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38 防御陣地と浮遊機雷

「よく出会うモンスターと言う事でしたが、ゴブリンの方は良いんですか?」

「ゴブリンの方はこっちが徒党組んでれば勝手に逃げていくからなぁ。ティリアちゃんだっけ? あんたのゴブリンは見た目も行動も何か普通と違ったが……そのオークもそうなのか?」

「んー……まあ」


 ゲーム中のビルドと同じ事を、コーデリアがしていれば……多分そうなるかな。


「ウル、ちょっと見せてもらえる?」


 頷くウル。軽く連続バク転を決めてくれた。


「おいおい……どうなってんだマジで」


 古参の連中まで顔をしかめた。うん。問題無さそうだ。


「というわけで、顔と体格で鈍重だなんて決めつけないでください。勘違いしないで欲しいのですがオークは個体差が大きいので、全てがこういう動きが可能という訳ではないって事です。個々のオークで力と賢さが結構違うので、先入観を持たない必要があるんです。その辺は人間相手でも通じますよね。このぐらいで情報料分になりますかね?」

「あ、ああ。参考になった」


 まあ、ウルの特異なビルドについてはこちらの世界では説明しようのない事なので事情は伏せておく。

 補充する槍の穂先や弓矢、情報料の代金を受け取った。ん。何とかなったのかな?


 いずれにしても私はそろそろ話を切り上げて戻らないといけない。結局昼間のポーカーは私が負けた。料理当番なのである。


「ウル、そろそろ戻りましょう。今日は私がご飯作るのよ」

「ッ!」


 ……そんなに期待に目を輝かせないで欲しいんだけど。あんまりハードル高めに設定されても困るよ?

 ウルの場合、オークの文化から切り離されていたから女関係への執着は薄いが、食い意地の方はオークらしさが結構残っているのだ。


 さて。料理である。

 全部合成術式でも作れるけど……うん。今回はポーカーの負けによる料理当番だから、ズルせず出来る事は手作業でやろう。


 キノコで出汁を取って色々な種類の野菜と鳥肉を鍋に入れて煮込む。味付けは酒と塩。それから魚醤があったのでそれも買ってある。試しに使ってみた。味見をしてみたが、予想通りエスニックな感じに仕上がりそうだ。

 折角なので少々香辛料も入れてみた。んーむ。経験則で作ってはいるけれど、こっちの食材をあまり知らないから素朴な料理しか作れないな。味噌と醤油が欲しい。あと鰹節。

 あとは川魚に岩塩を塗して焼く。魚と塩の組み合わせとか、シンプルにして最強である。


「美味しいですマスター」

「そう? 口にあったみたいで良かった」


 概ね好評のようで安心した。交代で召喚してご飯にしているのだが、ウルとゴブリン達はそろっておかわりを要求してきた。

 アッシュ達は鳥肉を丸ごとボリボリやっている。あっちもおかわりが来そうだな。特にシルヴィア。フレデリカはイメージ通りに野菜をよく食べる。飼葉とか食べさせるよりは新鮮な野菜の方が良いだろう。


「……ああ。私生きてて幸せだわ……。こんな日が来るなんて、信じられない。天上から齎された神秘の雫が口の中に広がって……」


 ……一口ごとにトリップしているアレは置いておこう。変なキノコは使ってないはずなんだが、おかしな事もあるものだ。




「マスター。起きてください」

「ん……」


 夜中、クローベルに起こされた。

 隣にいるシルヴィアが唸り声を上げている。


「……敵……?」

「そのようです。段々距離を詰めてきているようですね。かなり大人数の気配がします」


 ……昼間のオーク達だろうか? 全くしつこいったらない。

 一度ボコボコに撃退されてもリベンジに来るぐらいのまとまりがあるって事はつまり――。


「……逃げられそう? 私達だけじゃなくてあの人達も含めての話だけど」

「無理だと思います。彼らは馬車に全員乗れるわけではありませんから、随伴せざるを得ない歩兵は捕まるでしょう」


 ……断言された。ぬう。


「クローベルはメリッサと一緒に、二人で周りの人達も起こしてきて。私はちょっと作戦を考えるから。あと、これ。数を見ながら配置してきて」

「解りました。メリッサさん、起きて下さい」

「……っ! 敵襲ですか!」


 メリッサもこの辺流石というか。グラントと一緒に旅をしていただけあり起き抜けでも迅速に行動を始めた。いや、ベテランだとは解っているんだけどね。……普段が普段だからこういう時とのギャップがあるな……。


