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70 相剋竜

 ファルナの物覚えは中々のものである。もっと色々質問してくるものと思ったが「ある物はあると受け入れる」感じらしく、ゲームの操作やルールもそういう物として受け取ったようだ。%の概念を教えるのに少し手間取ったくらいだ。当然、クローベルとメリッサもすぐにルールを飲み込んで対応してきた。


 そしてベルナデッタとコーデリアはやっぱり強かった。二人とも基本が出来ているので当然のように接戦になってしまう。

 私としては――他プレイヤーに目を付けられないような地味プレイで警戒を集めず、タイミングを計って一気に攻めるという感じで、対人戦ならではの暗躍プレイを展開させて貰い、何度か一位での勝利を収めた。

 何回かやってると手口もばれてしまうので結局動きを警戒されてしまうのだが、その場合は育成する場所の候補を分散させる事で迷彩を試みる。後は仕掛けるタイミングの読み合いだ。ボードゲーだから運に左右される部分もあるけどね。


 未経験者であるクローベル達にも楽しんで貰えて、ゲームは中々盛り上がったと言っておこう。ベルナデッタが覆面マントの盗賊親分ばっかり自キャラに使っていたと言うのは完全な蛇足である。

 そして前と同じように、夜が明けるまで遊んだ。

 ファルナは眠そうに目を擦ると、欠伸を一つして横になった。

 眠りの中で更に眠るような状態だが……例えて言うなら今までは浅い眠りでずっと夢を見ていたようなものだからな。子供に夜更かしはキツいという事だろうか。

 寝息を立て始めたファルナの身体の上に、ベルナデッタは毛布をかけている。何とも微笑ましい光景だ。


「ここで眠って行って良いわよ?」

「皆起きる時間遅くなるって、連絡してあるから安心してね」


 コーデリアは微笑みを浮かべてそんな事を言った。手回しの良い事だ。とりあえずコーデリアが気を回してくれたので皆安心して横になって眠る事にした。




 眠っていたら声が聞こえて来た。

 薄く眼を開けるとクローベルとベルナデッタが窓際に置いてあるテーブルを挟んで、椅子に座って話をしているという場面であった。

 私の目の前には寝息を立てているコーデリアの姿。二人して向い合うように横になっている状態だ。何でだか手を繋いで眠っていて、どうしてこうなったのかよく解らない。起こしてしまいそうなのでそのままにしておこう。


「ですから……ベルナデッタ様には私を拾っていただいたお礼を申し上げたく」


 クローベルのそんな言葉に、ベルナデッタは少し困ったように笑って、瞳を閉じる。


「昨日は楽しんで貰えた?」

「え? それは――勿論です」


 急な話の転換にクローベルは少し戸惑っている様子だ。


「黒衛の国の物を色々と見れて、みんなで羽根を伸ばす事が出来て。楽しかったです」

「なら、それで良いわ」


 ベルナデッタは面と向かってお礼を言われたりするのが苦手みたいだからな。

 昨日のは庭園の、本来の使い方に近いものなのではないだろうか。それを楽しかったと言って貰えるのは、きっとベルナデッタにとって嬉しい事なんじゃないかと、そう思う。

 うん。……もう少し眠ろう。

 



「おはよう黒衛。よく眠れたかしら?」


 目を覚ますと他のみんながいなくなっていた。


「みんなは?」

「起きてお外に行ったわ」


 コーデリアはあまり長い事不在に出来ないし帰郷中だ。メリッサは作業の真っ最中で、クローベルはファルナの面倒を見なきゃならないからな。

 私はまだ庭園に用事があるし、二度寝でよく寝ていたしで、みんな起こさず外に出たのだろう。


「あなたもお顔を洗って着替えてきたらどう? メールの用件そっちのけだったし、そのお話をしましょう」

「そう言えば……アメニティって持ち帰れるんだろうか」


 なんとなく宿に来たみたいだからつい聞いてしまった。


「情報再現じゃなく、現物があるなら可能だけどね。パジャマとかは無理よ?」


 なるほどね。まあ考えてみれば当然の話で、だからここで魔道具作っても現実に持ち帰れるんだよな。

 これまた温泉宿みたいな洗面所で身嗜みを整えて服を着替え、ベルナデッタの所へ向かう。和室から隣の部屋へ向かうと、ベルナデッタが私を待っていて「こっちよ」と言いながらドアを開けて外に出ていくという場面だった。

