彼の本性
最終話
あの後、早稲泉はこっそりとジャージに着替えると、そのまま隠れるように帰宅した。手慣れた様子に、憐憫の情を抱いた自分に内心驚いたが、口に出すようなことはしなかった。
少し明るくなった彼女を見送り、さて、と考える。
これはきっと、いや絶対、口が裂けても本人に言うことはないだろうが、正直なところ、俺は彼女の馬鹿さ加減、と言ったら語弊があるが、彼女の自分を貫き通すところが、羨ましいと思った。
いつも人のペースに合わせて、イメージを作ろうとする俺には持っていなかったものだ。
今更自分を貫き通すような根性はないし、同時に貫き通したいと思える自分もないことに気付いた。
だから彼女が羨ましくて、そんな彼女を揺るがすものが、少し憎たらしく感じた。
せめて彼女のその意思を貫かせてあげたい。珍しく、そんなことを考えて、俺は自分のその意思を、尊重してみることにした。
いじめの主犯である九条霧子に話しかける。
特別仲が良いわけではないが、見目はいいと噂される俺に話しかけられた九条霧子はうれしそうに反応を返す。
内心そんな彼女を嘲笑いながら、人の良い笑みを絶やさず、彼女に提案した。
「ねぇ、俺と付き合わない?」
唐突な提案に、九条霧子は驚きを浮かべながら顔を赤くし、慌てていた。
「は?え?本気で言ってんの?マジ?」
俺が頷けば、彼女は二言であっさりと了承した。
もういじめる暇もないくらい、こき使ってやるよ。
そんな思惑も知らないまま。
偽善者の彼
これにて終わりです。




