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31 特訓と必殺技

 やりたい事と言ってもそんなに大した事じゃない。実験と検証を兼ねた軽作業である。

 城をちょっと歩いてみれば、そこには赤晶竜の吐息で崩された尖塔など、建造物の残骸、瓦礫があちこちに転がっていた。見かける兵士は忙しなく走り回っているけれど、数こそ少ない。街の方に出払っているんだと思う。

 時々私を見かけて気付いた兵士が固まっていたが、笑みを向けると姿勢を正してから走って行った。


 興味本位でついてきたグラントと、恍惚としているメリッサは風景の一部だと思って気にしない事にしよう。


 じゃあ始めよう。魔力操作と素材の断章化のおさらいからだ。

 転がっている残骸の、なるべく手つかずになっている所に魔力を伸ばし、上の方から断章化していく。なんというか……これは新感覚だ。

 手が伸びているような感じって言えば良いのかな。無理をしないで伸ばせる範囲は一〇メートルぐらい? それより外になると途端に動きがぎこちなくなるし、私の方にも操作への負担が増えているのが解る。


 風景の方から「あんな濃密な魔力を自在に操るなんて」とか「さすがコーデリア様……」とかうっとりとしたような声が聞こえてくるが恐らくは幻聴だろう。

 というか彼女の私に対する評価は、八割減くらいで聞いておくのが正しい気がする。参考にはしない方がいい。


 その場にある瓦礫の山が粗方片付いたら合成術式で成形し直して材料として使える状態にし、断章化を解除。崩れないよう整頓して並べていく。素晴らしい事に、これなら耐久度を回復させる「修復」と違ってSEを消費しないのだ! その分天秤ゲージへの負担や毎回合成術式をやらなきゃならない手間があるのだが、これぐらいなら回復量の方が高い状態である。勿論、合成術式の難易度も低い。

 思い付きで始めたけど、私も練習になるしリサイクルも出来るしで良い事づくめだな、ほんと。

 あちこちの瓦礫をやっつけていると、どこからか話を聞きつけてきたのかジョナスが飛んできた。


「コ、コーデリア殿下。それは僕たちの仕事です。国賓であらせられる殿下に、そのような事をしていただくわけには参りません!」


 いつの間にか国賓扱いになっていた。


「気にしないで下さい。リハビリみたいな感じなので。感覚を忘れないよう練習してるだけなんです」

「は、はあ。いや、しかしこれは……」

「お城が終わったら街の方へ行きたいのですが」

「そ、それは流石にご勘弁を」

「無理ですかね」

「無理ですっ! 人が集まってきて大混乱になりますよ!?」


 と、血相を変えるジョナス。

 ……そうか。なら仕方がないな。

 城内だけで我慢するとしよう。現場を混乱させてもなんだし、心配掛けてはいけないよね。


 ―――あっ。

 ああ、そうか。そういう事か。

 すとん、と腑に落ちてしまった。

 あの魂達は、要するに心配だったんだよ。

 残してきた人達が心配だった。心残りは、そこにあったんだ。

 もしまだ思念を明確に言語化出来たとしても、私には言いたくても言えなかったに違いない。

 だけど、解ったよ。

 承った。


 無言でジョナスの顔をじっ、と見る。


「……ダメですよ?」

「まだ何も言ってませんが」

「回復魔法を掛けに行きたいとか言うつもりなんじゃありませんか?」


 バレたか。やるな。

 まあ、ヒールカードのロベリアさんみたいな、群衆からヒールを要求されまくるような苦労は……確かにちょっとな。警備上の問題もあるし、三日も経ってしまっていると、私がヒールをかける意味が少なくなってきていると思う。

 ん? じゃあ城から出なければいいんだ。あれなら……うん。今からでも意味があるな。


 思いついてしまったからにはやらないといけない。

 赤晶竜を倒せたのは、ザルナックの人達のお陰だ。だから返せる恩は返す。


「な、何をする気ですか?」

「復興支援?」


 断章を掲げて魔法陣を展開させた私に、ジョナスはやや戸惑っている様子だ。


 まだ助けを待っている人。生き延びて怪我で苦しんでいる人達。そして彼らを助けようと今も走り回っている市民、兵士や騎士達。

 これなら――皆に届く。


「神秘の泉!」


 宣誓と同時に足元から魔法陣が展開される。それはあっという間に地面に溶け込んで、ザルナック全体まで広がっていった。


 ランク10 レア 神秘の泉

『伝説の通りさ。嘘なんか言わねえ。女神の泉を俺は見た。証拠? こうして生きて帰ってきたってのじゃダメかねぇ? ――砂漠の民ギロージュ』


 ターバンを巻いた男が、月に煌々と照らされる泉の前で行き倒れている絵である。

 儀式魔法、神秘の泉。

 習得にSE七〇〇。発動に二〇〇〇。


 効果範囲内にいる間、体力を増強し、自然治癒力を高めるという物である。儀式魔法としては比較的地味で緩やかな効果だが、特筆すべきはその効果時間の長さ。一週間という、長時間に渡って効力を発揮し続ける。

