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81 黄星竜ヴィスガンテ

 黒竜の姿を取ったファルナが傀儡竜の一団に突っ込んだ。

 その背に乗るのはクローベル。彼女の手首に装着したブレスレットに魔力が循環すると、周囲にブラックダガーが浮かぶ。


 ラーナの遺した刻印魔術の魔道具化だ。これならば装備を変える事で使う魔法を変えられるから、応用性が無くなると言う事も無い。

 傀儡竜が紫電を纏うより早く、クローベルの放ったブラックダガーが傀儡竜を切り裂いていく。ダガーを避けようとした個体もいたが、時間差で反対方向からサーペントソードが旋回してきて頭を輪切りにして行った。


 クローベルのブラックダガーの使い方は流石に上手い。

 避けやすい余地を残しておいて相手の動きを誘導し、本命の攻撃を置くわけだ。上手くサーペントソードで攻撃出来るような位置取りをするのは、クローベルの動きを学んでいるファルナならではの呼吸の合わせ方だな。

 ファルナ自身は余り空中戦が得意じゃないと言っているが、訓練の成果はしっかり出ているようだ。


 更に刻印魔術そのものにもアレンジを加えてある。ブラックダガーの制御をもう少しきめ細やかな対応が出来るように改良を加えてあった。好きな軌道で飛ばす通常版ダガーと、誘導性を捨ててプログラムした通りの動作をさせるアレンジ版の切り替えが出来る。


 今回は術者の身体を中心として衛星軌道を描くように回転させられるように調整した。その分やや制御は難しくなるが、ダブルシャドウを複数体操れるクローベルであればダガーをファルナの身体に当ててしまうようなヘマはしないだろう。

 そんな彼女を乗せたファルナは、今や飛翔するサーキュラーソーのようなものだ。当たるを幸い傀儡竜を薙ぎ倒し、上手く避けられた傀儡竜もサーペントソードに狩られていく。


 コーデリアはやや後衛に陣取っている。ワイバーンのルーデルも距離を取って傀儡竜の吐息の回避に専念しているが、別に戦っていないという訳ではない。仲間に時間を稼いでもらって大魔法をぶっ放すのがコーデリアのスタイルだからだ。


 チャージの完成と同時にコーデリアが前方を指さすと、傀儡竜達を中心に猛烈な吹雪を撒き散らすエリアが出現した。水属性と風属性の複合上級魔法、ブリザードだ。

 傀儡竜達は突如出現した理不尽に、回避も反応もままならず翻弄された。凄まじい冷気と暴風に巻かれる。どれ程の冷気があのエリアで荒れ狂っているのかは解らないが、羽ばたこうとしていた翼が一瞬にして凍り付いてしまった所から推して知るべしだろう。傀儡竜達は成すすべなく凍り付き、地面に落ちると砕け散って断章化していく。


 マルグレッタは……言わずもがなだった。

 女王の時より攻撃は小規模にはなったし翼の魔法陣も使っていないが、物量で圧倒するスタイルは変わっていない。

 グリフォンで接近すると氷の散弾が放たれ、同時に傀儡竜が蜂の巣になっていく。そのまま一撃離脱を繰り返す。解っていた事だがアイスバレットの威力じゃないな。あれは。


 気になるのはウサギのぬいぐるみのグレイルが随伴している事だ。空中を走り、マルグレッタとバルクホルンに向けられる吐息を、殴るようにして弾き散らしている。拳と足の所に魔法の光を纏っているようだ。突進してくる竜に対しては図体のサイズの違いなどまるで気にしないとばかりに殴り飛ばして、肩を震わせてげたげたと笑っている。

 肉弾型か……。魔力を纏って殴るあれは、威力もかなり高そうだ。見た目も能力も凶悪だな。


 旗艦たる浮船の方はどうか。

 問題ない。

 防御面ではベルナデッタがきっちりと全てを魔法で弾き返しているし、攻撃面では骸骨船長とメリッサのオートマトン三体が浮船の甲板に据え付けられた弩を発射して対応している。発射された弩の矢はハルトマンの風魔法で誘導されて面白いように傀儡竜に命中していく。


 因みに、骸骨船員はいない。浮船の制御が幽霊船よりシビアな為に、浮船本体と船長の制御までがティターニア号にも精一杯らしいのだ。ティターニア号が制御する事を想定していないから、錨も存在しない。

 その代り、魔力を溜めて放つ弾丸として放つ魔道具の兵装……旋回砲がデフォルトで装備されている。


 右舷と左舷にそれぞれ四門ずつ、正面に二門。ベルナデッタから魔力の供給を受けて弾丸を装填すると、ティターニア号は景気よくぶっ放していた。無人で狙いを付けて発射出来るのだから、浮船から放たれる手数は非常に多いと言えよう。


