表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/97

4 ゴブリンの巣とスニーキングミッション

 アタックなどと大仰な言い回しをしてみたが、拍子抜けするほど順調である。今の所は、と但し書きが付くが。

 というのもゴブリンの巣は広そうな割りには警戒がザルだったからだ。

 外敵には備えがあるのかもしれないが、地下水脈側から外敵が侵入してくる事は想定されていないのだろう。

 見張りは常に通路の逆側を警戒しているし、仕掛けられている罠も洞窟の奥側から見ると丸見えだったりする。正直チョロい。

 戦闘が回避出来そうにない時だけリュイスに誘き寄せてもらってクローベルが不意打ちしたり挟撃したり、或いは投げナイフで仕留めたりという方法を取る。

 不意打ちにしても大体は背中を刺されて悶絶するゴブリンに対して、クローベルが急所を刺突したり首を刎ねたりといった具合で、戦闘にまで発展しない。


 ていうかクローベルがな。飛び跳ねても、攻撃を仕掛けても全く足音がしない。

 隣を横切っても気配がしないのだ。通路の先に敵が居る時は、必ず手で制して皆を止めてくれる。

 三角飛びの要領で天井と壁を足場にして、音もなくゴブリンの背後を取った時は、流石に笑うしかなかった。


 出口は……恐らく罠が仕掛けられている方向、だろう。外から侵入してくる敵の排除を目的としているのだから。

 あまりにサクサク進めるのでちょっと感覚が麻痺してくるな。ゲームと違って命がかかった現実のはずなんだが。


 ……現実。現実か。

 こうやって生物の命を奪う事に罪悪感を覚えないでもないが……それこそ平和ボケというものだろう。ましてや自分の身の可愛さ故に、クローベルやリュイスに手を汚させている立場の俺が偉そうに語れるものでもない。


 っつーか。仲間を危険に晒して、リュイスには同族殺しをさせてるとか。ゲームじゃ気にならなかったけど現実になると心情的にきっついな、これ。

 ともあれ、だ。ここに来るまでにゴブリンを六匹仕留めて、少々のSEとゴブリンカード三枚をゲットした。

 ゴブリンなのでSEは大して持ってない。新たに獲得したカードは後で素材化すればいい。モンスターカードとして断章化出来なかった死体は「ゴブリンの死体」として断章化出来るので死体は残らない。

 順調だ。このまま行けば問題なく脱出出来るかも知れないと、そう思っていた矢先の事。


「――あっ……ああっ」


 花瓶の割れるような音と共に、そんな声が聞こえた。ゴブリンの甲高い声ではない。もっとこう、何ていうか……そう。子供の苦悶の声のような。


 ……右脇の横穴からだ。見張りは居ない。

 俺はそちらを覗き込む。細く長い通路の向こう。

 割れた壷とぶちまけられた何かの液体。その横で蹲って頭を抱える人間の子供。


 それから甲高い声でそれを罵っている、杖を持ったゴブリンの姿。

 あれは……ゴブリンシャーマンか。魔法を使えるゴブリンって奴で、大概群れのリーダー格として君臨している。普通のゴブリンより遥かに頭が良く、こいつが統率している群れは頭脳プレーで動くので、普通の群れより危険度が高くなるらしいのだ。ま、RPG知識の受け売りだけどな。


 ……子供を浚ってきて奴隷にしてやがるのか。

 これを見逃すのはどうかと思うのだが……そうは言っても命を賭けるのは俺じゃないんだよなぁ。

 ゴブリンシャーマンの部屋へ続く通路は必要以上に長く取ってあるし、身を隠す場所も避けるスペースもない。通路に居る限りシャーマン側からは丸見えなので、クローベルでも不意打ちは難しいだろう。


 ゴブリン一匹一匹は正直大したことがない。肉体派のホブゴブリンや更なる上位種のゴブリンロードとなると正面切って戦わせるのは不安がある。だが魔法使いタイプのゴブリンシャーマンなら?

