19 現代知識×最新鋭素材=最強兵器?
質の悪い鉱石と共に、使い道が解らない鉱石がそのまま乱雑に積まれ置かれている。
所有権は譲ってもらっているのでガンガン断章化していく。素材化して不純物を分離し、高品質の鉄鉱を取り出していく。
が、正味の話、目的は鉄鉱ではなく不純物の方にある。
プリンセスグリモワールの素材化は主人公の知識に依存する部分が多く、素材として認識していないなら分離できずに鑑定不能のゴミとして消費されてしまう。しかもSEとして還元はされず、天秤システムでプールしているマナの補助に使われるだけなのだから非常に勿体無い。
だからこそ素材化は気軽に……ほとんどノーコストで出来るものなのだけれど。
だがしかし、である。そこはプリグリをやり込んだ私の話。
当然この鉱石の山から希少な材料をゲットしまくれる、というわけだ。
早速素材化して分離して見ると、結構な量の不純物がそのまま残った。
失敗、ではない。
ここから更に合成術式を行い、素材を精製しなければいけないのだ。ぶっちゃけた話、合成術式なのに高精度な分離精製も出来るというのは名前詐欺だと思う。
見てみると相当難易度の高い術式になるようだ。
術式の難易度が上がってくると音ゲーの失敗は品質低下ばかりか、マナに還元されてしまって素材消失という事も起こってくる。この難易度のラインはそこを遥かに超えている。ほとんど最高難度と言っていい。
あれ? おかしいなぁ。こんなに難易度高くなるなんて思っても見なかった。何か貴重な素材でも紛れ込んでる?
まあ、いいか。難易度に見合う物が分離できるって事だろう。
一発勝負だ。集中しよう。
――よし。
………。
やたら同時押しだのズラし押しだの連打だの、難度の高い操作が要求された。
完璧とは言えないまでも及第点ではあるだろう。それでも何割かは消失してしまったようだ。天秤システム側でもプールマナが二割程削られているな。合成術式でこんなに負担がかかるのなんて初めてだ。
結果は、ウォーターメタル、ライトメタル、ブラックメタルにミスリル銀……おおっ。素晴らしい。微量ながらオリハルコンも……マジですか。
ううん。漲ってきた。というかテンション上がってきた。
――んっ? なんだこれ?
思わず目を擦ってリストに並んだ文字を二度見してしまった。
クロム、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、ニッケル……当然プリンセスグリモワールのゲーム中には存在していなかったはずの素材群が燦然と並んでいた。
どういう事だ?
私の知識で分離したからこちらの世界では未だ発見されてないものまで分離しちゃったって事……か?
……。
やばい。美味し過ぎる。
笑い出したくなるのを堪えて武器製作に移る事にした。
実はここまでが前準備なのである。どうせ作るなら徹底的にだ。
買い取った石炭からグラファイトや硫黄やらを作っていく。これは加工用に必要なものだからとりあえずこのままで。鉄に炭素を混ぜて鋼鉄を作ったりする為の素材なのである。
今まで得た材料を元に……まずはクローベルの武器をバージョンアップさせてしまうか。ゴブリンやウルフから分離出来る素材じゃ彼女の武器は全く強化なんて出来なかったし。
合成術式でアイテムを作る場合であるが、使いたい素材を選んでいく普通の合成方法と、作りたい物から素材を逆引きして合成する方法がある。
私は逆引きからウーツ鋼のショートソードを選択した。作るのに必要な素材が表示され……うん。大丈夫そうだ。
合成術式の難易度もかなりのものだが先程の分離精製に比べれば大した事は無い。
これならほぼパーフェクトな精度で合成が出来るだろう。
出来上がったのは複雑な縞模様が浮かぶ、美しい刀身のショートソードだった。
ウーツ鋼。そう。別名をダマスカス鋼という。
「クローベル。ちょっと振ってみてくれる?」
「これは――」
「問題がありそうなら調整するから教えてね」
「はい」
クローベルはダマスカスソードを二、三度振り、納得したように頷いた。
「良いと思います。ですが、私が頂いてしまってよろしいのですか? これだけでも一財産ですよ?」
と言っても、大した元手は掛かっていないんだけどね。それにゲーム中ではクローベルはもっと良い物を装備してたじゃないか。
