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68 ベルナデッタのお祝い

 コーデリアは両親と弟、それから側妃のアルマと過ごす時間を多く取っているようだ。この辺、私とは少し違う所である。

 ――と言うより、その辺りは私がある程度抑え目にしていたのだ。

 共鳴を利用して彼女に心情に疑似的な体験はさせる事は可能だが、逆に言えば庭園にいるコーデリアに対して、私が出来る事はそれぐらいのものだ。

 だから王城でコーデリアが本当にしたい事を私がやってしまって、それを見せているだけという状況は……彼女にとって辛い事なのではないかとも思ったのである。


 逆にフェリクスやシャーロットに対しては物足りない思いをさせたのではないかと心配だったのだが……あの二人には話が終わった後、前にも増して歓迎されている気がする。

 特にシャーロット。すり抜けるのも構わず笑顔で撫でられる日々である。


 私は私で、クローベルと一緒にいる時間を増やしている。

 クローベルが普段通りの日常に戻ろうと頑張ってくれているのが解ったので、私も普段通りに過ごすのだ。クローベルと他愛のない話をしたり、一緒に中庭の散歩に出かけたりね。

 数日の間、元気が無いというか、ふとした時に考え込んでいるような様子が多かったが、段々とそんな時間も少なくなり、笑顔を見せてくれるようになってきた。


 ……うん。色々あったけれど、トーランドに来て良かった。


 ただ気になっている事が一つある。ベルナデッタの事だ。

 今まではコーデリアと一緒だったから……庭園から滅多に出てこないのはコーデリアを一人にしない意味合いもあるのだと思っていたのだけれど、今も彼女は自発的に庭園から出ようとする様子が無い。

 それが気になってベルナデッタに聞いて見た所、こんな答えが返って来た。


「別に私の事は気にしなくてもいいのよ? 一人は慣れているから問題ないわ」


 そんな事を言いながらも私には意識体を維持して外に出ていた方が良いなんて言って来る。意識体の維持コストを私自身が負担しているからである。私の存在規模的にはただ庭園にいるより逆にプラスに働くというわけだ。

 ベルナデッタは……一人に慣れているから自分に気遣うなとか言いつつ、私の事には気を回すような性格だ。

 それを指摘すると何でもないような顔をして、黒衛に何かあると魔竜の分身退治に響くとか、そんなような事を言うに違いない。


 確かに……私も意識体で出歩いていた方が良いのかも知れないが……それではベルナデッタが一人になってしまう。コーデリアも時々庭園に戻って彼女の顔を見に行っているようだし、私もなるべく彼女に会うようにはしている。例えば、カモフラージュを使う為に庭園に戻るとか。


 意識体での魔法行使はエネルギーを相当な量消費する。だから存在規模にプラスになるのかと言うと、そんな事は全くないというオチまでつくのだ。

 だから私は定期的に庭園へカモフラージュをかけ直しに行かないといけないわけで。


「クローベル。庭園に行ってこようと思うんだけど一緒にどう?」


 で、そろそろカモフラージュが切れる頃合いなので、今日はクローベルも一緒に行かないかと誘ってみる事にした。

 今後の指針について色々考えていたら調べ物したい事が出てきたので、ちょっと庭園に篭る予定なのだ。


 クローベルは練兵場で、ソフィーとファルナに指導をしているという場面である。因みにメリッサは――コーデリア人形の追加とティリア人形の作成に忙しいようだ。……とても良い笑顔で作業していた。


「庭園? ベルナデッタ様の所ですか?」

「うん。ちょっと調べ物があってね」


 調べ物とは、ずばりレリオスの居所である。

 このタイミングであいつ本体の居場所を探るというのは……レリオスが消える間際に言っていた「待つ」という言葉が正しいならという前提ではあるのだが。


 奴が封印されているのはアルベリアの廃都なのだが、七年の間にベルナデッタにも所在が掴めなくなってしまった。あいつは地脈を弄って封印を解こうとしていたわけだから、分身達の配置場所から居所を逆算出来るのではないかと私は考えている。


 以前、私に分身を普通にぶつけても勝てないだろうと奴は言っていたが、それは多分正しいだろう。飛行出来るという最大のアドバンテージを私はスポイル出来るのだから。


 竜が如何に強力だろうと、地上から飛び立てなければ苦戦を免れえないというのは赤晶竜で実証済みである。その条件に当てはまらない海煌竜も倒した。三番手は――竜としての力や巨体よりラーナの技術力に注目しているようであったから、地上戦も得意とする幻楼竜と融合させた上で差し向けてきたのだろう。 


 逆に言えば――竜を落とせない場所で私達と戦わせればいい。そうすれば奴の分身はそのスペックを十全に発揮できる。

 だからそれで、あいつの言い残そうとした「あの場所で待つ」という言葉に繋がるのだ。奴が待っている場所なんて、封印されている所でしか有り得ない。


 竜を墜落させる為に使う儀式魔法『蒼穹の神域』がどれ程の効力を発揮するのかは分からないのだが、ああ言った儀式魔法は効果範囲が広いために、使ってはいけないロケーションという物が存在している。