 さて、どうしたものかな。

 この状況で彼らから被害を出さないようにするには……実力を抑えてっていうのは中々難しいんじゃなかろうか。


 あーあ。国境越えたのにまたここでこれか。

 私としてはどうせ同じように正体をバラさねばならないのであれば「クロさんメリさん、もう良いでしょう!」とか言って紋章を出す、というようなパターンが良いのだけれど。折角商人なんだし。

 ……いや、あれは問屋の御隠居だったからちょっと違うか。


 兵士達を巻き込んでしまうから闇魔法系のハメ技は使えない。第一照明がないままでは他の兵士達は戦えないだろう。

 そうするとナイトメアの幻影も使えないと言う事になる。日中馬車を引っ張る役を担ってくれているから、ナイトメアの幻影戦術を取らないなら休ませてあげた方がいいだろう。

 自ずとこちらが取る戦術も決まってくる。


 アンコモン ランク15 光魔法マスタリー(中級)

『光は必ずしも神聖なものではない。寄りかかれば我等を容易に虫と等しくする。 ――悩める聖者アイザック』


 聖堂の前に集まって熱狂する群衆に背を向けるアイザックさん。

 とりあえず光魔法で照明を作って視界を良くする方向で。広範囲の味方を暗視状態に出来る魔法とかあればそっちのが良かったんだけどね。




「……敵が来るですって!?」


 彼らのリーダーを務めている兵士長さんが私の所にやって来た。


「ええ。包囲されかかっています。今から逃げても追い付かれるでしょう。恐らくですが昼間のオークの仲間のようです」


 私が状況を掻い摘んで説明すると青い顔になった。


「……では、私達が足止めします。貴女方は先に逃げた方が良いでしょう。その……女の方がオークに捕まると……」

「いえ、逃げませんよ」

「し、しかしですね」


 男が捕まっても悲惨な末路しかないのは同じ事だ。玩具代わりにされて長時間苦しんでから死ぬしかない、という意味では生還の望みもない。

 あと、彼らだけに任せるのは心許ない。多分無理だろう。

 昼間より多かろうが夜襲、朝駆けだろうが、野良オークなどに後れを取る物か。


「ウルもいける?」


 フレデリカを当てにしないなら他のフルメンバーで戦いたい場面だ。傍らのウルに尋ねる。同族との戦いは大丈夫かと聞いてみると、彼は頷く代わりに獰猛な笑みで答えた。修羅の国の住人がここにもいたか。


「……作戦を考えました。皆に伝えてください」


 目を瞬かせる隊長さんに、私は作戦を伝えた。




 風に木々が揺れる。月明かりは無い。

 上手く森の茂みに姿を隠して、風に合わせて音を誤魔化しているけれど、この距離まで来ると暗視が出来て魔力感知も出来る私には、結構丸見えだったりするんだな、これが。

 魔力感知してる私より感知距離が長いクローベルはどうやって察知してるんだろうね。シルヴィアは多分嗅覚だろうけど……。不思議に思って聞いてみたら地面から伝わる振動と音だと言われた。うん。参考にならない。