 接近戦に持ち込んでしまえば何とかなるんじゃないのか? ゴブリンシャーマンは確か……ランク8だ。シャドウリッパーから見れば格下である。けれど、もしもの場合は考えなければいけない。


 ゴブリンシャーマンの魔法攻撃は威力が高い。紙装甲の初期シャドウリッパーが受けて大丈夫なのか? 大怪我されたら? 現実化した今、解放状態の仲間が死んだら……どうなるんだ?


 あの子供を助けるメリットとデメリットは?

 デメリットについてははっきりしている。ゴブリンシャーマンと一戦交えなきゃならず、失敗したら総出で追われる羽目になる事だ。クローベルが殺されても俺は恐らく詰みだろう。

 成功してもあの子供を連れてここから逃げなきゃならない。生還する為の難易度は上がるはずだ。

 ならメリットは――


「――リュイスッ!」


 ああだこうだと考える前に、俺は咄嗟に命令を下していた。

 ゴブリンシャーマンが魔法の光を杖の先端に宿らせた時点で覚悟は決まった。

 出たとこ勝負だ。やるしかない。


 リュイスがギャアギャアと騒ぎながら俺の手を引っ張り、シャーマンの部屋に駆け込んでいく。シャーマンは何事かと顔を上げ、俺達の姿を認めると、怪訝そうな面持ちで魔法の発動を止めた。

 リュイスは何かに怯えるように部屋の外を指差しながら、シャーマンの背に隠れるように背後を取る。当然隣に居る俺もシャーマンの背中を取れる位置に立つ。

 シャーマンの杖の先から魔法の光が消えているのを確認してから、クローベルに指示を飛ばす。クローベルは抜き身のショートソードを構えたまま、シャーマンの部屋へ突撃を敢行。それを見たシャーマンは目を丸くして再び詠唱を始めた。


 クローベルは素早いが、恐らくは先にシャーマンの魔法攻撃が間に合ってしまうだろう。そういう構造になるよう、シャーマンが作らせたに決まっている。地の利は向こうにあるのだ。

 ……ま、普通なら、な。お前は既にこっちの策に嵌ってるんだよ。


「ギアアッ!?」


 シャーマンの悲鳴が響いた。魔法が発動する直前、俺とリュイスがシャーマンを背中から刺したのだ。

 どちらも非力な為に致命傷にはならなかったが何度も突き刺してやれば――。

 と、次の瞬間、俺の身体は振り払われて壁に激突していた。

 何だこの馬鹿力は!?

 魔法の光はまだ杖の先に灯ったままだ。えっ? 精神集中乱されたら魔法は止まるもんなんじゃないの? 

 怒りの形相のシャーマンが、吼えて杖を振るった。俺に向かって。体勢を崩されているとは言え、それは想定済みである。殺意の射線上から出来る限りの力で身体をずらした。


「がっ……!?」

「あああっ!?」


 誰かの悲鳴。光の矢が俺の肩に吸い込まれ、火箸でも突っ込まれたかのような激痛が走った。

 そこに駆けつけてきたクローベルが憎々しげに何かを吐き捨てながらショートソードを一閃する。シャーマンの首が宙を舞った。実に呆気ない。

 一呼吸あって、シャーマンの身体が光に包まれて断章と化したが、俺の方はそれどころじゃなかった。


「痛~~っ!」


 肩口に手をやってみる。直径一センチ程度の小さい傷ではあるが、綺麗に貫通していた。これ直撃してたら死んでたんじゃないのか、俺。


 クローベルが何事か呟きながら、俺の身体を横たえさせると自分の衣服を裂いて包帯代わりに巻いてくれた。

 あっはっは。やっぱり何言ってるかわかんねーや。心配してくれてるってのは解るけどさ。

 全く……ハードな事だ。こういうのはチートをもらってイージーモードじゃねえのかよ。

 ……いや、愚痴るのは止めよう。グリモワールの力だってかなりのチートのはずだ。使い始めたばっかりの俺がゴブリンの群れ相手に無双だなんて高望みし過ぎってもんだ。


 グリモワールを出現させて、痛みで震える手で操作していく。……SEが足りれば良いんだが。

 主人公……つまり俺に回復魔術を覚えさせるのだ。主人公の役割は召喚だけではない。制限はあるがバフを撒いたり回復したりと言ったアシストも出来る。

 それら魔法の習得にはやはり共用のSEが必要で、治癒魔法マスタリー(初級)が一〇、ヒールはSEが四〇、合計五〇SEが必要となる。


コモン ランク1 治癒魔法マスタリー(初級)

