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11 モフリスト&モヒカニスト

 驚愕に目を見開いたオールドウルフが次の行動に移ろうとするも、それより先にクローベルが動いていた。

 全身から光のオーラを立ち昇らせる。あれは――EX(エクステンド)の発動か!?


 後方宙返りをしながらショートソードを猛烈な勢いで投げつける。それと同時に木の幹を蹴ってオールドウルフに向かって肉薄した。その様はまるで、巨大な一本の矢が放たれたかのようで――

 切っ先がオールドウルフの体に触れた次の瞬間、追いついてきたクローベルの爪先がショートーソードの刀身を押し込んでいた。狙いは脊椎。押し込みながら、全身の関節の連動で捻りを加え、抉る。捻りながら、反動で飛ぶ。大技も大技。しかもエゲつのない殺し技だ。

 それが止めになったらしい。その巨躯が光の粒子になって消えた。


「なん……ていう……」


 ああ、いけない。呆けている場合じゃない。

 何やらとんでもない大技が飛び出したので呆然としてしまった。

 当然ながらあのウルフは私の仕込みである。

 名前はアッシュ。由来は灰色の毛並みからだ。


 何だか私ってば同種を利用した騙まし討ちばっかりやってる気がするな。あんまり余裕がないのも事実なんだけど。

 わざわざ敵方の狼の死体を利用して血塗れにさせたのは、怪我をしているように見せかけて油断を誘ったり、臭いを解らなくしたりといった意図の小細工であったが、殊の外上手く行ったようだ。

 他の狼達はオールドウルフが倒れた時点で散り散りになって逃げていった。


「お疲れ様、みんな」


 労いの言葉をかけて仲間の損害を確認していく。ヒールの出番はなさそうだ。

 オールドウルフに統率された群れなんてヤバいかと思ったが、クローベルが完全に抑えてくれたからな。こちらの戦力を完全に見誤っていたようだし、何にせよ怪我が無くて何よりである。


「最後の技、凄かったわ」

 

 エクステンド。戦闘を続ける事でゲージが溜まっていき、ゲージがMAXになった所で解放、その後の行動を一度だけ大きく底上げ出来るという戦闘システムだ。

 召喚モンスターが敵との戦闘を行う際、消費された余剰なエネルギーはグリモワールが回収していくそうだ。で、それがある程度溜まったら一時的なブースターとして使用出来るっていう設定だったかな?


「マスターの作戦が伝わっていましたから。アッシュが動きを止めてくれると信じていましたので」


 クローベルは、そう言って微笑んだ。


 アッシュが尻尾を振りながらカードを咥えて持ってきた。なんだか急かされているような気がする。

 うん。そうだな。アッシュにとってはこいつがゲーム時代に自分を統率していたリーダーを召喚してくれるキーカードになるわけだし。


 レア ランク12 オールドウルフ

『逃げても逃げても茂みを揺らす追跡者は途切れない。ここは獣の楽園。彼の王の領地』


 満月をバックに、丘の上から森を睥睨するオールドウルフの絵だ。

 因みに現在の所持SE二六三三。オールドウルフ撃破時に得られたSEは二五〇〇。

 多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだと思うが、シャーマン撃破時の五〇と比べて桁が違うのはアンコモンとレアでは計算式が違うからである。これがレジェンドとなると更に跳ね上がるが、あの赤竜クラスまで行かないとレジェンド扱いはされないだろう。


 閑話休題。

 手に入れたのなら即召喚である。名前はシルヴィア。由来についてはアッシュと同じ体毛と思わせておいて、花言葉「家族愛」の意味を持つサルビアもかけた言葉だ。

 実はオールドウルフも初期選択モンスターの内の一体なんだな、これが。そういう意味でもクローベルと「同格のレア」なのである。


 群れを持てなかった巨大狼ががけ崩れに巻き込まれて怪我をしてしまう。そこを主人公が召喚して保護する、と言う所から始まるのがオールドウルフのクエストである。

 群れ――家族に憧れていた銀狼だから、主人公と家族として一緒に居られるようシルヴィア、と名付けたわけだ。


「おかえり、シルヴィア」


 シルヴィアは大きな体をコンパクトに纏めて行儀よく鎮座している。俗に言うおすわりの姿勢だ。近付くと、軽く頭を擦り付けられた。

 ……良ーい毛並みだ。ツヤツヤでもっふもふだ。モフリストには堪らん逸品である。この圧倒的もふもふ度、是非ともソフィーにも堪能して頂きたい。


「これから森を抜けるんだ。あの子(ソフィー)を背中に乗せて行ってくれないか?」


 シルヴィアは頷いてソフィーの所へ向かった。ソフィーは私とシルヴィアを見比べ、恐る恐るシルヴィアの体に触れる。その素晴らしい感触に少し驚いたような表情になって暫く無心に撫でていたが、やがて顔を埋めたり抱きついたりするようになった。うむ。


