彼女と久田條二
後日、予想外な人物に捕まることとなった。最近、予想外なことばかり起こる。
早稲泉の彼氏、久田條二に捕まった。掃除の時間、校舎裏の、ゴミ捨て場。
こんな奴と二人っきりでいるところを見られたらたまったものじゃないと、内心焦る。
今すぐこの場から去りたい。けれど、彼が誰であるか知らない『私』には、この場を去る理由はないのだ。
呼びかけられたから、立ち止まって、彼と話している。今は、そういう状態なのだ。
「あんたのこと、泉から聞いた」
その言葉に、私は不思議そうに「はぁ」とうなずく。そして、ちょっと笑って
「あなたは、泉ちゃんの彼氏君ですよね。ほら、前にちょっとだけ会った」
その言葉に、久田條二は頷く。そして真剣な様子で、私を見返した。それに、私は嫌な予感しか覚えなかった。
「あんたに、頼みたいことがある。俺がいない間、できるだけ泉と一緒にいてくれないか?」
その言葉に首をかしげる。
けれど、本当は嫌で嫌で仕方なかった。なんてめんどくさいんだろう!
彼が言っていることは分かっている。いじめられないように、常に早稲泉と一緒に居ろってことだ。
そんなの、面倒くさくて仕方ない!大体、いじめられて欲しくなければ、あんたが早稲泉と別れればいいのだ。それですべて解決する。それでも、それをしないというのは、ただの偽善だ。自己満足だ。あんたは、早稲泉のことより、自分が大切なんだ。
心の中でそう罵りながら、私は訳が分からないふりをする。
「? どうして?」
「お前、泉が嫌がらせを受けていることは知っているだろう?」
その言葉に、私は驚く。
「嫌がらせ!?」
久田條二は呆れたようで「知らなかったのか」と言う。
確かに、早稲泉がいじめを受けていることは有名な話だ。先生も知っているかもしれない。
彼は溜息を吐いた後、改めて私に言いつけた。
「だから、泉と親しくしてくれるお前に、泉を守ってもらいたい」
まるで人を、ボディガードのように。私にも忠犬になれと言うのか。
けれど、『私』には断る理由もなければ、むしろ友人が嫌がらせを受けていることにショックを受け、進んで守ろうとするだろう。
それが、『能天気で平和ボケした天然の早川京子』なのだ。
「うん!・・・・今まで気付かなかった分、泉ちゃんを守るよ!」
そう意気込む私に、久田條二は満足したのか、さっさとこの場から離れていった。
そのことに内心ホッとしながら、今まで無関係でいたかった面倒なことが私を待ち構えていることを、嫌でも予感しなければならなかった。