 傀儡竜自体はそれほど強くはない。

 吐息は雷を放っているというよりは、口から放つ魔力に帯電させて射出している感じで、雷撃でありながらそれ程誘導性能が高くない。

 雷を身に纏っている辺り、肉弾戦による攻撃を食らっても感電すると言う事にはなるから注意が必要だが……対策はしてきているのだ。絶縁フィールドを発するアミュレット型魔道具をみんなに装備して貰っている。私とコーデリアからの二重のエネルギー供給を受けている仲間モンスター達はいつも以上にパワフルで、常時発動させておいても問題ないくらいである。


 問題は……やはりその数の多さか。

 傀儡と言う割に自律行動をしているようだし、そういう意味では高性能だ。

 付け加えるなら、強くはないが適当な攻撃で蹴散らせるほど弱くはない、というのがとても面倒臭い。自然環境ではこのランクのモンスターがこれほど大量に出てくるなんて、まず有り得ないし。


 恐らくだが黄星竜のSE消費魔法と言う事になるのだろう。流石にこれが無限に出せるとは思えない。

 本体がこいつらの動きを制御しているというわけでもなさそうなのに姿を見せないのは……直接の戦闘力が低いからか、或いはこちらを消耗させてから出てくるつもりなのか。


 短期決戦しないと魔力が枯渇するなんて事も有り得るかも知れない。空戦ではどうしても戦場となる範囲が広くなってしまう。本体が隠れている魂胆は、こちらの消耗待ちか。早めに本体を見つけて叩くのが得策なのは間違いなさそうだ。


 絶縁フィールドは展開しているし機動力ではかなり相手より勝っているから、イシュラグアの防御面に関しては安心だ。

 ならば私はイシュラグアを信じて、ちょっと別の作業をさせて貰おう。


「イシュラグア。ちょっとだけ回避に専念してもらって、ある程度の範囲を適当に飛び回ってもらえるかな? 攻撃は余裕がある時だけでいいから」

「何か考えがあるのか?」

「このまま戦っていても消耗するだけだし。相手の本体をさっさと見つけて叩かないと面倒臭い」

「承知した」


 携帯電話を取り出して、コーデリアに話しかける。


「コーデリア。ちょっとそっちに共鳴が行くかもしれないから驚かないでね?」

「了解ですお兄様」


 よし……。それじゃあちょっとやってみるか。

 イシュラグアには回避に専念してもらう傍らで、私は目を閉じてコーデリアとの共鳴を行う。

 力の増幅と、共鳴を利用して魔力探知用の特大ソナーを発射した。


 更に仲間との感覚リンク。全員の感覚を利用させてもらい広範囲にわたって魔力の反射を精査していく。

 そして返って来た反応に――思わず自分の表情が険しくなるのが解った。

 ……また、か。


「……お兄様?」


 コーデリアが戸惑ったような声で聞いてくる。


「都の中心部の城とか塔とか……そういう意味あり気な施設への攻撃や流れ弾は厳禁。人が集められてる」

「それは……」

「……あいつらしい、わね」


 コーデリアが言葉に詰まり、マルグレッタが怒りを押し殺したような声で答えた。

 今の所は主戦場が離れているから大丈夫だが、このまま戦闘が続けば、傀儡竜を後退させてそちらに誘導して行って……最終的には巻き添えを出させるような戦い方にシフトしていくのだろう。


 自分達で殺すのではなく、私達の戦闘に巻き込んで死なせると言うのが肝なのだろうが。

 こういう策はきっと……いや、間違いなくレリオスの仕込みだろう。


 だが、理解した以上はそんな策には乗らない。


「イシュラグア。あの瓦礫の山に吐息を叩き込んでくれる?」

「見つけたのか?」

「多分」


 イシュラグアは私のナビのままに街外れの瓦礫の山まで飛んでいくと、吐息をそこに放つ。

 その吐息が瓦礫に着弾する直前、金色の竜が猛烈な勢いで飛び出してきた。同時に巨大な魔力が膨れ上がっていく。


 こいつが――黄星竜ヴィスガンテの本体か。

 黄星竜は私と視線が合うと口元を歪ませて笑った。飛び出した勢いのままに上昇していき、弧を描きながら下降してくると、帯電した雷撃の槍を同時に何本も放ってくる。

 イシュラグアも旋回しながら身をよじり、それを避けた。


 黄星竜は細身で流線型。傀儡よりは一回り程大きいが、まだ小型の竜と呼んで差支えないだろう。三つの目を持った金竜だ。

 奴の身体の周りに、黄色く輝く星型の物体が三つ浮かんでいた。雷撃の槍はそこから放たれた物のようだ。

 ……なるほどな。だから黄星竜か。


 あれも傀儡の一種だろうか? 黄星竜の身体の周囲を付かず離れず飛び回っている。……随分厄介な物を持っているな。

 それにしても今の動き。黄星竜は相当飛行速度が早い。恐らくイシュラグアと同等クラスだ。あれに追いすがって空中戦をするというのは、他の飛行モンスター達には荷が重いだろう。

 要するに……このまま私達が相手をするのが妥当と言う事だ。

 勝算は十分。海煌竜戦の時に仕込んだ物が使われず、そのまま断章として残っているわけだし。

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