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DLC1-1 彼女達の戦い

「みんな順調?」


 浮遊島の一角に作った農作エリアに顔を出すと、みんな笑顔で出迎えてくれた。うん。大丈夫そうだ。

 領地経営が軌道に乗るまでの間、仲間モンスター達の大多数は仮契約の形で庭園に行ってもらったりしている。食料の安定供給やインフラ整備などが必須である為に、現在急ピッチで島の再開拓を行っている所だ。


 農作エリアはそのまま読んで字の如くだ。

 水田に畑、果樹園、温室を集めた生産施設で、隣には牧場エリアも隣接している。

 作っている作物は稲、大豆、小麦など――。

 島の設備を利用すればこうした作物を地球側から召喚出来てしまう、という一例である。


 もう少し実験して術式の安全性が確立されたら、こちら側にいながらにして地球側の過去――つまり俺の所在に関するみんなの認識に干渉する事が可能になる。ベルナデッタは俺との約束を守ってくれているのだ。

 最終的には向こうとリアルタイムでメールのやり取りを出来るようになるぐらいが理想、と言っていたっけ。


 デジタルデータのやり取りが出来ると言う事は……新作ゲームの入手も可能になるだろうが……それはおまけだと、思う。多分。

 城の地下にある、あのポータルゲートもいずれは封印してしまわなければならない設備の一つではあるし。

 今でも行き来するのに存在規模での制限やらを術式に組み込んで、過剰なまでの安全対策を盛り込んでいるけれど。インターネットの回線に、帯域制限をつけるようなものだ。危ない物や人間が誤って紛れ込まないようシャットアウト出来る。


 さて。この農作エリアを根城にして働いているのはドライアド、アルラウネにトレント、ウッドゴーレムと言った樹霊、樹精や植物系モンスターの皆さん、それから土地の地力を管理するノームを筆頭にした地霊、地精。昆虫系モンスターに妖精達だ。


 妖精はフェアリー、ピクシー、シルキーと言った連中だが……日を追うごとに増えている気がするな。契約モンスター以外の妖精達が多数入り込んでいる。何となく空に惹かれて飛んでいたらここに迷い込んでいて、気に入ったから定住したとか言うから……彼女達の本能というのは侮れないものがある。無意識の行動で結界をすり抜けてくるとか……。

 要するに妖精達はここで働いているというか……遊んでいるだけだ。自然の恵みが豊かな証拠みたいなものだし、害も無いので放置している。


 農作エリアの責任者であるドライアドのメセトラが言うところによると、地球産の、品種改良の進んだ植物達は自然界ではありえないぐらい素直で可愛い気性をしているので育てていて楽しい……らしい。

 余談だが、彼女の名の由来は世界最古級の古木から頂いている。


 ともかくモンスター達は遺憾なくその能力を注ぎ、植物の成長を促進しているようだ。どうも土地から植物へ供給される栄養分は、彼女達の手が入ることで、魔力から補えるという事で色々反則である。


 農作物は割と安定供給されそうな気配があるな。シーズンになったら元暗殺者ギルドのメンバーと一緒に、みんなで仲良く収穫作業などする予定である。種麹を仕入れてあるので味噌や醤油を作る準備も万全である。


「私達も頑張りますから、クロエ様も頑張って(・・・・)くださいね」


 去り際、そんな風に言われてメセトラにいい笑顔で手を振られたので、曖昧な笑みを返すに留めておいた。

 ドライアド……というか樹木系モンスターは、こと生産に関しては一家言ある連中だ。俺の現況を見て言ったのだとするなら、単なる言葉通りの挨拶という事も無いのだろう。

 ……果樹園や農作物の栽培と結婚とそれらに付随するものを同列に見るのは勘弁して欲しいのだが……彼女達にしてみると同じだったり……するんだろうな……。




 農作エリアの様子を見て回って帰って来ると、元仮拠点にはみんなが集まっていた。

 ああ。そろそろ時間か。


 今後の傾向と対策を練る為の話し合いをするのだ。ついでに二階の談話室でお茶会にする事になっている。

 問題が起こる前に意見を交換して事前に対応策を練っておこうというわけである。今日の議題は叙勲式も無事終えて、俺が辺境伯となったから、それに付随する事だろうとは思う。


 今の所……島の方で特に問題はないんだよな。

 問題があるとしたら俺自身の事、か。領地開発に加えて貴族として覚える事も多くて、なかなか大変なのだ。


 貴族の作法などは問題無いと言えば無いのだが、グリモワールで習得出来たのは女性側のマナーや作法で男性側のものではない。元々魔法とは無関係の知識だ。

 共通言語や淑女の作法と言ったあれらの技能は……コーデリアの姿になった俺が習得出来るようにしたのも後付けらしいので、想定していない男性側の作法の習得などはグリモワール内に存在していない。


 そう言ったものの習得はこれから実地指導で学んで覚えた方がいいらしい。記憶の積み重ねも残るので違和感を消せるようになるだろうと言う事だ。

 そんなわけで講義を受ける事になった。男に戻る事も想定してメタモルフォーゼで黒衛の姿を取るのもなるべく長時間継続させるようにしている。


 習って覚えた事はいずれ公の場などで披露する事になる……のかな。特に結婚式……とか。ボロが出そうならボディジャックで魔法的に手順をプログラムしてしまえば完璧に振る舞えると思うのだが、折角みんなに時間を作ってもらうわけだし、ここはしっかり覚える方向で頑張りたいと思う。