 付いていくと、部屋の外に出た。見覚えのある場所だった。

 前回来た時の、あの巨大な書庫だ。謎の天球儀もちゃんと空中に浮かんでいる。


 後ろに振り返って部屋の外観を見るとベニヤ板になっていた。あの洋室と和室って……。

 舞台の大道具みたいな部屋だったと言う事だろうか。外装はいくらでも自由に整えられるはずだから……この辺はベルナデッタの演出みたいなものか。

 部屋内の窓から見た時と、外の景色が全然違うのが笑えるところと言うか。

 テーブルの向かいに座ると、いつぞやみたいにベルナデッタがお茶を入れてくれた。


「アルベリアの場所、だったわよね」


 テーブルの上に地球儀が出現した。


「まず、私達のいるトーランドがここで……ネフテレカがここ、ね」


 地球儀上に光点と国境線が配置される。おお。便利だな。


「それから、今まで発見した分身達の場所がここ」


 デフォルメされた竜の人形が上に置かれる。

 ネフテレカの石鉱山の上に赤晶竜、ディルデウス海峡に海煌竜。トーランドに幻楼竜だ。幻楼竜は二頭身のファルナ人形だ。赤晶竜と海煌竜の頭の上には天使の輪っかが付いている。


「だけど幻楼竜が最初に目撃報告があった場所ってこっちよね?」


 ファルナ人形が勝手に地図上を歩いてグラントから報告を受けた場所……つまりモルギアナが迷宮を作っていた場所までファルナが移動する。

 そして海煌竜はディルデウス海峡で待機していたけれど、元々世界中の海を回遊していたわけで。そのルートはよく解らないが、海流や陸地に沿ってだろうか?


「海流に沿って、と仮定しましょうか。陸地付近を回遊するルートも色を変えておくわね?」


 海に二つのラインが引かれる。青と緑のラインだ。

 海煌竜人形が地図上の青いラインに沿って移動し始めた。というか泳ぎ始めた。


「面白いな、これ」


 インテリアに欲しいぐらいだが、これも情報再現なんだろうな。


「それから、蒼氷竜イシュレナ。消えた竜のいたティアンナ湖がここよね」


 やっぱり天使の輪っかのついた青い竜がティアンナ湖に顔を出し、「※イシュレナの姿はイメージです」というテロップが暫く表示された。


「で、レリオスが活動する為に最初に潰した竜が一匹。迎撃の為の謎の分身が、最低一匹はいるものとして……ここまでで六匹かな」


 地球儀の上を飛び回る竜が二匹。片方は天使の輪っかが付いているから消された方だろう。

 だが……駄目だ。天使の輪っかもテロップも解りやすくはあったから耐えられたが、これには突っ込みを入れざるを得ない。


「はい。ベルナデッタ先生。質問です」

「何かしら黒衛君?」

「……こいつらがパンダ柄とゼブラ柄な理由は?」

「正体不明はモノトーンなのが相場でしょう」

「違う。これじゃない」

「マーティンは好きよ。名曲よね」

「確かにあれは名曲だけど」


 でも愛称も曲のタイトルも微妙に違う。正体不明のモノトーンもそうじゃないだろう。


「で、これがあなたが見た地下水脈の続いていた方向よね。こっちのデータは流石にないのだけれど」


 ……閑話休題。しれっとした顔でベルナデッタは話を本題に戻した。

 赤晶竜の領地に矢印が表示される。

 それが直線的に続くなら東北――幻楼竜のいる方向へ向かうように見えるけれど。


「……こっちに五行思想とかあるの?」


 地脈とか言えばこれだろう。

 火、水、木、金、土の五つの属性が相生と言って互いを強めたり、相剋と言って互いを弱めたりする、とか言う物である。

 これも私のファンタジー好きからの派生で調べたりしたもので……まあ、ちょっと齧った程度の知識しかないんだけど。

 ベルナデッタと話している内に何か気付くかも知れないし。


「東の最果ての地に、地脈を操る術として同じような技術体系があるわね」

「へえ」

「神話体系の概念と違って――自然の力を利用する系統の術はシステマチックな分、それほど乖離しないようね。でも……海煌竜と蒼氷竜で水らしき属性が二つあるのよね。火勢を弱めてるのかしら」

「それとも海煌竜には別の役割が与えられているとか? そもそも竜は六匹だし、五行で地脈とか言うなら海煌竜を好き勝手動かして回るのは有りなの?」

「……うーん」


 そもそも赤晶竜は火でありながら水晶というか、二つの属性を持っていたし。金気とは、つまり金属や鉱物の事だ。五行的には火は金を弱めるのだとか。こういうのを火剋金という。