 心の中でガッツポーズを取る。気に入ってくれたようで何よりだ。

 そういえば日本から持ち込んだキャンディが余っていた。

 ソフィーに飴ちゃんをあげるのは勿論だが、みんなにも振舞う事にしよう。そうしよう。



 皆がキャンディに舌鼓を打っている間に戦力の強化を進める事にする。私はユーグレの肩に乗ってグリモワールを弄っていた。

 まずは……天秤の確認をしておくか。


 グリモワールは通常の召喚魔法とその維持にかかる魔力コストを術者に代わって代行、消費している。

 消費するマナはどこから来るのかと言えば、地脈から星の力を集めて吸い上げているのだそうな。チャージ魔法もこの星の力の利用である。


 その吸い上げる力と、消費する力の釣り合いを示すのが「天秤システム」である。片方の秤には本、もう片方には魔物マークが乗っている天秤だ。


 今は本の方が重い。要するに補給されているマナの方が多い、という事になる。

 当然、自分の居る場所と召喚しているモンスターの存在規模によって、この天秤のバランスは変わってくる。


 天秤の下には二つのバーが表示されている。青いバーがグリモワールのプールしているマナゲージ、赤いバーが私の保有するマナゲージというわけだ。青バーがなくなると赤バーに負担がくる。


 これが両方とも枯渇すると主人公は気絶状態となる。しかも召喚しているモンスターの能力にも低下補正がかかってしまうので、枯渇は可能な限り回避すべきなのである。


 天秤システムが表示されていると言う事は、この辺もゲーム中の扱いに準じるのだろう。注意しなければいけない。


 グリモワール側の処理能力上の問題で、常時召喚は六体まで、という縛りもある。それ以上になると天秤のバランスが悪くなるのだとか。

 その辺りのリミッターを解除する事で大量召喚を可能にする軍勢(レギオン)モード発動なんてイベントもあったっけな。


 ……デスペナルティについても言及しておくか。あくまでゲーム中の話だからと前置きするが、基本的には召喚モンスターは殺されても復活が可能だ。

 だが復活までランクに応じた待ち時間が必要になるし、その間天秤ゲージのバランスも悪くなる。シナジーを狙ってパーティー構成が極端になればなるほど崩された場合の戦闘中のリカバリーが難しくなる、なんて事もあるのだ。


 とは言え現実化してしまった以上デスペナルティについてなんて検証する気も起きない。だって、死なない「かもしれない」から死んでみろなんて言えないだろう。


 召喚モンスター側が経験則から「自分達は死なない」と思っていたとしても、その言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。現実とゲームの境界が曖昧で、どういうカラクリでこうなったかも解らない以上、今まであったルールが何時どこで変わっているか分からないのだから。


 疑いだしたらキリがないけれど、仲間の死は私の全身全霊を以って避けなければいけないだろう。その方針に変わりはない。


 ……天秤の方は今の所問題なさそうだ。折角ウルフとゴブリンという組み合わせがあるのだし、召喚枠削減を考えて見よう。

 

 アンコモン ランク8 合成術式マスタリー

『三原質を混ぜて飲めば体の中で霊薬になると思ったじゃと!? 馬鹿者めが! すぐに吐き出さんか! ――或る錬金術師の工房にて』


 フラスコを持って喉を押さえる弟子を叱る、白髭のおじいさんの絵である。このフレーバーが気になって調べて見た事があるのだが、三原質と言うのは錬金術で言う所の水銀、硫黄、塩の事らしい。

 ただしこれは現実にある素材の事を指さず、錬金術の思想や理論、概念に関わる言葉のようなのだが……このお弟子さんは多分これらの素材を生のまま混ぜ混ぜして()ったのだろう。

 ……うん。何にせよお弟子さんはご愁傷様という事で。


 消費二三〇もするこのマスタリーだが、SEが余っている内に習得してしまおうと思った次第である。

 これを習得しているとダブったモンスターカードの有効活用が出来るのだ。

 つまり、素材化(マテリアライズ)により資源ごとに分離した後、合成術式で道具を作りましょうというわけである。

 師匠さんも大慌てをしている事だし、まさか体の中で直にミキシングするような代物では無いと信じたい。

 現実化したからって……大丈夫だよな?