 準備も大体終わったのでクローベルに尋ねてみる。


「連中の行動の仕方、どう思う? 私は、いる(・・)と思うんだけど」


 私の言葉に、メリッサも表情を引き締めた。話が早くて助かる。


「恐らくは。そういう前提で戦うべきだと思います」


 兵士達には……伝えるべきじゃないな。

 恐慌状態になられても困る。要するに彼らが彼らの仕事をして、こちらがこちらの仕事をすれば良いだけの話だ。

 さて。やるべき事はやった。向こうの出方を見よう。




 街道の周囲に広がる森から突如雄叫びが響き渡った。武装したオークどもが次々と飛び出し、野営地に向かって突撃して来ようと走ってくる。

 見張りに立っていた兵士が、悲鳴を上げて逃げてくる。

 引き付けるだけ引き付けてから、タイミングを見計らって断章化をまとめて解除してやった。


「ブギャッ!?」

「ブギィ!!」


 オーク達があちらこちらで――突然の激痛に絶叫を上げた。

 馬車やテントに突撃してこようとした連中は、丸太を組んで作ったバリケードの、尖った部分に勢いよく突っ込んで串刺しになってもがいていた。


 バリケード自体はザルナックで買った木材とロープで作ったものである。狼と戦った時の石の盾と同じような使い方だが、より攻撃的な防御手段だ。

 当然あれらのバリケードは、そのままこちらの防御用として使える。

 断章として配置しておいて、必要になったら解除すれば……こうして即席陣地の完成、という寸法だ。

 やや時間的な余裕があったのでクローベルに配置してもらった。まだ不完全ではあるが、私達をぐるっと取り囲むように円形に配置してある。


 オーク達の絶叫を合図にしたように、武装した兵士達がテントから出てくる。迎撃準備は出来ているのだ。それを見たオーク達の突撃の速度がやや鈍くなった。戸惑っているのだろう。

 さて。開戦の狼煙をあげようじゃないか。


「フローディングマイン!」


 アンコモン ランク18 フローティングマイン

『力という物は解りやすい形でなければならない。見せつける事で戦いは避けられるのだから。 ――神殿騎士グレゴ』


 バリケードを出現させた直後から間、髪をいれずチャージ。陣地中央の穴倉に潜って紋章の輝きを隠していた私の手から、十数個の光り輝く球が放たれ上空に浮かぶ。

 発光する球体によって、周囲が明々と照らされた。

 森の中にチラつく光はオーク達の瞳に光が反射したものだ。

 闇の中に煌めきが蠢く。暴力と欲望の意志を携えた輝き。それは豚どもの群れ。

 

 敵方が準備万端だったという事実がありながらも、数を頼みにしているという優位性が連中の無策に拍車をかけているのだろう。奇声を上げながら突撃してくるが、案の定バリケードで足止めされ、そこに兵士達の弓矢が放たれてハリネズミのようになったり、或いはバリケードの向こうから槍が突き出されて身体を串刺しにされたりしていた。

 ……向こうも弓矢を持っているのがいるな。いる、というか弓矢部隊という感じだ。

 私は指を立てて上空に浮かんだ光の球体のコントロールを握ると、光球の一つをそちらに向かって射出した。音もなく飛んでいったそれは着弾する寸前に強力な魔力の爆発を起こした。

 弓矢部隊は潜んでいた茂みごと薙ぎ倒されて吹っ飛んでいる。


 フローティングマイン。浮遊型魔力機雷とでも言うべき魔法だ。

 イメージ的には高密度の魔力をガソリンのように燃料として発光する浮遊体と考えて貰えると解りやすい。

 必要に応じて一気に暴走させるように反応させる事で魔力爆発を引き起こす事が出来る。


 元が制御された魔力の塊なので射出して滞空させておいたり、さっきのように操作をする事も出来るという、自由度の高い魔法である。


 術式を少し弄ると任意のタイミングで炸裂させる手動爆破か、接触によって炸裂する自動爆破かで使いわける事も出来る。


 接触爆破は制御に力を割いていない分威力が大きく出来るのだが、今は私がコントロールを握っているのでやや威力は抑え目。

 それであの威力だ。光っているわ爆発力が高いわでとても目立つのだが、光球の飛ばせる速度自体はあまり早くはない。本来の用途はこれみよがしに隘路で放ったり、相手を包囲させたりして動きの抑制したり、時間稼ぎの為に使える術なのである。今回は攻撃と照明という二種類の用途で使っているけれど。


 何より素晴らしいのは発動さえしてしまえば他の魔法が使える点だ。これなら任意のタイミングで魔法攻撃を行ったり防御や回復の魔法を使う事だって出来る。

 浮かんでいる光球は、状況を見て適時射出してやろう。

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