 で、幻楼竜は黒竜。五行では水気は黒。そして幻楼竜は水の要素を持っているが、土の性質もある。土は、水を弱める。北っていう方角も水なんだっけ。

 ……ティアンナ湖の竜はどうだろう? 氷竜だから水属性だと思いがちだけど、他の二つに当てはめると火の性質を持っているって事にもならないだろうか? 氷……分子の振動速度を操って、熱エネルギーを正負に操れる、とか? んーでもそうなると……色は必ずしも関係がないのか? 青は……木気だしな。

 とりあえず相克する複数の属性を持っているのかも、とベルナデッタに伝えてみる。


「なるほどね。確かに赤晶竜は西、蒼氷竜は南、幻楼竜は北に配置されているわね」

「その中心にアルベリアがあるとか?」


 ベルナデッタは少し考え込んでいたが、まだその結論は早いと首を横に振る。


「役割の今一つ解らない海煌竜は除いて、金剋木の竜と木剋土の竜がいると仮定してみましょう」


 ……うわ。

 ゼブラ柄だった竜のモデルが白と緑のツートンカラーになった。パンダ柄の方は緑と黄である。

 白は金気、緑は木気、黄は土気を表しているのだが……もう少しこう、何とかならなかったものか。


「この内のどちらかが、東。もう一方は中央、ね」

「なら、木剋土が中央だね。木がダブっているけど土が中央になるから」


 ゼブラが東へ移動。パンダが中央に移動した。

 竜の配置を見たベルナデッタは眉を顰める。


「……ろくでもないわね。相剋の竜を各地に配して陰の力を増幅させて……モンスターを凶暴、活性化させているのよ。大規模な呪いみたいなものね」


 ……レリオスらしいな。モンスターが暴れる事で更に陰の気が生まれるわけだ。


「後は海煌竜の役割なんだけど……普通に考えれば水、よね?」

「身体は七色だし、移動してたからな……。もう虱潰しに属性を当てはめて、力の流れをシミュレーションしてみたら?」

「やってみましょうか?」


 ベルナデッタは地図上の海煌竜に色々な属性を与えて力を循環させてみるが、どれも形にならずに散ってしまった。


「上手く行かないわね……」

「何かが足りないんだな」


 何が足りないんだろう。こういうのはインスピレーションが大事な気がする。

 レリオスの奴は待っていると言ったからな。分身の竜の情報を集めるだけで辿り着けるって事じゃないだろうか。

 あいつの残した魔法は竜巻なんだけど。竜巻。渦。ぐるぐる回って、一点に何かが集約するイメージ。


「――あっ、太陽?」

「太陽?」


 私が言っているのは空に浮かぶ太陽じゃなく、陰陽の概念の方だ。

 太極図の勾玉みたいな奴。あれを陰陽魚というのだが、その目の部分を陽中の陰とか陰中の陽とか呼ぶ。


「海煌竜は自分から光ってたよね?」

「あ――つまり、陰陽魚?」


 ベルナデッタも解ったらしい。海の中の煌めき――陰中の陽だな。

 そうするとアルベリア――つまり空に浮かぶ廃都の中にいる魔竜本体は――陽の中にある陰と言う事になる。

 海煌竜に撹拌させ、渦を作る事で陰の気を集め、高めていく。そうやって力を集める事で、内側から封印を破壊するつもりだったのだろう。


「……もう一回やってみるわね」


 海煌竜の陰中陽に対応する位置に力が生まれるが……ただ海煌竜に対応するように逆の位置を回り続けるだけで、力は集まっていかない。


「更に水属性を付加したら?」

「――火勢を弱めて、木気を高めるのね?」


 そうする事で力の流れに不均衡が生じるというわけだ。

 すると――渦が生じてレリオスのいる場所が陰の気で押し流され……一点に固定された。陰を中心に回る陽。歪ではあるが、これはこれで対応する位置にあるというわけだ。


「……決まりね」

「そして分身は、ゼブラかパンダか知らないけど後一体、か」


 道理で迎撃を選ぶわけだ。戦力を有効活用するには、もうそれしかない。


「パンダの方じゃないかしらね?」

「どうしてそう思うの?」

「水気が高まると、木気も強くなるでしょう? ゼブラは剋される木の方だからメインじゃないし」

「えーっと。――多分こいつが最強の分身?」

「そうなる……かな」


 ベルナデッタはうんざりしたようにかぶりを振った。しかも多分、空中戦が得意な奴を残しているんだろう。

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