 ゴブリンカードを素材化し、ゴブリンの身に着けていた装備品を材料に皮の鞍、鐙、手綱などを合成する。

 因みに合成の過程は私の胃の中ではなく、ちゃんと魔道書内部で行われるようだ。それは別に良い……のだが。

 何故だかゲームの仕様が残っていた。このグリモワールほんとに何でもありだな。


 要するにミニゲームである。十字キー、ボタン、LRトリガーの組み合わせを、練成陣画面のアクションとリズムのお手本に合わせてタイミング良く押していく、みたいな内容である。


 音ゲーで遊んでるだけなのに便利な道具が出来るなんて、こんな仕様で簡単に合成出来てしまって許されるのだろうか。いや、許されまい。

 だってお前(グリモワール)、実は全自動で出来るだろ? 私を有無を言わさず人体改造したぐらいなんだから、こんな難度の合成わけないだろ? ん? どうなんだ?


 作る物の難易度(ランク)が上がってくると結構シビアなのだが、まあ騎乗用の装身具だからねえ。

 五年もこれで遊んでいる私がミスをするはずもない。音ゲーの成績が良いと作った道具の性能が良くなる。

 あっという間に合成ユニット用キーアイテムの出来上がりである。


「リュイス。これをアッシュに付けてね。二人で戦えるように騎乗にも慣れておいて」

「かしこまりやした姐御!」


 笑顔で受け取ってアッシュに鞍を取り付け始めるリュイス。合成ユニットが断章化されるわけではないが、グリモワールのカードリスト側ではちゃんと追加されている。


 アンコモン ランク14 ゴブリンライダー(狼)

『ゴブリンの行う狼の世話は実にユニークで献身的である。時に自分の血肉を振舞うのだから』

 

 ゴブリンとウルフの合成ユニットであるが……乗るって言うか必死にしがみついてるだけだよね、この絵。

 お前達は仲良くしなさいよ?


 ……素材が余っている。ゴブリン用の防具でも作るかな。

 どんなのがいい? と聞いたらリュイスには鋲とトゲがついたタイプ、と返された。

 ……荒廃した世紀末でヒャッハーしたいのかい君は。

 似合うから止めておきなさい。「良いゴブリン」に見えなくなってしまう。いや、確かに似合うしリュイスの希望だから作る。作るけどさ。仕方ないなあもう。


 ユーグレは特に注文はないようだ。皮鎧に大盾でも持たせるか。……デザインどうしようかな。んー、思いつかない。リュイスと統一で。仕方が無いよね。それしか思いつかないんだから。うん。


 マーチェはドクロと黒マントだそうな。敢えて何も言うまい。作りましょう、ドクロと黒マントを。


 ああ、そうだモヒカン! モヒカンヘルムを作ろう、モヒカンヘルム! きっと似合うぞ。

 モヒカンて何? と言う顔をされたので、モホーク族の戦士のみが許される髪型をモチーフにした兜だと言ったらとても喜んでくれた。うむうむ。そうだろう、そうだろう。


 音ゲーは当然のように最高得点を叩き出した。ここからタッチペンでオブジェクトを配置したり、カラーリングを変えたりしてアレンジを加えられるのだ。腕の見せ所である。


 これはゲームの時の話で全くの蛇足なのだが、カスタムメイドのアイテムを交換品として設定しておくとゲーム機同士の通りすがり通信やQRコードによって、他の人が作った同格アイテムと交換したり、貰えたりもする。

 今は望むべくも無いけれど、他の人のカスタムメイド品を見ているのはかなり楽しかったっけ。コンプまでの五年の間に、通りすがれる人も段々いなくなっちゃったんだよなぁ。寂しい事だ。


 三人の防具一式を揃えてもまだ材料が余っていたので武器も魔改造だ。ナイフにトゲ付きナックルガードを付け、棍棒に有刺鉄線を巻く。マーチェの大杖は魔法用の発動体である為、必要な素材がなくて手を付けられない。残念だ。


 早速フルセットで装備させてみる。出来上がりは中々に満足の行くものになった。

 おや? こんなに良い出来なのにクローベルはどうして目を逸らすんだ? え、何? そういう奇抜な物を突発的に作るのはコーデリア様と変わらないのですね、だって?

 むう。ソフィーは平常運転なのにな。感想を聞いて見たら「変」と言われた。



 シルヴィアがいてくれる事で、森の脱出がかなり捗った。

 森で見かける危険度の高い生き物を挙げるなら、リザードマンやワーム、熊と言った面々なのだが、こいつらシルヴィアを見かけると即逃げていく。

 オールドウルフもこの辺なら生態系の頂点に立っていてもおかしくはないからな。竜は流石に例外としての話だけれど。


 連中を倒せば断章化出来るのだろうが、逃げる相手を追いかけてまで断章を手に入れるというのもどうかと思い、そっとしておく事にした。

 要するに、強面は絡まれないという話である。


 シルヴィアの威圧に加えてソフィーの道案内もあったので、私達はそれから二日ほどの時間をかけて、ようやく森から脱して街道らしき場所に出る事が出来た。

 ここから道を辿っていけば、いずれ人里に辿り着くと思う。辿り着くといいな?

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