「使える人に使ってもらわないと作った意味が無いわ。鞘も合成したから使ってね」
「――ありがとうございます」
大事そうにダマスカスソードを掻き抱く。気に入ってもらえたようで何よりだ。
皆の装備も更新しよう。素材を鋼鉄やチタンに変えたり、魔法杖にミスリル銀の芯を通したり。
さらに。ここから現代知識の恩恵で得る事の出来た希少金属を使って好き放題する事にした。
戦力強化の為に私が構想しているのは、ずばり戦車だ。戦車を作ろう。
これらの素材があればきっとすごいのが出来るぞ。防御力も攻撃力も、この世界の常識を遥かに超える兵器になるだろう。
色々な素材をこねくり回す。
車体の骨格部は炭素繊維を使って軽量化と強靭さを両立させた。
重量と攻撃力は直結しているのでその分装甲に鋼鉄を使い重量を稼ぐ。表面をタングステンでコーティングして耐蝕性、複合装甲として炭素繊維に炭化タンタルを編み込み、ケタはずれの耐熱性を確保する。
サスペンションを入れて居住性や操作性の確保、その他様々な機構を組み込み、オーバーテクノロジーを随所に満載した凶悪な兵器が遂に異世界に産声を上げた。
そう。どこに出しても恥ずかしくない、三人乗りの戦車である。
完成と同時にモンスターカードが解禁された。
これだ。これが欲しかった。
ランク18 レア ゴブリンチャリオット(古狼)
『戦果は――目を見張るものだった。氏族一の知恵者が半生を費やした努力の結晶も、たった一度の突撃で敵拠点諸共粉砕されたほどである』
とても楽しそうに戦車で突撃しているゴブリン達。活き活きしてるなぁ。
……仲間も轢き潰してるけど大丈夫か?
ゴブリンライダーより小回りは利かないのだが、防御力と攻撃力は上だ。
ゴブリンにチャリオットという組み合わせ。信頼と伝統のっていう感じだよなぁ。
何せ、某有名アーケードゲームではゴブリンなのに一面ボスに抜擢されたからね。私は生憎アーケードでは触れられる世代ではなかったが、こいつに煮え湯を飲まされた諸氏も多いのではないだろうか。
閑話休題。
突撃用のランスが前面に三本装備されている。何とランスの先端は贅沢にもオリハルコンだ。
微量過ぎて使い道がここぐらいしかなかった、とも言う。ゴブリン戦車の部品にオリハルコンを使うなんて、世界広しと言えど私ぐらいのものだろう。
ランスチャージの後は御者が手元のレバーを引くと、それだけで固定具を外せる仕様になっている。ランスが根元から外側に向かって可動させられるので、刺してから方向転換してそのまま轢き逃げ、なんて事も可能だ。
ゴブリン一の知恵者製よりは大分頑張っているので、突撃ぐらいではバラバラにならない……と思う。
見た目にも拘った。前面装甲に施されたファンキーなドクロが最高にロックである。
あのドクロは単なる飾りではない。目の部分にミスリルの銀線が通してあり、ここから魔法が撃てる仕様になっている。
同じ仕掛けを施したトゲが前後左右にも装着してあり、ゴブリンシャーマンは車体の奥の安全な場所に陣取りながら、全方位への魔法攻撃が出来るという寸法だ。機能美と造形美を兼ね備えた、素晴らしいギミックである。
あれ……? でも冷静になって考えてみると不思議だな。
現代知識と最新素材で無敵の兵器を作るはずが、何故か歴史上騎兵に負けて姿を消したチャリオットに化けていた件。
時代を逆行している……。おかしいなぁ。どうしてこうなった?
……まあいいや。
あ、チャリオット自体は最高の出来だが、まだ不満もある。牽引出来るのは今のメンバーじゃオールドウルフだけな事だ。
召喚枠四つを一枠に纏められるのは美味しいのだが、シルヴィアの小回りが利く機動力を殺しちゃうのは如何にも勿体無い。
正式な牽引役を誰にするかは後で考えよう。馬系のモンスターは付加価値があるだけに消費SEもでかいし。
しかし馬かぁ。
今はまだいいけど、普段使いの馬車も必要だよねえ、旅するとなると。
ちゃんとサスペンションが付いててクッションがあってゴムのタイヤで……長時間乗っても臀部にダメージを負わない奴がいいな。
鍛冶屋で充実した時間を過ごした後は木材やロープや天幕などの資材を買い付けた。これで色々工作が捗る。
馬車やテントがあればかなり旅が楽になるからね。他にも色々考えている物はある。今晩寝る前に色々作ってみよう。
――買い物と合成に勤しんでいたら図書館が閉まっていた。
うん。明日こそ必ず、ね……。