 さて。元仮拠点であった建物は現在、俺……つまりクロエ辺境伯の別邸という扱いになっている。

 玄関を開けたら即ゲーセンという作りは改築によって目につかない所に移動はしたものの、玄関ホールの大階段裏からゲームセンターに行けたりするようになっただけだ。以前より隠し部屋的で楽しいとはマルグレッタの弁である。


 そして、ゲームセンターから二階にある居住スペースに直で移動出来たりする。簡単にゲーム廃人になれる家だな……。

 マルグレッタ的には更に趣味全開で改築し続けたかったようだが、完成予想図を見せてもらった所、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのような広大な迷路屋敷になりそうだったので流石に自重してもらった。


 別邸、と言うからには本宅があるのだが……それはつまり浮遊島アルベリアの王城の事だ。あの城はスケールが大きすぎて肌に合わないので、皆こちらで寝泊まりしている。

 ベルナデッタ達は城に良い思い出がない。それよりも別邸の方が利便性にしろ思い入れにしろ上のようで。それは他のみんなも同じ事だ。俺があの城の主であるが故に、建前上別邸と呼ばれているだけの話である。




「問題があるとするなら、やっぱり内より外かもね。黒衛と関わりを持とうとしてくる人は、結構いると思うわ」


 ベルナデッタはティーカップをソーサーの上に置いて、そんな事を言った。

 確かに……みんなの報告を聞いていても島の中はやっぱり割と順調だからな。

 俺は国王と結びつきが強いわけだし、今後はコーデリアより俺が注目されるようになると予想されるわけか。


「しかし、外部からどのようにこちらに手出しをすると?」

「ええと。黒衛の国の言葉で言う所の……ハニトラね」

「っ!?」


 ベルナデッタがほんの躊躇ってから言ったその言葉と、その意味を理解した瞬間、飲みかけていたお茶が気管に入ってむせた。ソフィーが駆け寄って来て背中をさすってくれる。


「ハニトラ……とは?」

「……ハニートラップって言ってね。えっと……要するに、色仕掛けの事かな」


 首を傾げるクローベルに、コーデリアがどこか恥ずかしそうに補足を行った。


「ああ、そういう意味ですか。それならばクロエ様に対して接触出来ると、そう思われるというわけですね」

「私達の関係がある以上、それについてはお父様も口出ししにくいものね」

「そうね。私達が黒衛の傍にいる為には仕方のない事だけれど」


 メリッサが苦笑し、コーデリアとベルナデッタが答える。

 竜との協定に……俺の婚姻関係を縛るような条項はない。あくまでも人と竜の関わり合い方についてのみ定めたものだ。

 だから政治的なアプローチは難しくとも「自由恋愛の末に愛妾を送り込む事は建前上許されている」と、みなされるわけだ。


 みんなとの関係性を考えると、フェリクスにもその辺で貴族に牽制をかけるのは難しいだろう。後になって薮を突いて蛇を出す結果になりかねない。


 要するに……美姫を周りに侍らせている俺ならば、色仕掛けもさぞかし効くだろうと見られてしまうわけか。

 ……誤解だ。だがそれを解いて回るわけにもいかない。アルベリアの事など、色々伏せておかなければいけないわけだし。


 ただ、最早爆ぜろと言われても誤解されたとしても、何も言い返す事が出来ない。

 彼女達にしても、色々と心に思う事は違うと思うのだが、そこはそれ。

 特にコーデリアやベルナデッタは王族の生まれなので、最初から教育というか心構えが違う。

 こうと決まってしまえば肝が据わってしまうものらしい。彼女達の全面的な協力の元、色々と八方丸く収まってしまってこの状況である。


 ――まあ、彼女達それぞれの事情や内面について深く考え出すと、色々思考が飛んでしまうので今はやめておこう。

 いい加減な事はできないから、まだ誰とも一線を越えたっていうわけでもないんだ。ソフィーとファルナは幼くて、こういうのをよく解っていないから解答以前の問題だし。


 まあ、それはともかくとして、ハニトラについては、ねえ。


「そういうのは俺がしっかりすれば大丈夫なんじゃないかな」


 俺の元の姿というのは見た目的にはそう人目を惹く容姿でもないので。そういう事をされると、まず裏を疑ってしまうんじゃないかと思うのだ。

 特に、既に辺境伯という肩書きもあるわけだし相手側に動機もあるとなれば。感情も読めるわけだしな。


「このお話に限ったわけじゃないけど、過信は禁物よ? 実際に接触する相手に悪意があるとは限らないもの」

「そういう事もあるだろうけどね」


 油断は確かに良くないな。


「要するに……黒衛の事は私達がしっかりすればいいだけじゃないかしらね」


 マルグレッタはそう言うと、兎を小脇に抱えたままで拳を握りしめて立ち上がった。


「私達以外の人に目を向けさせるなんて……そんな不甲斐ない事、しなければいいのよ。ねえ、クローベル」

「その通りです。それは私達で努力出来る事ですから」


 クローベルとマルグレッタのその言葉を受けて、何やらみんなの体内魔力が活性化しているのを感知した。

 ええと。あれだ。気炎を上げているというか、気合というかテンションというかが燃え上がっているのが解る。


 話は綺麗に纏まったはずだ。そこはかとなく将来に身の危険を感じるのは、多分気のせいだろう。

 ……窓の外は変わらず良い天気だ。午後の仕事も捗りそうで何よりである。

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