 ゲーム中では一ケ所に留まってのレベル上げの時に重宝する魔法だったけれど……現実なら、大規模な部隊を支援するのに使える魔法だろうね。


「い、今のは……!」


 知っているのかメリッサ! と、お約束の突っ込みを心の中で入れる。


「な、何をなさったんです?」

「悪い事はしてませんて」

「悪い事をなさるはずがないにしても気になりますよ」


 ジョナス君は心配症だなぁ。


「儀式魔法をあんなにも容易く……」

「うん? 解るように説明しろ」

「だから……今のは準備に何か月もかけて巨大な魔法陣を描いたり、術士を何人も並べて詠唱の唱和をしたりしなきゃならないものなのよ。それを準備もなく一人で行ったと言えば、それがどれだけ常識外れか兄さんにも解るでしょう?」

「ほー。で、内容は?」

「それは解らないけれど。きっと素晴らしいものに違いないわ!」

「……使えん」


 兄妹の会話を聞いていたジョナスが恐る恐るといった感じで私を見てくる。隠す意味がないので情報開示に応じた。


「大体七日間くらい、傷の回復が早くなったり、疲れにくくなったりします。こういうのなら必要かなと」

「それは――た、助かりますっ! 僕はこれで失礼します!」


 顔を明るくしたジョナスはどこかに走って行ってしまった。作業ペースを上げさせるとか……そんな感じだろうか。

 小耳に挟んだ所によると、七二時間を超えると救助出来る人数がぐっと減ってしまうと聞いたけれど……これでどこまで持ち直せる事か。

 ほんと、戦うよりもその後の始末の方が大変だよなぁ。ディアスの苦労が忍ばれるよ。


 さてさて。

 今のジョナスとの会話でこれからの課題も再認識させられた。

 今回の事で大分顔が売れてしまったし、人の口に戸は立てられないから、コーデリア復活の報も大陸全土に広まってしまうだろう。

 私の行動の自由の為、何らかの対策は考えておかないといけないな。




「目線を動かすと狙いがバレます。見ることなく見るなんて良く言いましたが、常にぼんやり全体を見れるようにしなさい。勿論、敢えて目線でフェイントをかけるのは有りですよ? ローコストな割に効果はそれなりに見込めますからね」


「違います。手元にばかり集中するから他が疎かになってしまう。ただ漫然と動くのではなく、四肢の全て、足の指先から頭の天辺まで自らの意志を込めて、目的を持って動けるように意識をしなさい。今はぎこちなくても、いずれ自分のイメージに体の方が追い付いてきますから」


「自分の武器を良く考えなさい。体が小さいから劣っていると思うのはある意味で正しく、ある意味で間違いなのです。形や色の違いは優劣ではなく個性。弱点を知ることと強みを知る事は表裏一体。ソフィーがこれから成長して、その性質が変化したとしても言える事です。考える事を止めてはいけません」


 ――とまあ。

 こんな感じでお城の練兵場でクローベル師範の特訓は連日に渡って続いた。神秘の泉の効果もあってソフィーは驚異的な粘りを見せた。非常に意欲的且つ貪欲にクローベルの技術を吸収していく。

 私のような素人目にもみるみる上達して行っているのが解るのだから凄い。流石は信頼と実績のレベリング用魔法である。


 私の方はと言えばほとんど本調子に戻っていたが、泉の効果がソフィーにこれだけ濃密な時間を与えてくれるのなら、効果が切れるまではここにいようかなと、少しだけ予定変更を余儀なくされた。

 で、こうして今日も二人の特訓を見ながら魔力操作の訓練とかを黙々こなしているわけである。


 私も負けないように頑張らないとなぁ。空間カードの使い方も盾だけじゃなく色々考えてるんだけどね。

 例えばこうして片方を地面に設置しておいて……トラップとして使うとか?


 因みに、空間カードの扱いと維持には結構集中が必要だ。

 断章化させる意を込めた魔力と解放する意を込めた魔力を拮抗させてやるわけである。

 ここで加減を間違えると断章化が解除されてしまったり、カードに突入するはずの物体がカードを押しのけるだけになったりしてしまう。

 重要なのはとにかく魔力を統率・制御する意志力である。


 因みに作った空間カードを手元から離せる距離は五メートルほどが限度。魔力による遠隔操作で空間カードを作るのに至っては手元から離れると作成すら難しく……まあ要するに私の根性だかイメージ力だかが足りないようだ。


 しかし私も知らなかったとはいえ、こんなピーキーな物、よくぶっつけ本番で使おうなんて思ったものだ。今から考えると怖いね!


 片方にナイフを刺して見ると離れた場所から刃が飛び出す。手品みたいで面白い。

 二枚とも地面に置いてナイフを刺してから手を放してみたら、柄側と刃側の重さの釣り合いが取れる所で静止した。楽しい光景だ。


 その光景を眺めていたら何やら眩暈を覚えた。天秤ゲージを見てみると魔力が目に見える勢いで減っている。うわ。これアクティブ状態の間ずっと魔力削られるの?

 しかも双方向にトンネルしてるので、種が割れると逆利用されてしまう危険性が。割合諸刃の剣だなぁ。


 ふーむ。

 じゃあこんな事をすると?


「あれ――?」


 いや、ちょっとした思い付きと出来心だったのだ。ナイフを突っ込んだ状態で断章化を解除したらどうなるのかなーって。

 結果、音もなくナイフが真っ二つになった。切断面は……物凄く滑らかだ。


 念の為に鉄やら鋼やらも突っ込んでから試して見た。材質がなんであれ結果は同じだった。

 え? え? 空間切断? なにこれこわい。

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