『奇跡の価値とは、つまり金に還元出来る事にあるのだ。 ――司祭アンガス』


コモン ランク4 ヒール

『貧者から貴族まで、彼女を求める者は止まない。かの名高き慈悲の癒し手、ロベリアの心が癒される事は無いだろう』


 胡散臭い笑みを浮かべた神官の絵と、群集を前に眩暈を覚えているロベリアさんの絵である。

 回復魔法の使い手ってそういう扱いをされるって事だな。注意が必要だ。

 主人公の魔法にはチャージが必要で、溜めれば溜めるほど威力が上がるという性質を持つ。代わりに発動に時間が掛かり、チャージ中は敵の攻撃対象となる。

 大ダメージを受けると魔法失敗となる等、弱点が多いが効果は召喚モンスターの同系統の術よりも大きい。主人公が殺された場合は即ゲームオーバーなので使い所は選ばなくてはいけない。

 ……というのはゲームの時のお話。俺が殺されたらゲームオーバーなのは当然である。今の状況ならノーリスクだろう。


 肩が痺れてきて、痛いのか痛くないのかさえ解らなくなってきた。息が荒くなって脂汗が流れてくるから、やっぱり大怪我って言って良いんだろうな。だが麻痺してきたお陰で、魔法発動の邪魔にはならなくて良い。

 習得したヒールを早速使ってみる事にする。

 ヒールと念じた瞬間、掌の上に魔法カードが出現し、その周囲に呪文とも魔法陣とも付かない紋様が展開して回転を始める。溜めれば溜めるほど左手の紋章が輝いて綺麗なのだが、これは目立つな。

 魔法のチャージ中はエネミーからの攻撃対象になるって、これが原因じゃなかろうか。如何にもこれから大技行きます的な雰囲気がある。

 十分にチャージした状態でヒールを発動させてみると、痺れが嘘のように引いていった。なんと、一発で全快だ。ゲーム中でも主人公の発動するヒールは仲間のそれより効果が大きいってのは解ってたからな。


 しかしまあ。手傷は負ったが、リスクを冒した甲斐はあった。ゴブリンシャーマンを手駒に加えられたわけだ。

 序盤のダメージディーラーや狙撃役としては比較的優秀な部類だ。あの魔法の貫通力を見れば納得せざるを得ない。

 落ちていた断章を収集して戦果を確認して見る。


 アンコモン ランク8 ゴブリンシャーマン 

『ほほう、呪術師も所詮は同じと申すか? 努々侮ってはならぬぞお若いの。知と力を備えるが故に愚物の長なのじゃ。 ――魔女ウーリカ』


 脳筋っぽいファイターさんがシャーマンに魔法の光で胸を撃たれてる絵だ。

 ……ああ、そうかい。今実感してるよ。

 つーかゴブリンシャーマンのフレーバーテキストなんて覚えてないって……。


 SEはシャーマン一匹で五〇も貰えた。普通のゴブリンが一匹につき僅か二しか貰えないからシャーマンの所有SEはかなり破格と言える。

 助けた子供が俺に向かって恐る恐る近付いて来た。リュイスとクローベルの方もちらちらと見ているが、俺の味方をしていたのを見ていたのだろう。俺の前までやってくると口を開いた。

 異世界語だった。

 だから言葉、わっかんねーって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゴブリンシャーマン戦の前に複数のゴブリンを召喚しなかった理由が欲しいですね。 1種族で1匹だけ、とか、2匹目からは召喚コストが跳ね上がるから惜しんで使用しなかった、とか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