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80 大空に浮かぶ島

 私がベルナデッタと立てた予想では、現在アルベリアがある場所はクラムトリア王国の国内である。

 クラムトリアは数年前からモンスターが活性化していて大変だと言う話を聞いた。レリオスが陣取っている事と無関係だとは思えない。


 私達がするべき事は出来るだけ早く最後の分身とレリオスを倒す事だ。それがクラムトリアで起こっているモンスターの活性化を収束させる事にも繋がる。


 まずは最後の分身。

 空中戦をするに辺り、必要になるのは当然ながら航空戦力と言う事になる。空中戦が得意な竜に対して、魔法で空を飛んで戦うというのは賢い選択ではない。その分回避も攻撃も甘くなるからだ。

 当然こちらも飛行出来る乗り物やモンスターに乗って対抗する、と言う形になる。飛行モンスターは回避に専念出来るし、騎乗者は攻撃に専念出来る。


 だからイシュラグアの協力は純粋に有り難いのだが、組み合わせ的に最良なのはどうやら私らしかった。

 と言うのも、イシュラグアの飛行速度が半端じゃなく速いからだ。気圧や気温等の問題は風属性魔法を組み込んだ魔道具でクリアしているから大丈夫だが、反応速度の関係で他にイシュラグアに乗れる者がいない、とも言う。


 ぶっつけ本番というわけにも行かないので、アルベリア到着までみんなで飛行しながら戦う訓練をしていた。

 そう言った訓練と模擬戦はベルナデッタの庭園で行えるのが助かる。どれぐらいの動きまで出来るのか。そのギリギリのラインを安全に見極められるのだから、これほど身になる訓練もないだろう。

 そんな風にして……時間はあっという間に過ぎていった。


 やがて浮船はクラムトリアの国境を越え……アルベリアのあると思われる空域に到着した。遠くにクラムトリア王国の街が見える。

 空は快晴。雲一つないが、それらしき物は見えないし、魔力も感じない。

 それもそのはずだ。外敵侵入防止用の魔法が張り巡らされているのである。外部からは見えなくなっているし、魔法的な感知手段からも在処が分からないように結界も張られている。

 例え浮船などで突っ込んだとしても認識をずらされて素通りしてしまうらしい。

 それは……今でもまだアルベリアに残された設備が生きているという事の証である。

 ここに至っても魔竜の分身は出てこない。つまりアルベリアの結界内部で待ち受けている可能性が高い。

 結界に出入りする為の魔法は、アルベリアの王族であるレリオスも知っている。その眷属である分身ならば、レリオスの意識体でも結界内部に呼び込むのは簡単な事なのだろう。

 

「それじゃあ封印を解くわ。準備は良いかしら?」


 甲板に立ったベルナデッタに尋ねられて、一同頷く。

 みんなの意志を確認したベルナデッタは、右手を空に差し出し、左手を胸に置く。そして目を閉じると、浪々と詠唱を始めた。

 歌のような詠唱。詠唱のような歌。声と共に、青空が歪んだ。

 波の広がった場所から水泡に穴が空いて広がるように。

 アルベリアを覆う結界が剥がれていく。


「すごい……」


 そんな誰かの、声。全く――同感である。

 私達が見上げる中、まず目に飛び込んできたのは、ごつごつとした岩の塊だ。

 あれは島の下部に当たる部分だろう。アルベリアの都は岩盤ごと空を飛んでいるのだ。

 ――空に浮かぶ巨大な島の影。圧倒される光景だった。

 浮船はアルベリアの上部目掛けて更に高度を上げていく。下からアルベリアに立ち入る事は出来ないからだ。

 

 やがて島の上部が見えてくる。そこは緑の大地。草木が生えているのだ。

 小さな白い動物が、浮船に驚いて走って逃げていくのが見えた。遠くだから良く見えなかったが……巨大なトビネズミみたいなシルエットだ。中型犬ぐらいのサイズはありそうだったが。


 まだ遠くにあるのだが、緑の広がる島の中央部には何か巨大な建造物が見える。白い尖塔が立ち並ぶ、それはどうやらアルベリアの王城跡のようだ。一部が不自然に抉り取られたように無くなっているのは……アンゼリカの使ったドラゴニクスフォーゼの痕跡だろうか。


「結界が閉じるわ」


 浮船が島の上部に侵入して飛行し始めた所で、ベルナデッタが言った。

 島の中心部から魔力の波が広がっていく。結界が閉じたようだが、特に変化はない。

 あくまで、外敵の侵入を防ぐ結界、と言う事なのだろう。閉じてくれたのは歓迎すべき事だ。ずっと結界が開きっぱなしではクラムトリアに無用なパニックを引き起こすだろうから。

