彼女といじめられっ子といじめっ子
どうやらストーカーというものは、どこにもいるようで、久田條二にもストーカーがいたようだ。
さらに、そのストーカーが私と久田條二のことを誰かに漏らしたようで、あらぬ疑惑を呼び起こし、教室に戻ると九条霧子が睨み付けてきた。
話が広まるのは早い。改めて実感しながら、九条霧子のことなどこれぽっちも気にしていないふりをし、早稲泉に近づく。
今の『私』は、友人を守ることに熱意を燃やしているのだ。
「泉ちゃん!これから一緒にいよう!」
唐突な言葉に早稲泉は驚く。きっと、教室の全員が驚いている。だって、いじめられっ子にそんなこと言う奴はいない。
現に早稲泉だっていぶかしげに私を見る。
「どうして・・・」
私はそっと、早稲泉に耳打ちした。『私』はたまには空気を読むのだ。
「彼氏さんにね、泉ちゃんと一緒にいてやってくれって、言われたの!」
そして、そっと離れて、
「大丈夫!私にまかせなさ~い!」
と、どんと自信満々に自分の胸を叩いた。
そこに、九条霧子が近寄ってくる。
意地悪げな笑みを浮かべ、私と早稲泉を見る。
「早川、いきなりそんなこと言いだして、どうしたのよ?さっき、條二と何か話していたみたいだし」
早稲泉は、委縮した。けれど、私は持ち前の明るい、能天気な笑みを浮かべ、九条霧子に自慢げに言った。
「フフー、実はですね、泉ちゃんの彼氏に、泉ちゃんを守ってほしいと言われまして」
九条霧子の眉尻が上がる。気に食わないとばかりに。
「だから、ずっと一緒にいようって、泉ちゃんに言ったの」
早稲泉に振り向けば、青白い顔をしていた。
九条霧子は鼻で笑う。
「ふーん。誰からこいつを守れって?」
私は首をかしげる。
「・・・そういえば、聞いてなかった」
九条霧子は、バカにした笑みを浮かべる。
「やめときなさいよ、こいつと一緒にいるなんて、一緒にいじめられるかもしれないわよ」
その言葉に、私は首をかしげて、唸る。
「でも、約束したし、それに友達を放ってなんておけないよ!霧ちゃんも、良かったら一緒にいようよ!」
九条霧子は鼻で笑って、「一応言ったからね」とだけ言い残し、去っていった。
私はいじめっ子が九条霧子だということを知っていた。知っていたが、『いじめっ子が誰か知らない私』は、九条霧子にも無邪気に笑いかけ、言う。
内心、冷や汗ものだった。
本当に、面倒事が次から次へとやってくる。予想した通りだ。
九条霧子に、目をつけられた。