに振り撒く善意が元で、妻が【闇落ち】したと息子から聞かされることを、この時のセバスはまだ知る由もない。
ちなみに、餡ころもっちもちが残したとされる神書には、表と裏があり、表巻は異性間での恋愛に関したあれこれ=女性主観。
裏巻は・・・引退する時に消去するはずだった、恋愛を鬱酔本にしたもの。
後に、ペストーニャが見つけ出し、持続復帰機能を付与して不滅処理を施したとか。
そして、それらはナザリック直属のメイド達の手によって、男子禁制の品として内々に秘匿されているのだとか・・・。
書きたいものを、書けるがままに。
思うがままに、描けるがままに。