 問題はアルベリアの結界などではなく――。


「今――分身の結界に触れた。敵が来る」


 そう。問題はそちらの方だ。最後の分身竜の張っていた探知結界。やはり今回もあったか。

 触れると同時に、島中央部の城の残骸から影が飛び出してくる。但し――。


「何だ……あれ」


 思わずそんな事を呟いてしまった。

 出て来たのは金色の竜だが、分身竜にしては魔力反応が小さい。

 その代わり、数が多かった。無数と言っても良いぐらいいる。

 魔力反応は全て均一。……なるほどな。そういう竜(・・・・・)か。


 子供か人形か群体か。幻影ではなさそうだ。

 探知の網を広げる。本体を潰せばあの無数の竜達も全滅するのか?

 本体らしき反応は……見当たらない。

 とにかく、仲間を増やせる竜だと見るべきだ。確かに拠点防衛用としてはうってつけで、空を飛べなくされたら無力化するだろう。本体が動く様子がないのは……この無数の竜を操っているからか。

 距離が離れているから接敵までは少しだけ時間がある。今解った情報を、皆に伝えるべきだ。


「最後の竜が操っているか、或いは群体で全部最後の竜そのものとか。子供っていう可能性もあるかな。どこかに本体がいるかも知れない」


 その場合、最有力候補は城なんだけど。 


「大火力の魔法で城を外から狙うわけにはいかないのですか?」

「確証も無くあまり思い切りの良い事も出来ないわ。陰の気を集めていたにしてはここは清浄過ぎる」


 クローベルの言葉にベルナデッタは首を横に振った。

 そう。地脈を歪めてまで集めたエネルギーを、レリオスは一体どこにやったのか。

 魔竜本体が全て吸収したか。それともどこかに貯蔵しているのか。

 現時点で魔竜本体が出てきていない事から考えても封印を破れるわけではないのだろうが、何かしらのトラップが無いとも限らない。応戦する所まではいいが、慎重に行くべきだ。


「とにかく今はあいつらを迎撃するしかない、か」

「気を付けるのは、建造物に大きな被害を出すような攻撃は避ける事。後、魔力が枯渇しそうなら無理せず浮船に逃げ込むように」


 事前に想定出来ていた事も出来ていない事もあるが……まあ、空中戦である事に代わりはない。


「断章解放、ワイバーン『ルーデル』、フライトゴブリン『リュイス、ハルトマン』」

「断章解放、グリフォン『バルクホルン』」


 私とコーデリアの召喚に応じて、ワイバーンとグリフォン、それから合成ユニットであるフライトゴブリンが出現した。

 グリフォンのランクはレアの38だったか。レジェンド級飛行ユニットはルフ鳥などだが、巨大さが売りで今回の迎撃には向いていない気がする。

 私はイシュラグア、コーデリアはワイバーン。クローベルは竜の姿に戻ったファルナ。グリフォンはマルグレッタが駆る。浮船にはベルナデッタが残り、メリッサとハルトマンが迎撃に当たるわけだ。


「イシュラグア。水晶球は?」

「先程呑んだぞ。では――参ろうかクロエ。あの紛い物どもに目にものを見せてくれよう」

「ん。よろしくね、イシュラグア」


 鞍を付けたイシュラグアに跨って、甲板から飛び出す。

 空戦の開始だ。


 先ず、速度に優れる私達が先行して戦端を開く。

 敵の大きさは、ワイバーンと同じくらいか。一番先頭にいた金色の竜に接近すると、奴は身体に紫電を纏った。

 雷撃、か。


 纏った紫電を口から放ってきた。

 問題ない。雷撃はこちらの立てた想定の通りだ。

 それにマルグレッタの時のライトニングジャベリンの威力と物量に比べたら全然である。あれを掻い潜った今更、恐れる程の物でもない。


 私の張り巡らした対雷撃用の魔力障壁で受けてやると雷撃は効力を発揮する事なく虚しく散った。

 応戦するようにイシュラグアが吐息を吐く。こちらは正当な炎の吐息だが、火力と放射の勢いが凄まじい。火線となって飛んでいくと、金色の竜の頭部にぶち当たって、爆散。丸ごと消し炭にした。

 

 炎に包まれて落下していく金色の竜が断章化したので回収して確認してみる。ええと……?

 これは、モンスターですらないな……。修復不能なアイテム扱い、か。多分、還元するしか使い道がない。

 黄星竜ヴィスガンテの傀儡竜と書いてあった。……傀儡、か。本体を潰せば全滅させられる公算が高いと見て良いのだろうか?

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