 例えば――アルベリアの廃都が存在する場所だ。魔法王国アルベリアが遥か昔に滅んだ今も尚――天空に浮かぶ都。


 確かにそこで待って迎撃すれば、私は蒼穹の神域は使えない。もし廃都が落下でもしたら大惨事だし、落下により廃都が破壊されたら魔竜の封印も解けてしまうだろう。落下であいつが死ぬとも思えないしな。


 レリオスがそこで待ち受けての迎撃という手段を取る限りは――竜は充分なポテンシャルを発揮出来るだろう。私達も空戦を選ぶしかないし、分身を放置しておくわけにはいかない。


 しかし迎撃という手段を選ぶ辺り……奴もそろそろ手駒が少なくなって来ているのかも知れないな。地脈の流れの操作の仕方が解れば、私達が未だ見つけていない向こうの残り戦力もはっきりしてくるだろう。


「私もテイエン、行ってみたい」


 私が思索に耽っていると、ファルナがそんな事を言った。


「ん? 別に良いけど、何かしたい事があるの?」

「ラーメン食べたい。コーデリアサマがおいしいって言ってた」

「そうか……」


 ファルナはもう少し食べ物関係から離れてくれはしないだろうか。書庫に連れて行って読み書きも教えて、絵本も読み聞かせたりしているのだが。

 まあ……色んな食文化に触れるのも教育の内か。


「クローベルも一緒に来ない?」

「そうですね。私もベルナデッタ様とゆっくり話をしてみたいです。あの方は今まで殆ど姿を見せて下さらなかったので、お礼も言えていません」


 クローベルは呪法を使ってから暫くの記憶が曖昧なのだ。

 彼女にしてみると何時の間にかコーデリアと一緒にいた感じで、当然ベルナデッタの事も記憶にないらしい。

 ……ゲーム内での描写が正しいならば、ベルナデッタはずっと日陰の役に徹していたからな。自分がクローベルを助けた事だって聞かれるまで話さないぐらいだ。


 当然ベルナデッタが外に出てくることは非常に稀で、基本的に庭園の住人にも極力干渉しない方向で動いていた。だからクローベルも、直接お礼を言う機会さえ持てなかったようだ。

 私としてはもっと……ベルナデッタとみんなの交流が深まればいいと思う。

 あの子にしてみると多くの人との交流は、きっと何時か来る別れが辛くなるから必要最低限……つまり、担い手以外とは関わろうとしないのだと思うのだけれど……私はベルナデッタの抱える問題を、そのままにしておくつもりがない。


「うん。じゃあ、一緒に行こうか」




 私が庭園に入ると、現れた場所は何やら洋館風の内装の部屋に出た。足元は毛足の長い絨毯で、随分豪華な部屋だ。

 ベルナデッタが明らかに作っていると解る笑顔で私を出迎えて、こんな事を言う。


「お帰りなさい。パズルにする? ボードにする? それとも私――のセーブデータでレベリング?」

「ゲームする気満々だ! それからレベリングは自分でな!」


 思わず突っ込みを入れた。メールで用件は伝えたはずなんだが。

 さり気にお風呂か食事か、みたいなネタまで仕込んできたし。相変わらずベルナデッタは庭園だとフリーダムだな。


「レベリングは冗談だけど。ここ最近対戦ゲームしてないし、暇は暇だったのよね。調べ物をしたいって言うなら時間は取って来たんでしょうし、少しばかり付き合ってくれると嬉しいわ」


 冗談はそこだけですか。

 ……まあ、良いけれどね。ベルナデッタが遊びたいと言うのなら付き合う事に吝かではない私である。

 それに、レリオスが迎撃を選ぶというのならこっちはタイミングを選べるわけだし。あいつがやる気を出しているなら、適当に待たせておけば良い。


「クローベルとファルナの招待はして貰えるの?」

「……ほんとは上層に担い手以外は入れない方針なんだけどね。コーデリアも呼ぶなら今日は特別に招待しようと思うわ」


 ベルナデッタは苦笑した。

 庭園は上層と下層に分かれていて、管理者と担い手がいるのが上層部だ。上層部へは下層部の住人は担い手や管理者の許可なく立ち入れない。

 コーデリアが来るなら特別だというのは――コーデリアが帰郷した事を受けて、ベルナデッタに出来る事でお祝いをしたかったのかも知れない。

 うむ。これは確かに、調べ物なんかしている場合じゃないな。


「ああ、メリッサも来れるけれど?」

「え。出来るの?」

「可能ね。断章化されていないから眠らないと招待出来ないけれど」


 どうする? とベルナデッタは私に目で聞いてきたのでよろしくと頷いた。

 私としては当然ながらメリッサにも来て欲しい。

 というかベルナデッタはメリッサの事も信用に足ると認めてくれているらしい。でなければこのタイミングでこんな事を口にするわけがない。

 ベルナデッタとしては――彼女が人間だから、庭園に入れるのならば私の意志に委ねたいと言う所か。自分から担い手以外の人間を庭園に入れたいとは……決して言わないだろうし。


 その時、扉を開けてクローベルとファルナが入って来た。私達の姿を認めると、クローベルがベルナデッタに頭を下げてくる。


「お招き頂きありがとうございますベルナデッタ様」

「ええ。いらっしゃい。みんな揃うまで適当にやっていて。私はちょっと準備があるから」

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